インダストリー4.0提唱国ドイツのAI・IoT導入事情

2016年の後半に、米ホワイトハウスは、AIと自動化および経済に関する報告書『Artificial Intelligence, Automation, and the Economy』を発表しました。この報告書は確かな調査と予測に基づいており、政策に関する提案はどれも信頼できるものばかりです。以下は、報告書の序文から抜粋した枠組みの一部です。

「AI主導の自動化により、今後何年にもわたって富が生み出され、米国経済が拡大することが予想される。しかし、多くが恩恵を受ける一方で、その成長にはコストがかかり、労働者の経済的成功に必要なスキルの変化や、経済の構造的変化を伴うだろう。それらの変化によって不利益を被る米国人を救済し、AIと自動化による膨大な恩恵を全員で生み出し、その恩恵が全員に行きわたるようにするには、挑戦的な政策措置が必要になる。」

これはつまり、AIが富を生み出す一方で、人間に代わって仕事を行うようになり、将来の仕事や経済が一変することを意味しています。

この報告書を読み返しながら、私はドイツや欧州レベルでも同様の政策調査があるのではないかと思い、オンラインでざっと検索したところ、いくつかの情報が得られました。ドイツのメルケル首相がAIのノウハウをまとめることに賛成していることや、欧州におけるAIへの支出が少ないことを認識している証拠、アルゴリズムの透明性を求めていることを示す記述などの情報です。しかし、包括的な指針を示す政策は見当たりません。実のところ、ドイツ連邦政府報道官のシュテフェン・ザイバート氏にツイッターで直接の質問もしてみました。今のところ回答はありませんが、致し方ないところでしょう。

ドイツのテクノロジー政策における実績

他のテクノロジー分野の実績について、ドイツは順調な進展を見せています。例として、自律走行車を見てみましょう。ドイツは、路上で求められる自律走行車の動作についての重要項目を規定した、自動運転に関するアクションプランを採用したばかりですが、これはとても適切なものです。重要項目の1つには、自律走行の推進には価値があると記されており、その理由として、事故の発生件数が減る点や、事故の際に人を傷つけるよりは物を壊すことを選ぶ人命尊重のテクノロジーであること、そして、人身事故が避けられないならば被害者の年齢や性別などによって差別が行われないようにする規定が盛り込まれている点などが挙げられています。また、運転に関する主導権がドライバーにあることも明記され、非常によく練られているといってよいでしょう。

一方で、IoTに関して、ドイツは多くの機会を逃しました。国として「インダストリー4.0」を掲げ、ほぼインダストリアルIoTだけでIoTを構想したためです。このことは、ドイツの経済が製造業中心である点を考えると無理もないのですが、きわめて興味深くかつ将来有望と思える他領域のIoTがほとんど含まれていません。これは明らかに製造業に携わる企業のロビー活動の成果ですが、より包括的な観点から見ると、さまざまな機会を犠牲にしているといわざるをえないのです。

それでは、AIはドイツでどのような立場にあるのでしょうか。正直なところ、政策面では明確になっていないのが実情です。

AIと将来の仕事

AIに関するホワイトハウスの報告書では、将来の仕事、特に将来の雇用について大きく取り上げられています。これは、AIがもたらす重要な変化の1つであるため、理にかなった判断です。その他の変化として、一方では富を創出する機会となり、他方ではアルゴリズムに基づく差別が起こることが考えられます。

いずれにしても、AIが個人の労働力、経済、役割に与える影響は、まだ私たちの推測の域を出ません。

最近行われたハインリッヒ・ボル財団の奨学生との将来の仕事に関するワークショップでは、デジタル、AI、IoTとそれらに関連するテクノロジーが、いかに私たちの働き方や仕事に対する考え方に影響を及ぼすかについて検討されました。特に、きわめて有能な学生や若い専門家から成る多様なグループが、この分野の複雑さを理解しようとする様子は非常に興味深いものだったといえます。彼らが導き出した結論は、この分野のエキスパートが過去にに導き出したものと酷似していたのです。その結論とは、「単純な答えはない」ということと、大きな成果が得られる領域と、大きな損失が発生する領域の両方が生じる可能性がとても高いということでした。

おそらく、かつての自動化がすべてそうであったように、状況によって、AIが人間の労働者に取って代わることも、人間の生産性を高めることもある、と言っておけば、間違いないでしょう。つまり、労働者のなかには、AI(と関連テクノロジー)によって大きな能力の向上を経験する人も、職を奪われる人もいるということです。

リボンファームというユニークなブログで、編集長のベンケイツ・ラオ氏はこの点を非常にうまく表現しています。同氏は、将来の仕事がAIを構成するプログラムの上位か下位のどちらかに置かれるだろうと述べ、「人間がロボットに作業を命令するか、ロボットから作業を命令されるかのどちらかだ」とも指摘しています。それは、ロボット化された倉庫のイメージを思い起こさせる考え方です。

念のために明かしておくと、そのイメージは現代の中国の倉庫そのものであり、アマゾンの倉庫でも同様の光景が見られます。もちろん未来の話ではなく、すでに今、確立されているものなのです。

私は、ロボット化された倉庫の本質的な良し悪しについて考察しているわけではありません。それは、その状況にいる人々がうまくやっていけるようにするための方針によるところが大きいといえるからです。

教育がカギ

さて、欧州での進捗状況に話を戻しましょう。ドイツは、依然としてIoTとAIの意味を定義しようという段階です。一方、中国は、これらのテクノロジーのイノベーションにおいてドイツを大きくリードしています。中国では、IoTとAIの明確な定義と導入が行われてから何年もたっており、その進歩の一例が以下の画像です。そこには、深センの某メーカー内にあるスマートランプが写っています。

このランプは、ユーザーが近くにいるかどうかを検知し、誰もいなければ自動的に消灯する機能を備えており、室内の周囲光の量に応じて発光量を自動で調節してくれます。スマートランプとして、これらの機能は可もなく不可もなくといったところです。完全に時代遅れというわけではないものの、特別目新しいものでもありません。このランプがサムスンやLG、アマゾンなどの企業から発売されたとしても、さしたる驚きはないでしょう。

では、なぜこれが特別なのかといえば、このスマートランプは、小学5年生の児童3人がグループで作成したものだからです。つまり、10~11歳の子どもが、このランプの設計から、プログラミング、組み立てまでを行ったのでした。3人がランプを組み立てることができたのは、中国の現地児童への教育課程に、このようなテクノロジーを開発するためのスキルの育成が組み込まれているためです。欧州ではこのような事例は聞いたことがありません。

人工知能に関するスキルのギャップについても、おそらく同様の状況でしょう。これには、一般の人だけではなく、政府レベルでの準備状況も含まれます。欧州各国の政府は、AI導入に向けての準備が整っていません。

そろそろ欧州も、AIやIoT、ロボット工学への対応準備に取りかかるべきときにきています。先取精神に富むエストニアは、すでにAIを合法化する法律を検討しており、関係する企業を巻き込む賢いやり方で、そのプロセスを進めているのですから。

取るべき行動

ドイツでは、全体的な議論がまだ初期段階にありますが、IoTのときと同じ轍を踏むことがないようにしなければなりません。IoTとAIはどちらも単純な業界の枠を超えた存在であり、「産業」という形容詞が意味するものよりも広く深いものだからです。

この点において、ホワイトハウスの報告書から、特に教育政策に関するヒントが得られる可能性があります。

また、OECDが「積極的労働市場政策」と呼ぶ、大人向けの訓練や能力開発への投資を行う必要もあるでしょう。特に、将来に向けて若者を育成するための、コーディングや、データ分析などの実践的な応用スキルと、賢い意思決定を行う上で状況に応じて臨機応変に対応するための、人文科学や歴史、ディープラーニングを含むより包括的なスキルの両面から、学校の教育課程を見直さなければなりません。

また、入国審査を刷新して、最も有能な人材が欧州に来やすくすることも必要です。そのためには、選挙権の付与も必要になります。有権者の権利を与えられず、税金だけは支払わされるような国に定住しようとする人など居ないからです。

そして、きわめて大局的な視点から、AIの世界を見据えて、社会保障制度の全面改革に踏み切る必要があります。AIが普及した世界では、もはや完全雇用が実現されない可能性があるためです。改革には、産業分野を問わない最低所得保障や最低サービス保障、あるいはまったく別のアプローチが求められることになるでしょう。

さらに、政府と協力して人々の能力育成を進めなければなりません。新たな能力育成を行わない限り、将来に向けての準備を整えるうえで必要なデジタル変革は実現しないでしょう。

ドイツにおける労働力とAIとの統合を推進するにあたっては、いまだ多くの詳細計画が不明なままとなっています。しかし、「そのプロセスに今すぐ取りかかる必要がある」という点について、疑問の余地はないのです。

Peter Bihr氏は、ブティックの戦略、調査、見通しを専門とする企業、The Waving Catの創設者兼マネージングディレクターです。

この記事は、元々Mediumに掲載されたものです。Copyright 2017.

この記事はVentureBeatのWaving CatとPeter Bihrが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。