不動産業界の「すべてを変える」ブロックチェーン

「すべてを変えていきます」——これは、2007年にアップルが初代iPhoneを発表したときのキャッチコピーです。しかし、これはそのまま、ブロックチェーンと、さまざまな業界で変革的イノベーションを実現し得るその可能性にも当てはめることができるでしょう。

ブロックチェーンが牽引するイノベーションの最も成熟した事例としては、銀行・金融サービスや、サイバーセキュリティなどの分野が挙げられます。また、サプライチェーン管理や、保険、医療の分野でも、実現可能なソリューションが生み出されてきました。

一方で、これまであまり話題に上らなかったのが、不動産業界です。この業界の商慣習は不透明になりがちで、顧客の利益を最優先にするよりも自己防衛に走る傾向が強いためかもしれません。しかし、ブロックチェーンなら、確立されたプロセスの拡張や効率向上はもとより、法律改正による後押しがあれば、住宅をより手頃な価格で入手しやすくなる新たなモデルを実現できるはずなのです。

透明性の高いトランザクション

「一般的な」宅地販売では、少なくとも8組の関係者が取引に関わります。土地登記所、買主と売主、それぞれの弁護士と住宅ローンの貸主、住宅ローンの査定者、不動産業者です。それは、他の買主や売主が関与しない「非チェーン型」のトランザクションであると考えることができるでしょう。このようなプロセスでは、トランザクションを次の段階に進めるときに、さまざまな関係者が、誰が何をすべきかを理解しなければならず、処理が必要以上に長引くことがあります。

しかし、ブロックチェーンならば、このプロセスの透明性を高めることが可能です。その結果、あらゆる面で信頼性が高まり、煩雑になるお役所的な手続きが減ることになります。また、契約が自動執行される「スマートコントラクト」なら、取引仲介業者からの譲渡対価の送金と決済が行われる前に、あるいは、銀行への返済や、何らかの所有権の譲渡が行われる前に、必要な処理がすべて実行されるようにすることも可能です。さらに、ブロックチェーンが持つ分散型特性によって、単一の「信頼できる情報源」(通常は弁護士)に頼る必要がなくなり、信頼性の向上、コスト削減、トランザクションの迅速化につながっていきます。

買主と売主が、処理すべき内容をより明確に理解して承認できるようになれば、仲介的役割の一部が不要になるだけでなく、そのすべてがなくなることも容易に想像できます。そうなると、処理を進めるうえで仲介人が欠かせない存在とはならないわけです。

借主の所有権の増大

たとえばイギリスには、初めて不動産を購入する人を後押しする「共有所有権」制度というものがあります。この制度の下で物件の購入者は、その一部だけを購入して、残りの部分については家賃で支払うこともできるのです。借主に資金が貯まれば、物件の所有権を追加で購入することも可能なこの制度は、「ステアケーシング」(階段型)モデルと呼ばれます。

しかし現在のところ、この所有権モデルは厳しい基準を満たす購入者しか利用できず、わずかな物件以外には適用されていません。しかし、ブロックチェーンによって、このモデルをすべての購入者に提供できるようになれば、所有と賃貸に二分化された不動産の現状に改革をもたらすことが可能となるでしょう。

所有者と借主の両者にとって、この制度の魅力は明らかでしょう。物件の所有者が、空室期間や賃貸料、不動産管理コストを気にせずに安定した収入を得られる一方、借主は「我が家」と呼べる場所を手に入れ、思いどおりに内装に手を加えたり、修繕したりできるためです。スマートコントラクトならこれを実現することができ、支払いが所有権のレベルに応じて自動的に調整されて、ブロックチェーンの台帳に記録されます。また、追加所有権の継続的な査定を自動化することも可能なのです。

不動産の分割所有市場

共有所有権を利用した場合でも、現在は法的な制約や実務上の制約があるため、住宅所有者が、たとえば不動産の0.03%を友人に売って資金を調達することや、買主が、所有権のクラウドファンディングなどで金銭的に支援を受けた家族や友人に対して、不動産の出資比率分を供与することができません。また、現在の枠組みの中でも、不動産の分割所有権を実現しようと試みているブリックベストやプロパティパートナーなどのスタートアップ企業はありますが、これらはブロックチェーンを利用した技術ではないのです。

これに対して、為替で企業の株が記録されるのと同様にブロックチェーンベースのオンライン台帳を利用すれば、不動産の個々の出資比率の規模と価値を、セキュアかつ確実に追跡でき、従来のシステムでは避けられなかった複雑さを解消できることになります。

財産権の明確化と資本の解放

ブロックチェーンが不動産業界にもたらす最大のメリットは、おそらく、一元管理された土地登記システムがない国や、土地の登記が不正のリスクにさらされていたり信頼性がきわめて低い国であっても、財産所有権が確立できることでしょう。

不動産において、明確かつ不変的に所有権を主張できる権利証を持つことは、きわめて重要といえます。その結果として抵当貸付が実現し、経済のエコシステムに対して膨大な資本を解放することが可能となるからです。ブロックチェーンは、それが分散型の台帳であるという特性によって強力な抑制と均衡が働くため、行政組織の信頼性が低い市場での経済開発を推進する上で最適なソリューションなのです。この分野では、スウェーデンのスタートアップであるクロマウェイが対応を進めており、同国の土地登記所の協力を得て試験運用を始めています。

とはいえ、住宅所有のしくみや、より広範な不動産業界における大きな変化が、破壊的改革者を意味するディスラプター的な企業の力だけで達成されるとは考えられません。安全かつ確実に新しい所有モデルの導入を促すテクノロジーを採用するには、法律の改正も必要なのです。そして、そのメリットを広範囲に行きわたらせるには、ブロックチェーンイノベーターと業界の既存企業との連携が不可欠になります。だとしても、住宅の価格が高すぎて購入できない世代に関する懸念が西洋諸国で高まる中で、不動産を誰もが手の届くものにできる可能性を秘めたこの破壊的テクノロジーには、大きな関心が集まっていくに違いありません。

Eyal Malinger(エヤル・マリンジャー)氏は、ベンチャーキャピタルファンドBeringeaの投資担当ディレクターであり、「プロップテック」(proptech)分野に強い関心を寄せています。前職では、英国の不動産サービス企業であるカントリーワイドPLCの経営企画・投機担当責任者を務めました。

この記事はVentureBeatのEyal MalingerとBeringeaが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。