編集部ピックアップ

AIとシンギュラリティ

「AI(人工知能)が人間を超える時」として語られることの多いシンギュラリティ。有識者の間では、いつシンギュラリティが訪れるのか、実に様々な予測がされています。急速なテクノロジーの進化は、私たちの生活やビジネスにどのような影響を与え、また私たちはその進化に、どのように向き合っていくべきなのでしょうか。
【Fujitsu Insight 2017「AI・IoTの最先端活用」基調講演レポート】

私たちはAIによる第4次産業革命の中にいる

富士通株式会社
常務理事
グローバルマーケティング部門 首席エバンジェリスト
中山五輪男

歴史を紐解けば、様々な発明が産業革命を引き起こしてきました。第1次は「蒸気機関」、第2次が「電気」、第3次は「コンピュータ」。そして今、「AI」が第4次産業革命を起こそうとしています。では、これからの数十年でどのような未来がやってくるのでしょうか。

この先、私たち人類はこれまで経験したことのないような最大のパラダイムシフトを経験することになるでしょう。このパラダイムシフトとは、テクノロジーが急速に変化し、人間の生活が後戻りできないほどに変容する未来のことです。それを人々は「シンギュラリティ」と呼びます。

レイ・カーツワイル氏が予測するシンギュラリティの未来

シンギュラリティという言葉を広めたのは、現在Google社のAI開発総責任者を務めているレイ・カーツワイル氏です。今から12年前に出版された『The Singularity Is Near(シンギュラリティは近い)』と題された著書には、2010年〜40年代の世界が、最新の技術によってどのように変わっていくのかが描かれています。

彼は著書の中で、2020年代の前半にはAIが高等教育を受けた人と同等の知性を持つようになり、他方では「ナノボットマシン」と呼ばれるウイルスレベルに小さなロボットが医療分野で実用化されると言及しています。また、2020年代後半にはバーチャルリアリティ(VR)が現実と区別がつかないほど高品質になるそうです。

2030年代にはすべての人とビジネスが再定義されるような、大きな変化が訪れると述べています。その変化の要因の一つが、「精神転送(マインドアップローディング)」の成功。つまり、人間もネットワークを通じて脳から直接、思考を伝達できるようになるということです。これは人間がスマートフォンのようにソフトウェアベースになるということを意味します。

「ナノボットマシン」を脳内に直接挿入することで、外部機器を使用せずにVRを生成できるようになり、目で見ている現実世界と脳内のVRが融合する。そんな時代が2030年に訪れるということです。また、脳内へ直接リアルタイムに情報を送り、他人の感覚をリモート体験できるようにもなるとのことです。例えば綺麗なゴルフのスイングを身に着けたい時、「松山英樹選手の脳がスイングの際に筋肉に与えているデータを伝達する」といったことも可能になりそうです。

また2040年代になると、人々は映画「マトリックス」のようにVRの中で大半の時間を過ごすようになります。朝起きて学校や会社に行くのではなく、自分の部屋で頭にナノマシンを注入すると、VRの世界の中で他人と会話したり、ビジネスが生まれる。今では予想もできないような、そんな時代がやってきそうです。

様々な要素が重なりあって、このようなシンギュラリティは実現すると考えられますが、その中で最も重要な役割を担うのがAIです。

シンギュラリティを創る重要な要素

マッキンゼーによるAI導入を成功させる10のヒント

では、これから我々はどのようにAIと向き合っていけば良いのでしょうか。マッキンゼーの調査が示す「AI導入を成功させる10のヒント」を深堀りしていきます。

1. 過大な熱狂を鵜呑みにしてはならない。今のところ、すべての企業がAIを利用しているわけではない

AIブームと言われる昨今ですが、世界的にはAIの導入企業は全体の20%、実験段階の企業は41%とまだ少ないのが現状です。ただし、これらの企業も近いうちに全面導入するだろうと予想されています。特に通信と金融の分野は、AIへの支出を15%増額させるだろうと言われています。

2. AIは売上高と利益を高めうるという評判には、信憑性がある

AIを導入した企業の3社に1社は増収を達成したという結果が出ています。また利益率についても、競合他社と比較し5%超伸びるだろうと述べられています。AIは利益の向上に直接的に影響を与えているのです。

3. 首脳陣のサポートがなければ、AIによる変革は成功しない

AI導入の成功の鍵は、経営陣が「AIとは何か、どのような利益をもたらすのか」について理解すること。成功している企業では、そうでない企業よりも経営幹部からのサポートがあるのです。逆に失敗している企業は適切なサポートがなかったからとも言えます。

4. AIの導入を独力で進める必要はない。協業によってケイパビリティとキャパシティを得よ

自社のスタッフだけでAI導入を進める必要はありません。AmazonやGoogleでさえ、AIスキルの補強のために外部企業とパートナーシップを組んでいるのです。早期にAIを導入した企業の多くは、目的に応じて、外部から適切なソリューションを購入しています。すべてのAIに関するソリューションを社内で開発し、実装した企業は、実は少数派なのです。

5. AIの取り組みを「技術チームのみに任せたい」という誘惑に負けない

社内の技術チームにプロジェクトを任せきりにした場合、本来の利用目的とは異なるAIシステムが導入されてしまうことがあります。利用する現場のことを分かっていない人がAIシステムを構築し、まったく利用されないものができ上がってしまうのです。そのため、現場と技術、それぞれのチームが協力し、プロジェクトを進めなければなりません。

6. AI導入を加速するには、ポートフォリオ・アプローチを採用する

AIの導入には「実証済みの技術ソリューションが存在する用途に」「未成熟な技術でビジネスの主要な用途で実証」「最先端技術で、インパクトの大きな用途に」というように、「短期」「中期」「長期」の3パターンに分けたポートフォリオ・アプローチが必要です。

7. 機械学習は強力なツールだが、すべてに適しているわけではない

AIによる課題解決には「機械学習」を用いることも多いでしょう。しかし、すべてに適したツールはありません。目的に応じて、最適なツールを探す必要があります。

8. AI導入の前に、デジタルのケイパビリティ構築が重要

デジタル化において豊富な経験を持つ企業のほうが、高確率で利益を上げるという結果が出ています。早期にAIを導入した企業は、クラウドデータやビックデータを含むデジタルのケイパビリティにすでに投資をしていて、既にデジタルトランスフォーメーションに成功していることが多いのです。

9. 大胆であれ

大胆で積極的な戦略をとる企業は、戦略を持たない企業よりもはるかに有望な利益見通しを報告しています。

10. 最大の難関は「人」と「業務プロセス」

これからは、何をAIが担い、何を人間が担うべきかを見定める必要があります。プロセスの効率性よりも、最適な意思決定を行う「意思決定マネジメント」が重要です。来るべきAI時代に備えて、従業員の再教育プログラムを導入するべきなのです。

国内600件のAI案件。その中身とは?

次に、富士通の600案件を越える現在進行中のAI案件を元に、具体的なAIの活用法や技術についてご紹介します。

「疾風迅雷」を由来とする富士通のAI「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」のコンセプトは、ヒューマンセントリック。つまり「人間を中心としたAI」です。国内の案件数は既に600を超えています。それぞれの案件に対応するため、「Zinrai」では目的別のAPIを用意しています。交通画像認識、会話翻訳、需要予測、配送計画、人材発注と、様々なプロジェクトニーズに応えられるようにしています。

600件を産業別に分類すると、産業40%、流通27%、公共/地域17%。適用分野の活用は、コールセンター19%、ものづくり13%、ナレッジ活用が12%、需要予測・マーケティング11%、保守・保全9%という状況です。目的別に見ると、モビリティやナレッジ、社会インフラ、ものづくり、保守保全、コールセンターなどがあります。

「Zinrai」の商談分野

AI導入で、企業のどのような課題を解決できるのか

これら数多くの事例を分類することで、お客様の抱えるニーズを見い出し、課題解決のためのメニューを17種類用意しました。その中から具体的な事例をご紹介します。

自然な対話が可能な顧客対応業務システム

日本語特有の多様性や曖昧性に対して、対話履歴から自動的に対話方式を学習する技術です。自然な対話が可能な顧客対応業務システムとして東京海上日動様に導入いただき、その有効性を評価いただいています。

この技術を用いることで、例えば顧客対応時のお客様からの「ハワイに行きたかったんだけど」という言葉を、願望であり本来の目的地ではないと判断し、「ハワイですか、いいですね。ちなみに今日はどちらへ?」と返すなど、自然な会話が可能になります。

AIとの対話型質問応答

保育所入所の割り当て

次に保育所での入所選考の効率化に取り組んだ、埼玉県の某自治体の事例です。今、全国で希望する保育園に子どもを預けられないという問題が存在しています。

これまでは各世帯の年収や家族構成など、様々な情報をベースに、各家庭の子どもをどこの保育所に入所させるか、20〜30名の職員が数日かけて割当作業を行っていました。同じ家族の兄弟にも関わらず、別々の保育所に預けなくてはならなかったりと、割当作業は非常に困難だったそうです。しかし「Zinrai」なら、今まで多くの職員が数日かけて行っていた割当作業をわずか数秒で解決できます。

保育所入所の効率的な割り当て

光ファイバー活用による予兆検知

続いて「社会インフラ」カテゴリの中のメニュー「設備異常の予兆検知」の事例です。機械設備に特殊コーティング光ファイバーをIoTセンサーとして巻きつけ、温度グラデーション表示で熱が発生している部分を可視化。例えば発電所やプランドなどの施設であれば配管の漏洩や目詰まり、腐食など、いつもと違う兆候があるかどうかをAIによって自動検知できるという仕組みです。

設備異常の予兆検知

最先端AIテクノロジー「Deep Tensor」

富士通には「Deep Tensor(ディープテンソル)」という技術があります。60年に及ぶAIの歴史の中で、機械学習が発明され、そのアルゴリズムの1つとしてDeep Learningへと発展し、チェスの世界チャンピオンにAIが勝利するなど、話題になってきました。「Deep Tensor」は、機械学習の中のもう1つのアルゴリズムです。

これまでAIで使用されていたビッグデータは主に数字、テキスト、画像、音声でしたが、「Deep Tensor」の特徴は、人やモノなどの実世界における様々なつながりをグラフ化したデータを使用することができる点です。サイバー攻撃やFintech、IT創薬など様々な分野で応用できます。

マルウェア攻撃への防御

現在、殆どの企業が外部からの不正アクセスを受けていますが、「Deep Tensor」を使用することで、マルウェアの挙動を検知して、グラフ構造で表現することができます。このグラフ化された通信ログから、異常値を発見し、よくあるマルウェアのパターンなのか、危険なものかを判断することができます。

マルウェアの攻撃判別

AI技術による橋梁の内部損傷の推定

トンネルや橋を点検する場合、内部の損傷が分かりづらい場合があります。一見すると、丈夫に見えるコンクリートの柱が、実は内部がスカスカになっているということもあるかもしれません。そこで富士通では、橋にセンサーを設置し、そこから得られるデータから橋梁内部損傷の有無を判定できるAI技術を開発。橋には180ものセンサーを取り付け、センサーが読み取った振動データをDeep learningによってモデル化し、異常度や変化度を算出します。これにより、橋が危険なのか、まだ丈夫なのかという結果が管理者に分かるようにしています。

橋梁の内部損傷の推定

富士通のAI「Zinrai」の強みとは?

富士通では、お客様の様々なニーズに応えることが「Human Centric AI Zinrai」だと考えています。富士通の強みとはどこにあるのか。それはやはり富士通が日本最大のインテグレーション力を持っていることなのだと思います。

富士通のエンジニアはとても真面目で、本当に完成度が高くないとリリースしません。そしてお客様の要望にできる限り応えたいと考えています。現在、国内外の様々な企業がAIソリューションを提供しています。しかし、AIのシステム自体はそれほど変わるものではありません。ベースとなるAIの技術があって、それを要望に沿ってカスタマイズしていく。そこでインテグレーションの力が必要になります。

今は600件の案件ですが、すぐに1,000件、2,000件に到達するでしょう。お客様から「こういうAIを作りたい」「こういうことをやってみたい」など、様々な要望をいただくことで、多様なソリューションを提供し、それがまた課題解決につながります。今は17種類の課題解決メニューも、いずれは30、50と増やしていきたいと考えています。いずれは大企業のお客様だけでなく、中小企業にも、そして全ての人々の暮らしに寄り添うAIを作っていきたい、そう富士通は考えています。

登壇者
  • 富士通株式会社
    常務理事
    グローバルマーケティング部門 首席エバンジェリスト
    中山 五輪男