「時間生産性」の評価導入に踏み込んだ大和ハウス工業の働き方改革とは

「働き方改革」への早急な取り組みが求められている昨今。ICTを導入したもののうまく活用できない、特に労働時間を削減し、生産性を向上させるにはどうしたらよいのか、といった悩みをお持ちの企業も少なくありません。そこで、2010年から進めている富士通の働き方改革の社内実践から得たノウハウと、大和ハウス工業様が取り組む時間生産性を意識した人財基盤強化をご紹介します。
【Fujitsu Insight 2017 セミナーレポート】

本セミナーは最初に富士通の松本国一、続いて大和ハウス工業の山下裕氏の講演の形で進みました。

ICTを活用した「行動改革」で制度と意識の定着を図る富士通の社内実践とは

急速に進行する高齢化、このままでは事業継続が困難に

富士通株式会社
オファリング推進本部
ワークスタイルオファリング統括部
プロモーション推進部
松本 国一

超少子・高齢化社会を迎えた日本。今後40年で国全体の人口は今より3,760万人減少し、労働人口は現在の約6割にまで落ち込むと予想されています(注1)。このような社会環境の変化を背景に、今、国を挙げて「生産性の向上」「長時間労働の是正」といった「働き方改革」が急務となっています。
富士通においても社員の高齢化が進んでおり、介護離職する社員が増える恐れがあります。それらの社員も含めると日本のどの企業・組織でも40年後には最悪、現在の3分の1の人員で事業を継続、拡大しなくてはならないと想定しています。このような状況を回避するためには、「社員の個人の事情と仕事の両立」や「一人当たりの業務の効率化」を推進する取り組みが課題となっていました。

  • (注1)内閣府 平成29年版少子化社会対策白書より引用

制度・ICT・意識改革の三位一体で働き方改革を推進

富士通では2010年より、グローバルコミュニケーション基盤を構築し、国内外グループ会社合わせて16万人の規模でICTを活用した働き方改革による生産性向上の取り組みをスタートしています。

当初、ICTを活用して働き方改革を進めることが可能な以下の6つの課題を挙げました。

  • コミュニケーション強化
  • グローバルでの"知の共有"
  • 場所や時間に捉われない働き方
  • セキュリティ強化
  • 人事労務対策
  • 作業環境/ファシリティ

しかし、単にICTを活用するだけでは働き方改革を実現することは困難です。そこで、目指すべき理想の働き方を社内で共有し「ルールづくりや制度の見直し」「ICT・ファシリティの整備」「社員の意識改革」の三位一体で取り組みました。難しいとされる社員の意識改革については、行動改革、つまり、「自分たちの働き方をどう変えればうまくいくのか、どうすれば効率化できるか考えること」を起点とし、行動を変えるためのICT・ファシリティ・ルールや制度を整備したことが、結果自らの意識改革へとつながりました。このような三位一体の取り組みで、労働生産性を上げるとともに働きやすい労働環境の実現を目指しています。

ICTの活用でコミュニケーションをサポート。無駄な時間を省いて業務スピードアップ

具体的な取り組み内容について、先にあげた6つの課題を「業務の効率化」「柔軟な働き方」「時間管理/行動改革」の3つに分けて紹介します。

まず「業務の効率化」を実現するために、コミュニケーション強化として、文字と音声のやりとりをパソコンとスマホに一元化し、遠隔コミュニケーションを高度化。場所や状況に捕らわれないシームレスな意思疎通を可能にしました。また、グローバルでの“知の共有”に向けては、グループ全体11万人全員にマイサイトと呼ばれる個人サイトを設定。個人・組織・全社の持つ情報やノウハウの共有を実現しました。

結果、例えば今では社内の95%の人がWEB会議を利用するようになりました。これは、当初内線電話機が無くなることで「コミュニケーションのやりとりがむしろ不便になるのでは」という懸念を抱いていた人も、利便性が向上した結果、WEB会議を使うことが当たり前となり、意識(行動)が変わった表れではないかと考えられます。

テレワークを活用し、柔軟な働き方を実現

「柔軟な働き方」を実現する施策としては、富士通では、2017年2月28日に社員35,000人に対してテレワークを導入しました。富士通におけるテレワークの定義は「離れた場所で働く」というもので、モバイルワークやサテライトオフィスを含めた時間と場所を選ばない作業環境を指しています。このテレワーク推進のため、富士通では、テレワーク勤務制度を導入するとともに、時間と場所を選ばない作業環境やファシリティを整備しました。
導入前に、1年半のトライアル期間を設けてテレワークに関する制度を定めました。この制度には就業時間外では働かないことや、周囲の人とこまめにコミュニケーションを取る事が明文化されています。

また、作業環境の面では仮想デスクトップを採用。社外に出る事が多い営業職には、重さわずか約750g、生体認証を活用することでセキュリティと利便性とを兼ね備えたシンクライアント端末「うす軽PC」を配布しました。また、不要な資料を携帯せず必要な場所でセキュアに印刷できる「どこでもプリント」を実現し、フレキシブルな働き方を促進しています。ファシリティ面でも、サテライトオフィス「F3rd(エフサード)」や、外部施設を活用した社外の業務スペースを整備しました。

以上の取り組みにより、社員35,000人の内、現在12,000人がテレワークに取り組む予定になっています。また、汐留本社に設けているサテライトオフィスである「F3rd Shiodome」利用者数は1日平均344人、月の利用者数は6,800人にのぼります。これは、テレワークを支える制度やルール、ICTの環境を整備したことで、社員の行動改革につながった結果と捉えています。

ICTを活用し時間単位の行動改革へ

現在、法制度化に伴い、長時間労働の是正が注目されています。2019年度からは法律上、上限時間が設定されることが想定されています。そこで富士通では、就業時間を担当・管理職それぞれが意識するための仕組みである、「IDリンク・マネージャー」を導入し、時間意識の向上を図っています。次に、このシステムを導入し、働き方改革を進めている大和ハウス工業様に取り組みを具体的にご紹介いただきます。

経営基盤としての「人財基盤」をいかに強化するのか

過重労働を物理的に防ぐ仕組みの導入で職場環境を整備

大和ハウス工業株式会社
人事部
山下 裕 氏

大和ハウス工業(以下、大和ハウス)は、社是として「事業を通じて人を育てること」と「企業の前進は先づ従業員の生活環境の確立に直結すること」を掲げています。そして、生産性を向上するため「人財の育成と人財活用」、及び、「従業員が働きやすい職場環境つくり」に力を入れています。具体的に、以下の3つの大和ハウスの取り組みをご紹介します。

  • 労働時間長時間化の改善
  • 年次有給休暇取得の促進
  • 「時間生産性」基準の評価制度導入

まず、労働時間長時間化の改善についてです。もともと当社の仕事では住宅建築・建設の請負業務が多く、以前は時間に対する意識が希薄なところがありました。残業代についても一定時間の"みなし"労働を入れて支給していたのが実情です。しかし現在では、みなし労働を完全に廃止し、パソコンで出退社の管理を行い、残業は事前申請と承認に移行しています。

定時以降、申請の無い残業をシステムで抑止

この時間管理システムには、富士通の「IDリンク・マネージャー」を大和ハウス用に仕様変更したものを使用しています。このシステムは過重労働を物理的に防ぐ仕組みとして導入したもので、メッセージを無視して時間外の作業を続けるとパソコンを強制的にシャットダウンする機能を備えています。

大和ハウスでは、社員の勤怠記録の管理に「D SMART」というシステムを使用しています。このシステムでは、上司が部下のタイムリーな勤務状況を確認できます。また、時間外の労働時間が36協定(注2)に抵触する危険性がある場合、本人と上司にメッセージを自動送信して長時間労働への警告を行う機能も搭載しています。

これらの仕組みを導入することで労働時間を適性にできるようになりました。さらに、長時間労働に対して、独自の社内基準を設け、改善が見られない事業所は、「ブラック事業所」に認定し、事業所全体に対して賞与の減額というペナルティを課しています。これら取り組みの効果もあって、年間の所定外労働時間がシステム導入前の449時間から365時間と約2割削減できました。

  • (注2)労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者との労使協定において、時間外・休日労働について定め、行政官庁に届け出た場合には、法定の労働時間を超える時間外労働、法定の休日における休日労働が認められます。この労使協定を「時間外労働協定」といいます。なお、時間外労働時間には限度が設けられています。労働基準法第36条に定めがあることから、一般に「36(サブロク)協定」とも呼ばれています。(厚生労働省のホームページより)

時間単位の取得を可能にすることで有給休暇取得率を53.5%に

大和ハウスでは、有休の取得にも独自の制度を用意しています。2005年4月に始めた半日単位の休暇取得を、2010年4月からは時間単位で取得可能にしました。また、2年で時効消滅していた有休を、用途を限定しながらも最大100日まで積み立てられる制度もあります。

さらに4半期に1回必ず有休取得を義務付ける制度、GWやお盆などには一斉に休む計画年休制度、半期に1回ある上司との面談時に有休取得の計画表を提出する制度など、有休取得に関する数々の取り組みがあります。これにより、2005年には18%だった有休の取得率が2016年度には53.5%にまで向上しています。

「時間生産性」及び「業務の平準化」を評価し生産性を向上

残業時間の短縮だけを目指すと隠れ残業などの弊害が起きてしまうこともあります。そこで業績評価を2014年に刷新。「時間生産性」基準の評価制度や、業務の平準化を促す制度を導入しました。「時間生産性」基準の評価制度は、1人あたりの利益によってなされていた評価を時間あたりの利益で評価するものです。以前は同じ利益であれば少ない人数でやった方が高評価となっていましたが、導入後は、少ない時間で達成した部署の方がより評価される仕組みになっています。

大和ハウス工業様における「時間当たり利益」評価の考え方
大和ハウス工業様における「平準化」評価の考え方

以上のように、長時間労働時間の改善、有給休暇取得促進のための制度、「時間生産性」基準の評価制度の導入などの取り組みにより、社員1人あたりの売上が2012年の9100万円から2016年には1億1400万円へ向上しました。さらに1人あたりの年間総労働時間も、2012年の2276時間から2190時間へと減少しています。労働生産性を向上させる、という現場での意識の定着は難しいものです。しかし、生産性を上げることがきちんと評価される仕組みを導入したことで、社員の働き方に対する意識の浸透につながりました。

働き方改革は現場の人のための改革

最後に、再び富士通の松本が登壇し、多くの企業様で働き方改革の導入をお手伝いした経験から、改革の進め方に関するポイントを

「企画から運用までのフェーズを明確にする」
「企画としてどのようなことをやるべきなのか、どうすれば改革ができるかのビジョン化と、いかに定着化、利活用するかを明確にする」とし、

「働き方改革は現場の人のための改革です。現場の人がやりたい働き方、理想の働き方を考えた上でビジョンを立てる必要があります。その上で、それを実現するために現場の社員一人ひとりが何をするべきなのか考えることが、働き方改革をスムーズに進めるために重要です」とまとめました。

登壇者
  • 大和ハウス工業株式会社
    人事部 次長(人事・シェアードサービス・健康管理担当)
    シェアードサービスセンター センター長
    山下 裕 氏
  • 富士通株式会社
    オファリング推進本部
    ワークスタイル変革オファリング統括部
    プロモーション推進部
    松本 国一