AIと量子コンピューティング技術による新時代の幕開け ~デジタルアニーラが未来を切り拓く~

今、AI (人工知能)が活躍を始めています。AIが急激な技術成長を引き起こし、人類の文明に計り知れない変化をもたらすことを、「シンギュラリティ=技術的特異点」と呼びますが、まさに私たちのビジネスでもシンギュラリティに向けた準備が必要になっています。

ビジネスや社会がダイナミックに変化する時代では、これまで以上に高度で複雑な計算を瞬時に行うコンピュータが重要になってきます。そして、その計算を可能にすると言われているのが量子コンピューティング技術です。

量子現象に着想を得て富士通が開発したデジタルアニーラもその1つ。デジタルアニーラとは何か。それを使うことで私たちのビジネス、私たちの社会はどう変わるのかに迫ります。

AI実用化で直面する従来型コンピュータの限界

AIを活用するためには、コンピュータで様々な問題を解く必要があります。これには膨大なコンピュータ資源と時間、そして人材が必要です。

AI時代だからこそ、もっと高速なコンピュータをという声は日増しに強まっています。コンピュータの演算速度をもっと速くするためには、集積回路の密度をより微細化したり、その構造を立体化しなければなりません。これまで半導体の集積密度は、18カ月で2倍になるという「ムーアの法則」の通りに微細化が進んできましたが、最近ではそれも限界に近づいてきました。

ムーアの法則の限界を突破するために

ムーアの法則の限界を突破し、AI活用基盤づくりの決め手の1つとして注目されているのが、これまでのコンピュータの原理とは全く異なる量子コンピュータです。

量子コンピュータの原理は、分子や原子、電子など極めて微小な世界で起こる現象を説明する量子力学の理論です。量子力学の世界では「0」と「1」の2つの異なる状態が同時に出現する「重ね合わせ」という現象が起こりますが、その現象に基づいた「量子ビット」という仕組みを用いると、演算スピードは飛躍的に高まります。

汎用コンピュータと量子コンピュータの違い

しかし、量子コンピュータはまだ研究段階であり、その実現には今後数十年かかるとも言われています。私たちはその実現をひたすらじっと待っているわけにはいきません。ビッグデータを解析して明日の予測を立てること、AIを活用してよりよい選択肢を選ぶことは、今日明日のビジネスに必要なことだからです。

そこで、富士通は量子コンピュータと汎用コンピュータの両者の良さを取り入れた、新アーキテクチャの未来型コンピュータを開発しました。

コンピュータの今とこれから

デジタルアニーラが最適解を瞬時に導く

量子コンピューティング技術の未来を先取り「デジタルアニーラ」

デジタルアニーラは、様々な量子コンピューティング技術の中で、アニーリング方式というものに属しています。アニーリング方式は、後ほど述べる組合せ最適化問題に特化している反面、その演算スピードは速く、使い方はとてもシンプル。従来のコンピュータのようにプログラミングの必要がなく、パラメータを設定するだけで、計算が行われます。

ただ、本物の量子デバイスを用いる超伝導のアニーリング方式では、量子の状態を維持することが容易ではなく、装置全体はどうしても大型にならざるを得ませんでした。また、量子ビット間を物理的に接続する必要があるため、近接した量子ビット同士でしか結合できないという制限もあります。そこで、富士通はこれらの課題を解決するために、従来の半導体技術を用いて、組合せ最適化問題を高速に解くことができる新しいアーキテクチャのコンピュータ「デジタルアニーラ」を開発しました。

量子コンピューティング技術方式の一覧
組合せ最適化問題を解く、アニーリング方式のアプローチ

量子コンピュータの実用化を待つことなく、今すぐ使える

デジタルアニーラは、量子現象に着想を得たデジタル回路を設計し、それによって複雑な問題を瞬時に解きます。コンピュータの内部で素子同士が自由に信号をやりとりできる全結合の型の構造を採用しているため、他の量子アニーリングマシンに比べ、複雑な問題を計算させることができます。何より量子コンピュータのように素子を絶対零度(-273.15 ℃)の極低温で冷やす必要がなく常温で動作可能であり、大きさもデータセンターのラックに収まるほどのスペースで十分です。また、クラウドサービスとして提供するため、誰もが明日からでもすでに使える状態になっています。

つまり、デジタルアニーラは量子コンピュータの実用化を待つことなく、今すぐ使える、現時点では最も理想に近いコンピュータと言えるのです。

また、今後のハードウェア・ソフトウェアの進展にあたっては、富士通は現時点で量子コンピュータ向けソフトウェアを商用化している唯一のベンダーである1QBit社(カナダ)や、世界トップクラスのイノベーションハブを持つトロント大学との戦略的パートナーシップを結んでおり、両組織との協業も進めていきます。

「組合せ最適化問題」であらゆる業種のビジネスを革新

量子アニーリング方式のコンピュータが最も得意とするのは、組合せ最適化問題です。組合せ最適化問題は古くからあり、代表的な例が「巡回セールスマン問題」です。これは、ある都市を出発したセールスマンが、すべての都市を巡回して、再び出発地点に戻ってくる時、このセールスマンの移動距離が最小になるように巡回の順番を決めるという問題です。

2つ3つの都市ならすぐに答えは見つかりますが、訪問都市が30にもなる場合、その最適解を総当たりで計算するのに従来型のコンピュータでは、なんと8億年もかかると言われます。ところが、デジタルアニーラを使うと、わずか1秒以内で解けるようになります。

製造、流通、金融など様々なビジネス分野で応用

工場・物流における倉庫部品の最適化配置

現実のビジネスシーンでも、実は組合せ最適化によって解ける課題がいくつもあります。例えば工場や物流の倉庫では、先述の巡回セールスマン問題を応用し、作業ルートや在庫部品の配置を最適化することで、作業者が部品を集めるために歩く時間を最短にすることができます。実際に、富士通グループの工場でデジタルアニーラを使い改善したところ、作業者の月あたりの移動距離が45%も削減できました。

工場での倉庫部品の最適配置

デジタルマーケティングのパーソナライズ広告

デジタルマーケティングの世界では、Webページを見た人の年齢や性別などの属性があらかじめ分かれば、その属性に合わせて広告やコンテンツを表示することが可能です。Webページを構成するパーツごとに属性データを付与しておけば、「30歳独身の女性にはこの広告を」「53歳家族持ちの男性にはこのコンテンツを」と、それぞれの人により適した情報をきめ細かく表示することができるようになります。

パーツが6つなら720通りの出し分けで済みますが、これが20パーツに増えると、そのパターンは243京(京は兆の1万倍)にも上ってしまいます。この複雑な計算も、デジタルアニーラなら瞬時に終えることができます。

他にも、その日の天候や乗り物の種類に合わせた最適な旅行プランの提案など、多方面での利用が考えられます。

お客様に合わせて、より適した広告やコンテンツを表示
お客様に合わせて最適な旅行プランを柔軟にレコメンドすることも可能に

金融におけるローリスクな分散投資

金融の分野でポートフォリオを最適化し、投資リスクを削減するというような問題にも適用できます。例えば、銘柄が20以上ともなると、その並べ替えは100京通り以上という膨大な組み合わせになり、従来のコンピュータではとても現実的な時間で解くことができません。しかし、デジタルアニーラなら、500銘柄でも価格変動に相関のある銘柄同士をまとめることで、ローリスクでリターンが最大となる分散投資配分を瞬時に導き出します。

ポートフォリオを最適化し投資リスクを削減

創薬における分子類似性検索の高速化

化学・製薬企業の研究所では、新規の物質を発見したり、新たな薬を開発したりするために、分子の部分的特徴を抽出して検索する「分子類似性検索」が有効手段の1つとして用いられています。この時、2つの分子を原子単位に分けて一致性を調べることができれば非常に精度の高い類似性検索ができますが、この手法は高性能のコンピュータを使っても相当な時間がかかります。ところがデジタルアニーラを使えば、こうした分子の全体構造に基づく検索において抽出する特徴を限定することなく瞬時に行えるため、高精度かつ高速な創薬が可能になります。

化学・製薬での分子類似性検索

デジタルアニーラが未来を切り拓く

他にも想定できる活用事例は数限りなくあります。

ビッグデータ解析やAIがビジネス革新の重要なテーマになり、企業内でもAIやデータサイエンスに力を入れる動きが出てきました。ただ、これまではビジネスプロセス最適化のための方法までは思いついても、実際には膨大な計算をしなければ解が見つからないため、最初から解くことを諦めていたような問題がたくさんあります。それが、量子コンピューティング技術の発展で「解ける」ようになるのです。

デジタルアニーラにより、これまで膨大な演算コストと時間の前に二の足を踏んでいた仮説検証作業に気軽に取り組めるようになり、ビジネスを一歩ずつ前に進めていけます。

2018年は量子コンピューティング技術のビジネス活用元年と言える年になるでしょう。富士通のデジタルアニーラがその先駆けとなり、未来を切り拓こうとしています。

1QBit CEOが語る、デジタルアニーラへの期待

Andrew Fursman
CEO,1QB Information Technologies Inc.

1QBit社は量子コンピュータ向けソフトウェアに特化した世界初の企業です。私たちはこれまで、量子ハードウェアの製造に重点を置いた多くの企業と協業してきましたが、なかでも富士通のデジタルアニーラは1QBit社がこれまでに開発した研究内容を本当に活用できる初のハードウェアだと考えています。
デジタルアニーラは、長年蓄積された従来型コンピュータの技術を活用できるだけでなく、量子アニーリング技術に関連がある先端技術の研究もできるという強みを持っています。デジタルアニーラを活用すれば、現在の量子コンピュータの課題をはるかに超えた規模の様々な課題に対応できるようになるのです。
ハードウェア技術の優位性を持つ富士通と、量子コンピュータという新しいパラダイムを活かすソフトウェア開発で優位性をもつ1QBit社の協業は非常に喜ばしいことであり、これからも長い実りある関係を築いていけることを期待しています。