デジタル化の波で銀行はどう生まれ変わるのか?

デジタル化が業種を超えて進展していく中、これからの銀行の姿とはどのように変化していくのでしょうか?また、IoTと金融サービスの融合や異業種参入により、金融業界にどのようなゲームチェンジが起きるのでしょうか?
※富士通総研発行『知創の杜2017年 vol.6』の記事の一部より転載。(対談日:2017年7月6日)

対談者(敬称略)
泉田 良輔:株式会社ナビゲータープラットフォーム 取締役
長堀 泉:富士通総研 取締役執行役員常務

※ 役職・所属は対談当時のものです。

未来の銀行の4つの姿とは?

長堀泉田さんは、「銀行はこれからどうなるのか」という本(注1)を最近書かれていますが、この本を書かれた思いについてお聞かせいただけますか?

泉田Fintechとは、テクノロジーの変化が既存の金融サービスにどう影響を与えるかをユーザー目線で語るものだと捉えています。Fintechにおいて一番鍵になるのは預金です。今の時代、金融機関にお金を預けても殆ど金利がつきませんし、これは海外でも同様です。今後は「低金利の中、お金をどう運用するか」という視点で、Fintechで何をするかを議論していくべきだと思います。金利とクレジットカードやECサイトなどのポイント、金利とサービスの使い勝手等、これまで比較が難しかった異なる領域のサービスが比較できるようになり、金融機関の役割や価値は何であるのか、本質的な議論が求められていると感じています。金融機関の価値とは、「投資の目利きができるかどうか」です。銀行でお金を貸し出す時も、この会社に貸して大丈夫かといったリスク管理と、投資機会を探すという両輪がないと金融機関と言えません。投資の目利きというのは、銀行ごとに属人ベースで運用されています。例えば、事業者が銀行に融資の相談を行ったとすると、「そのアイデア面白いね」「いくら必要なの?」という話から入って、「ファンドスキーム必要なの?」、「普通の融資でいいの?」と幅広く相談に乗ってくれる。これは、私が本書で提言している「銀行の未来の4つの姿」のうち、「投資銀行型」に分類されるものです。(図1)

図1 未来の銀行の4つの姿
出典:泉田良輔著「銀行はこれからどうなるのか」(2017年 クロスメディア・パブリッシング)より

泉田取引先に対して親身に対応するのは銀行の役割で、機械にはできないものです。しかし、このような対応を取引先ごとに行うのは限界もあり、テクノロジーが進むことにより、人が担っていた部分も選別され、自動的に処理されるようになるかもしれません。これは先ほどの4つの姿の「クラウド型」に当てはまります。
海外の金融機関を見てみると、例えば、投資銀行であるゴールドマンサックス(GS)などはリーマンショック後、投資銀行から銀行へと変化しつつあります。GSの従業員数は2~3万人程度で、Bank of Americaの20万人強と比較して大きな差があります。この従業員数の差を活用して、テクノロジーを積極的に活用することで効率的な経営とこれまで進出できなかった領域への進出を両立させています。異業種に目を向けるとAmazonの動きは驚異的です。Amazon自身は金融事業ではありませんが、自社のECサイト運営により、商流を押さえています。しかもAmazonはデータを有しています。最近、「Amazon経済圏」という言葉が聞かれますが、金融事業との接点が広がることでビジネスチャンスが見つかり、新規事業へとつながっているのです。つまり、Amazonは金融機関と異なり、モノを運ぶことでリアルなデータを持っている点が強みなのです。Google は「一番の脅威はAmazon」とコメントしています。金融機関では業界内で誰が勝つのかといった議論もありますが、異業種との比較も今後重要になってくると思います。

長堀富士通総研では、2012年頃よりFintech分野の調査を行ってきましたが、最近気づいたのが、Fintechとは「利用者目線で金融商品・サービスを再定義するもの」、つまり、デモクラタイゼーション(民主化)がキーワードとなっていることです。これは、より実体の経済に根差した金融サービスが求められているということではないでしょうか。まさにAmazonが好例ですが、Amazonで商品を買うと最大で2%もポイントで還元が行われます。金融機関が提供する金融商品でこのような高金利なものはなかなかありません。消費者は合理的に行動するものなので、低金利な金融機関よりもAmazonのようなサービスを選択するのは自然とも言えます。

異業種に学ぶ金融機関のAPI活用

長堀金融機関では、こうした異業種の動きに対抗して、自社の金融サービスの利便性を高めることを目的にAPI(Application Programming Interface)の活用を積極的に進めています。先日、私が委員を務めるIPA(情報処理推進機構)のWGにおいて、IoT分野担当の委員の方が、互換性のないIoT標準の乱立は市場の成長に何も役に立たないと主張されていました。そこで、Webの標準化団体であるW3Cでは乱立する各社APIの上に標準となる部分を規定する動きがあり、これをWeb of Thingsと呼んでいます。

泉田APIの活用は、消費者が必要とするもの、便利になるものを開放するという観点が必要だと感じています。今までできなかったことができる、それにより消費者にどれだけサプライズが提供できるかが大事ではないでしょうか。GoogleやAmazonなど、すでに自社のサービスを提供している企業が、APIの提供によってさらに使い勝手の良いサービスが利用できようになった場合、さらに消費者がついてくると思います。

長堀GoogleやAmazonは、具体的な商品・サービスをまず消費者に提供し、その利便性を体感させています。その裏側では、最新のテクノロジーがうまく活用されています。つまり、実体経済に直接働きかけることが重要なのです。これは日本のITベンダーの問題点でもあるのですが、クラウド、AIなどテクノロジーファーストになっているのが気になります。料理に例えると、美味しいレストランを探しているお客様にと厨房施設をアピールしているようなものです。ITベンダーも実体経済に働きかけるビジネスを行わなければ、これからの時代に生き残るのは難しいと思います。

泉田 良輔(いずみだ りょうすけ)
株式会社ナビゲータープラットフォーム
取締役 Longine 編集長

泉田ITベンダーばかりでなく、自動車会社や流通業など、消費者と直接的な接点を持っている企業が中心となって、APIの活用などを進めると結果が違ってくるのかもしれません

ポートフォリオ経営を安定と見なす伝統的企業の誤算

長堀Amazonは、創業以来ずっと赤字経営を続け、黒字化したのはつい最近と言われています。売上は大きくても、利益の大半を投資に回すためであり、このような経営は日本企業にとっては難しいのではと感じています。

泉田私は以前生命保険会社でAmazonやYahooといったネット企業を担当していました。Amazonはずっと赤字であったため、先輩のファンドマネージャーからは投資対象ではないと指摘されたものです。自動運転に取り組んでいるTesla Motorsも同じような状況だと思います。その状況でも、経営者とそのビジョンに賛同して、「この人(経営者)が作る世界についていきたい」という思いにさせるのは資本市場でもユニークな存在です。

長堀AmazonやTesla Motorsのような企業とは対照的に、伝統的な企業はポートフォリオ経営を重視してきました。ある事業が立ち行かなくなっても、他の事業で補えるので、危機感が働かないのかもしれません。

泉田安定的な経営を行うのは素晴らしいことですが、問題となるのは、より圧倒的な規模でビジネスを行う企業が外部で現れた場合です。例えば、現在、世界最大のビール会社はバドワイザーを製造しているABインベブ社(Anheuser-Busch InBev N.V.)ですが、同社の取扱量を100とすると、日本国内のキリンビールとサントリーの取扱量を足しても5程度です。日本国内では、今後高齢化などでビールの消費量が減少すると言われていますが、これは金融業界にとっても示唆に富む事例ではないでしょうか。国内市場が維持できなくなり、どう海外進出するかという議論となった場合、国内金融機関は、Citigroup、JP Morganのようなグローバル金融機関、Amazonやアリババといった異業種企業が金融サービスを提供している環境でどう勝負をするのか、そういった環境に10年、20年後には変わってくるのが見えてくる気がします。

IoTは金融とどう融合していくか

長堀先ほども話題となりましたが、「IoTと金融サービス」という観点では、今後どのような動きが予想されるでしょうか?

泉田IoTの定義にもよりますが、私はBtoBでの動きが速いのではと考えています。その観点で注目しているのが自動車と流通業界です。例えば自動車の場合、自動運転技術に大きな注目が集まっていますが、もし自動運転車が一般化した場合、個人に対して自動車を売るよりも、自動運転のオペレーターに売ることが主流になるのではと予想しています。つまり、消費者は自動車を所有するのではなく、オペレーターから借りるのです。このような未来になった場合、オペレーターが保有する自動車にセンサーを取り付け、即時に決済するようなシステムが構築されるのではないでしょうか。そうなれば、消費者は利用した分の燃費と保険料を簡単に支払うことできます。事業者は安全に自動運転車が運行されているか、誰がどのように運転しているかといったデータを収集する必要があり、IoTに取り組むインセンティブが働きます。
また、流通業界の場合、BtoBでモノを運ぶという観点に絞れば、今まで紙の伝票でやり取りしていたものをネットワークに接続し、誰がいつ支払い、誰が決済したかといったトレースがきちんとできればいい話ですし、その情報とモノを紐づければ担保されますから、意義のある取り組みだと思います。

異業種参入によるゲームチェンジ

泉田金融業の話に戻りますと、やはり預金という本業を軸に何ができるのかを考える必要があると思います。国内で銀行口座、個人の預金を今さら集めてどうするのだという声も聞こえてきますが、やはり口座数があることで、将来的にサービス業の事業者と連携するなど、ビジネスの幅も違ってくると思います。

長堀そうなると預金を預かる基幹系システムのコストを下げないといけないですね。国内の金融機関向け基幹系システムでは、どうしても堅牢な物を作ろうとするあまり、安くても数十億かかってしまうのが現状です。今後のFintechにおける最も重要な論点は、基幹系システムのコストを下げるために、どうテクノロジーを活用するかにあります。

泉田赤字を続けてでもビジネスを継続させる事業者が外部から来ると、一気にゲームのルールが変わってしまう可能性がありますね。

長堀 泉(ながほり いずみ)
株式会社富士通総研
取締役執行役員常務 コンサルティング本部長

長堀富士通総研主催の「富士通総研フォーラム2016」で、神戸大学の三品和広教授にご講演いただきましたが、「アメリカ人は企業の立地レベルをいきなり全部変えてしまう」という話が印象的でした。日本の自動車産業がGMやフォードと競って勝った時、アメリカでは自動車を蛇口としてガソリンを売り、車の何倍も儲けたというものです。日本人は世界1位ということで喜んでいたけど、実はビジネスの土俵を変えられていた。このような動きこそがFintechの本質ではないかと感じています。

泉田ベンチャービジネスの本場であるシリコンバレーの起業家は、最初は、規制がグレーゾーンの領域でビジネスを始め、テクノロジーを活用し、ロビーイングを行う中で合法的な一産業として塗り替えてしまう。つまり、土俵そのものを変えてしまうわけです。

長堀どの領域でDisruption(創造的破壊)を起こすのかという意識と、そもそも現状が不便だという消費者の意識の両面が必要なのだと思います。富士通総研では、日本国内の消費者に対して、Fintechサービスについてのアンケート調査を毎年実施しているのですが、実は意外にニーズはなく、従来の銀行店舗やATMを中心に利用したいという回答が多い。しかし、ビジネスのルールが変わると状況は大きく変化するものです。例えば、日本でも十数年前に電気料金や携帯料金の支払いなどの小口決済がコンビニでも可能となった時、銀行側は全く手を打ちませんでした。今では、これらの小口決済の殆どはコンビニで行われていますし、これらのデータを銀行内の他のデータと組み合わせることで、もっと他の有用なサービスができると思います。

銀行が変わるためには、ライフスタイルにイノベーションが必要

長堀泉田さんが本で紹介された未来の銀行の4つの姿は、消費者目線での分類ですよね。4つの姿のうちの2つ、「プライベートバンク型」と「投資銀行型」は、人材がキーになるとしていますが、この分野でもある程度テクノロジーが代替する部分があると思います。人材を資本としたビジネスモデルでもある程度テクノロジーに浸食されてしまうのではないでしょうか?

泉田海外に拠点のあるプライベートバンカーの話によると、富裕層ほど安定した運用を求めていて、結果次第では、一部の領域はロボアドバイザーなどのテクノロジーによって代替され、対人によるエンタテイメントといった要素が残るということでした。ただ、プライベートバンキングはテクノロジーと無縁ではありません。米国で流行しているスマートスピーカーのAmazon Echoなどは、毎日消費者が機械に話しかけている状況です。相続とか株で儲けたといった話ですね。これらの会話をデータとして蓄積・分析し、相続税対策としてこういう方法があるとか、このような金融商品があるなどとアドバイスがなされた場合、人手で行っていた部分が機械に代替される可能性があります。

長堀将来、銀行が変わるためにはイノベーションが必要だと思いますが、どう考えていますか?

泉田私見ですが、イノベーションというのは20年程度続くトレンドだと考えています。例えばスマートフォンの場合、iPhoneが発売されてからまだ10年程度しか経っていないのですが、グローバルで製造している会社は既に数社に集約されてしまいました。スマートフォンの場合はほとんどその完成形が見えていて、類似のものが出たとしてもスマートフォンを軸に考えてしまう。つまり、イノベーションはそんなに簡単には起きるものではないのです。

長堀このような視点で捉えると、銀行業はある意味まだまだ安泰かもしれませんね。

泉田銀行が本業を強化するために、どうテクノロジーを活用するかを考えた場合、新たな視点が見えてくると思います。もしかしたら、預金を切り口にライフスタイルに根差したサービスが出てくるかもしれません。例えば、中国では個人間での商品の売買行為がよく見られます。知らない人同士で円滑に決済が行える必要があることからAlipayが普及しました。WeChatPayについても、中国ではお年玉を皆で分け合うゲームのような習慣があり、この際、個人間で簡単にお金が送金できる必要があるため、普及したと言われています。送金するには銀行口座を開設することが必要ですが、現金がもらえるというインセンティブが働くため、その手続きが苦になっていないのです。

長堀文化そのものを変えるのには時間がかかるため、文化に合わせたサービスを提供するという視点が必要かもしれません。その際、金融機関の本業を重視しつつ、異業種と連携していくことが重要ではないでしょうか。しっかりとビジネスの目利きを行い、リスクを取ること、これをテクノロジーでアシストして効率化することが金融機関のなすべきことであり、Fintechで取り組むべきことだと思います。

泉田今後、日本国内は市場として先細りになっていくと予想されます。そこで、内需に見切りをつけて海外に進出した先行企業に学ぶ必要もあるかと思います。例えば、ビール業界やマタニティ業界などは、もう一度自社の強みは何かを整理し、海外で勝負しようとしています。金融機関も同じ視点で本業を見直す必要があるかもしれません。

長堀本日は貴重なお話をありがとうございました。

  • (注1)「 銀行はこれからどうなるのか」泉田良輔(著)クロスメディア・パブリッシング(インプレス)2017
(左から)泉田良輔氏、長堀泉
プロフィール
泉田 良輔(いずみだ りょうすけ)氏
株式会社ナビゲータープラットフォーム
取締役 Longine 編集長
慶應義塾大学商学部卒、同大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。大学卒業後、2000年から2002年まで日本生命保険・国際投資部にて外国株式ポートフォリオマネージャー。2002年から2012年までフィデリティ投信・調査部にて主にテクノロジーセクターの証券アナリストなどを経て、2013年にナビゲータープラットフォームを共同創業。同社にて個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)を立ち上げ編集委員長に就任。著書に「銀行はこれからどうなるのか」(クロスメディア・パブリッシング)、「Google vsトヨタ」(KADOKAWA)、「日本の電機産業」(日本経済新聞出版社)など。東京工業大学大学院非常勤講師。
知創の杜(フォーカスシリーズ)
「デジタル×金融で銀行はどう生まれ変わるのか?」

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