スイスの「クリプトバレー」に見るブロックチェーン最新事情

アプリケーションやサービスの分散化技術が大きく注目され、ブロックチェーン関連のスタートアップとそれら企業による大規模ICO(新規仮想通貨公開)が急増しています。そして、ブロックチェーンベースの技術に関する最重要イノベーションハブの座を賭けて、いくつかの都市が熾烈な縄張り争いを繰り広げていることは、言葉の上では矛盾するようですが、「分散化」の「中心地」が出来つつあるという意味で興味深い動きです。

ブロックチェーン企業を惹きつけるツーク

ドバイ、シンガポール、スイスのツークといった都市が主導的立場を目指してしのぎを削る中、現在は「クリプトバレー」として知られるツークがリードしているという見方が大勢を占めています。実際、暗号通貨大手のイーサリアムをはじめとして、シェイプシフト、ザポ、テゾス、メロンポート、モネタス、その他多くのブロックチェーン関連企業が拠点としているのもツークです。
ブロックチェーンの応用分野の中心を通貨が占め、その規制には未知の部分も多い中で、スイスがこの業界の早期参入企業の多くを惹きつけているのは当然でしょう。ツークはスイス26州の中で下から5番目に税率が低く、企業優先の政策を掲げているため成長が見込まれることに加え、財団を設立してICOへの出資金の受取人として指定することが法律的に認められているからです。また、スイスが競争力と生産性のほか、有能な人材の誘致と確保においても世界第1位にランクされていることも有利に働いています。
これらの相乗効果により、多くのICOで指名されている法律事務所のMMEや、6億3,500万ドルを超えるICOを支援しているビットコイン・スイスなど、ブロックチェーン業界を支えるエコスシステムが形成されるようになりました。こうした動きに合わせて、ツーク州政府も公共料金のビットコイン払いに一部対応したほか、最近ではイーサリアムブロックチェーンに関するデジタルID構想を打ち出しています。

筆者は先月、ツークにおいて今も進化し続けているエコシステムや規制の状況をこの目で確かめるため、34人のブロックチェーン専門家とともに現地を訪れました
以下はそこで得られた主な教訓です。

1.今も多くの人々が、企業、行政、社会におけるブロックチェーンの意義を把握しきれていない。

世界最先進国の司法当局でさえも、ブロックチェーンの意義を理解しようと努めており、ツークの政界や財界の指導者も、すべてわかっているわけではないと率直に認めているということ。それらの機関やリーダーたちは、ツーク州政府がブロックチェーンへの取り組みを全面的に支援し、企業優先の政策を掲げていることを受けて歩調を合わせているだけなのだ。ツーク州では公共料金にビットコイン払いに一部対応したものの、原稿執筆の時点までに利用したのは、誤記ではなく、わずか12人とされている。

2.「暗号通貨のゴールドラッシュ」は確かに起きているものの、主導権の行方はまだ見えていない。

スイスでは、スイス金融市場監査局(FINMA)が企業活動を規制しているものの、暗号通貨企業の設立や運営には特別な認可や免許は不要である。また、法律上、暗号通貨は証券ではなく資産に該当し、ツークを含めてスイスでは全般的にこの分野のエコシステムが確立されていることもあって、特にスタートアップ企業にとって魅力的な場所となっている。

その一方で、既存のスイスの銀行は依然として用心深く、特に米国を中心とした海外における顧客管理措置(KYC)やマネーロンダリング防止対策(AML)の違反者を追及する姿勢に敏感になっている。聞いたところでは、ブロックチェーン関連企業が信頼を寄せるスイス銀行は5行ほどであり、専門家の中には、銀行と話をするときは「ビットコインの名前は出すな」と冗談半分で忠告する者もいたほどだ。

3.エコシステムは必要だが、その構築は口で言うほど簡単ではない。

より賢く、機敏でフラットであるべき未来の企業には、それを支えるあらゆる種類の補助的なサービスが必要となる。また、エコシステムビルダーには、対象となる地域社会の制約も把握しておかねばならない。その意味でスイスは、厳しい移民政策と物価高ゆえに、大企業の移転先や設立地としては非常にハードルが高い国でもある。実際の移民政策は各州に委ねられているものの、総数が制限されているため、常に順番待ちの状態だ。この点では、暗号通貨関連のスタートアップの中心地とされるツークも、大量の労働力を必要とする企業にとっては理想的な場所とはいえない面もある。

しかし、こうした状況もクリプトバレー・アソシエーションの登場によって変わりつつありますといえるでしょう。設立から1年にも満たないこのコンソーシアムの創設メンバー16社には、ツークにグローバル・イノベーション・ハブを持つトムソン・ロイターのほか、アイプロタス、ホックシュール・ルザーン、PWC、イナクタ、コンセンシスなどが名を連ねています。UBS(スイス・ユニオン銀行)の元CIOであるオリバー・ブスマン氏が率いるこの組織は、ツークでの拠点開設を目指す人や企業が踏まなければならない手順を簡素化することを目的とし、スタートアップ企業が行う新規雇用、投資、規制政策などに関するワーキンググループを設置しました。さらに、毎月4~5回のイベント開催やニュースレターの発行を通じ、ブロックチェーン技術の世界的な支配権を握ることの利点について、政府関係者や地域社会を啓蒙することも目指しています。

ツークから目が離せない理由

ブロックチェーン技術や分散化技術が世界に与える影響を、完全に予測することは困難です。それでもツークは、この技術が台頭する中で、企業、社会、および行政がどう相互作用すべきかを示す縮図となっています。暗号通貨を軸に大きな変化が訪れ始めている今、ツークで起こっていることやそこから得られる教訓の多くは、世界の他の地域にとって参考になるに違いありません。
今回のツーク訪問について、詳しくは詳細なレポート(PDF)をご覧ください。

Jeremy EpsteinはNever Stop MarketingのCEOで、「The CMO Primer for the Blockchain World」の著者です。現在、OpenBazaar、IOTA、Zcashをはじめとするブロックチェーンおよび分散化関連のスタートアップ企業と連携しています。

この記事はVentureBeatの依頼により、Jeremy EpsteinおよびNever Stop Marketingによって執筆され、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comにお願い致します。