農業ロボットは人類の未来にどんなメリットをもたらすのか?

農業分野における技術の進歩に起因する失業は、今に始まったことではありません。数千年とはいわなくとも過去数百年間に渡り、技術的進歩の圧力にさらされて多くの人々が農地を離れていきました。働き方の未来についての議論が高まるなか、農業の変化を見れば、人の仕事が機械に取って代わったときに起こりうることの知見が得られるでしょう。

こうした知見は、AIやアルゴリズムベースの処理、ロボットといった自動化によって、農業が社会・経済的基盤の再編につながる形で一層の技術革新を目前に控えていることを考えると、なおさら意味を持ってきます。そして、どのような変革にも困難は付き物で、発展に伴うマイナス面も完全に見えているわけではありませんが、すでに雇用喪失が生じ始めていることを考えれば、それを補う以上のプラス面があることは確かです。

農業分野の技術革新の大きな追い風は、世界人口の増加に伴って今後数十年で食糧供給が逼迫する可能性が高いことに加え、気候変動の影響が本格化するなか、農家がより環境にやさしい方法で食糧増産を可能にするものであれば、すべて良い動きとして社会に受け入れられやすいという点でしょう。

また、そうした新技術は、工業化された大規模農業の弊害を取り除く助けにもなるかもしれません。新技術によって小区画の農地でも、より生産的に利用できるようになり、近年の大規模化や工業化の流れが緩和される可能性があるためです。その意味で、農業における技術革新のスローガンは、小規模化とスマート化だといえます。
関連記事:Can the CSIRO, WWF and technology fix the Australian cotton industry?

農業分野ですでに生じている変化の規模や雇用喪失は、かなり破壊的なものに見えるかもしれません。MITの経済学者であるDavid Autor(ディビッド・オートー)氏は、1900年には米国の労働人口の41%が農業に従事していたのに対し、2000年には2%にまで下がり、その主な原因が自動化にあると指摘しています。特に第2次世界大戦以降、農業部門の雇用は10年に4%の割合で低下してきました。

同様にオーストラリアでは、1960年代は労働人口の約9%を農業が占めていましたが、現在では半減しており、1981年から2011年にかけて農家の数は40%も減少しています。

加えて、生産性が飛躍的に向上した一方で、生産物の価格は急落しました。Autor(オートー)氏は、米国における「目覚ましい生産性改善」が「家計収入に占める食費の割合の低下をもたらした」と分析しています。

同じく、オーストラリアでも経済に対する農業の貢献は、相対的な数字ですが1960年代におけるGDPの14%から現在は5%に下がっており、反対に効率はかつてないほど向上しました。実のところオーストラリアは、農業部門の技術導入において世界をリードしており、11カ国しかない食糧純輸出国の一角を占めています。新技術が登場するたびに、同国のこうした流れはさらに加速するでしょう。

先頃ベルリンで開催されたFalling Wallsのカンファレンスにおいて、シドニー大学のロボット工学および知能システム研究の教授であるSalah Sukkarieh(サラ・スッカリエ)氏は、デジタルデータが食糧生産に与える影響について解説しました。

彼が挙げた新技術の中には、芝刈り機ぐらいの大きさの農業用ロボットがあります。作物の列に沿って移動しながら水位や土壌の種類を監視し、それらのデータを保存・分析することによって、収穫や移植、農薬使用に関する農家の判断を支援してくれるのです。

また、苗ごとに虫が付いた葉とそうでない葉を「見分け」、被害を受けそうな葉のみに農薬を散布できるロボットもあれば、作物の列に生えている雑草と若い苗とを「見分け」、小型のメカニカルハンドで雑草のみを抜くことができるロボットも開発されました。後者の場合、農薬は必要ありません。

さらに、果樹園内の木の1本1本だけでなく、それぞれの木に実った果実の1個1個まで認識できるようにトレーニングされたロボットも登場しています。すべての木に実ったリンゴやクルミなどを何でも数えることができるアルゴリズムを持ち、その正確なデータによって農家の生産管理をはるかに容易なものにするのです。
それでは、完全に自動化された農場の実現まで、どの程度近づいているのでしょうか?

Sukkarieh(スッカリエ)氏は次のように述べています。「そのための技術はすでに存在し、オーストラリアの場合には、社会政治的な流れもそこに向かっています。しかし、先行投資コストがネックなのです。特に、単にロボティクス技術があるだけでは不十分で、安全に運用するためのインフラや、そうしたデジタルツールを扱うためのトレーニングも必要だということを理解しておかねばなりません。それには投資が不可欠なのです。」

ロボットの作業中に生成されるデータ量を考えると、この新技術の実現には、NBN(全国規模のブロードバンドネットワーク)が必須のようにも思えます。農家が、クラウドへのアクセス機能を求めることはないのでしょうか?

これに対して、オーストラリアの農村地域で仕事をすることが多いSukkarieh(スッカリエ)氏は、NBNにアクセスできるオーストラリアの農家にはまだ出会ったことがないとのことです。「実は、私が設計したロボットは、クラウドサーバーとして機能するのに十分な処理能力を備えています。ロボットをこのような仕様にしたのは、農家のブロードバンドアクセスの制約に対処することが目的でした。」(Sukkarieh(スッカリエ)氏)

大規模なクラウドへの接続なしに機能できるこうしたロボットのような新技術が若者の農業回帰につながることを期待する声もありますが、実際にそうなるかはまだわからないとSukkarieh(スッカリエ)氏はいいます。

関連記事:Invisible farmers: the young women injecting new ideas into agriculture | The future of farming

「複雑な問題です。継承がほとんど途絶えてしまったため、すでに大きなジェネレーションギャップがあり、誰も農業の道に進みたいと思っていません。それでも、次世代の若者が技術に後押しされてこの道に進み、「農業」というよりむしろ「事業」のような経営に踏み出すことは考えられるでしょう。」(Sukkarieh(スッカリエ)氏)

つまり、スマートフォンのアプリを使って農業ロボットの一団を操作する若い農業起業家世代というのは、決してサイエンスフィクションではありません。さらに、オープンソースソフトウェアの利用やインターネットを介してノウハウを共有すれば、関連する技術と情報を、発展途上国や小規模農家にとって手の届きやすいものにできます。

「レタスの成長を促進するために必要なことを知らせたり、その情報を太平洋地域に住む小規模農家やオーストラリア中央部に住む趣味の園芸家に送ったりする。そのようなアルゴリズムを、スマートフォンに実装することもできます。実際にはそうしたアルゴリズムが、すでにロボットレタス栽培のシステム用に開発されている可能性すらあるのです。」(Sukkarieh(スッカリエ)氏)

これからの農業の在り方は、長年に渡り注目を集めてきました。技術変化の管理に対する政府の役割や、消費者の需要変化による影響の調査、そして環境問題の管理などの点に人々が関心を持つためです。実際に農業部門の自動化が有益な結果をもたらした地域では、コミュニティや農家と政府が積極的に連携し、科学的な研究も極めて重要な役割を果たしてきました。こうした点を見過ごしていては、健全な進歩は望めません。

同じことは、自動化の機が熟した他の分野にも当てはまります。すなわち、高度に自動化された経済への移行を成功させるには、スマートな機械を導入するだけでは不十分であり、政治的な協力も必須であるという認識が欠かせないのです。働き方の未来をあるべき方向に導きたいのであれば、いわゆる市場原理に任せるのではなく、関係者全員がビジョンを共有して積極的に取り組むことが求められているといえるでしょう。

この記事は The Guardian の Tim Dunlop が執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは legal@newscred.comにお願い致します。