富士通人事本部と有識者が語る「働き方改革」成功のカギ

少子高齢化の時代に突入し、今までとは違った働き方を迫られる日本。そこには単なる長時間労働の是正だけではなく、企業や働く人の意識改革も含めた課題が横たわっています。この問題に対し、ICTを含む新しいイノベーションは何を提供できるのでしょうか。
【Fujitsu Insight 2017「働き方改革」基調講演レポート】

セミナーでは、日本大学准教授の安藤至大氏、富士通人事本部の佐藤彰彦による講演と、慶應義塾大学特任教授の高橋俊介氏が加わったパネルディスカッションの2部構成で行いました。

「働き方改革」は、2つの社会変化に対応できるか

スキルのミスマッチが、人材不足と失業者を共存させる

日本大学総合科学研究所 准教授 安藤 至大 氏

労働経済学者や法学者などの専門家と「私たちの働き方を変えてしまう要因を2つあげるとすれば何か」と議論すると、次のような答えが返ってきます。1つは「人口減少」の問題です。少子高齢化により人が減っていきますが、大事なのは、全体が減っていくだけではなく、「世代によって人口減少の割合が異なる」ことです。生産年齢とされる15~64歳人口が、10年ごとにおよそ1000万人ずつ減少します。

もう1つは「急速な技術進歩」です。人間の仕事が機械に置き換えられることで、「技術的失業」が発生します。駅の自動券売機や自動改札などは、既に機械によって置き換えられた例です。技術の進歩は、ゆっくりとした変化であれば人々の生活を豊かにできますが、ある日突然仕事がなくなる可能性もあるのです。どんな仕事がなくなる可能性があるのか、そこをキッチリ考える必要があります。

これからは、働くことができる人口が減少する一方で、失業者が生まれる時代になります。それなら「失業者が人手不足の場所に行けばいい」と考えるかもしれません。しかし、30年間同じ仕事をしていた人が、いきなり建設や介護、AI、ゲーム、スマホアプリなどの仕事はできないと考えるのが自然です。このように、人手不足と失業者が共存する大きな理由は、スキルのミスマッチにあると言えるでしょう。

冒頭に示した「働き方改革実行計画」の内容を整理すると、次の5つのグループに分けられます。

  • 同一労働同一賃金
  • 労働時間の上限規制
  • 柔軟、女性若者、病気等
  • 賃上げと生産性向上
  • 転職再就職支援、教育環境

これらが「働き方改革」の根幹です。しかし、これだけでは働く人の漠然とした不安を解消できません。では、どうやってスキルを身につけるのか。その取り組みや支援を誰が行うのか。その辺りが重要なポイントになります。

必要な取り組みとしては、例えば「労使間のマッチング支援」があります。公的機関、民間の人材ビジネス・仲介業者の利用、大学、労働組合など様々なところのサポートが必要であり、この取り組みに上手く対応できるか否かが、今後の企業経営の成否を分けることにもなります。

「働きやすい環境の整備」が企業の利益につながる

さらに、「働きやすい環境を作ること」が重要です。働きやすい環境作りとは、「利益よりも労働環境の改善を優先する」取り組みではありません。労働環境を改善することにより、採用促進や離職抑制を進めることです。それは結果として企業の利益につながります。

働きやすい環境作りにおいては、ICTの活用は欠かせません。例えばテレワークを使えば、通勤時間が不要で勤務地を選ばず、育児・介護による離職を防げるかもしれません。AIの活用も、作業の効率化に貢献します。

課題としては、仕事の割り振りや人事評価、現場/テレワークの平等性、納得感の形成などがあります。また、いまだに「男が育休を取るなんて」という年配者は存在しますし、多様な働き方を許容できない人もいます。そのような「個人の意識の改革」も考慮する必要があります。

「働き方改革」の対応が遅れると企業の命取りになります。具体的に何をすれば良いのか、早めに対策できた会社とそうでない会社では、確実に差が開いていきます。他社の取り組みを参考に、どういう取り組みがうまくいったのか、何と何の組み合わせがキーになったのか。このあたりを学ぶことが大事だと思います。

富士通が取り組む「働き方改革」、テレワーク導入後どう変わったか

「働き方改革」の基本コンセプト

富士通株式会社 人事本部 労政部長 佐藤 彰彦

富士通は、単体で従業員3万4500人の人員を抱える企業です。グローバルなICT企業を目指していますが、メーカーとしての組織風土や伝統的な日本の人事制度が多く残っています。

富士通の「働き方改革」に対する基本的なコンセプトには、デジタル化への対応、ダイバーシティの推進と労務構成の変化、長時間労働の抑制などの背景があります。これらに取り組むためには、以前より取り組んでいるダイバーシティや健康経営とうまく組み合わせながら働き方改革を進めるのが大事で、これによって社員と会社の成長があると考えています。

デジタル化への対応とダイバーシティの推進には、技術の進化と労働環境の変化が理由として存在します。特にダイバーシティの推進では、社員の高齢化や女性の高い退職率などに対応する必要があります。また、長時間労働の抑制ではコンプライアンス面の他、健康経営的な観点からも対策が求められています。

働き方を改革するための制度として、「テレワーク」が大きな比重を占めています。比較的オーソドックスな運用となりますが、テレワークの導入と併せてフレックス勤務、裁量労働制を見直すことで、社員がより柔軟に働ける環境が実現できています。

富士通が導入するテレワークによって改善されたのは、次の5つのポイントです。

  • スピードアップ
  • 効率化
  • グローバル対応
  • ワーク・ライフ・バランス
  • BCP対応

これらを通じて、社員には安全で快適かつ柔軟な労働環境が提供でき、会社にとってもスピーディな顧客対応や意思決定、コミュニケーションコストの削減など多くの効果がもたらされています。

「自分ごと化」できるかどうかが成否の分かれ目

富士通が本格的にテレワークを導入したのは2017年4月からです。開始にあたって、全社員がe-learningを受けて自分の働き方を振り返り、「働き方改革をなぜやるのか」「自分はどういう働き方をしているのか」などを認識しました。

例えば、長時間労働には「計画性がなく無計画に残業するタイプ」と「ディテールにこだわるために時間がかかるタイプ」「周りの人に付き合って居残るタイプ」など、いろいろなタイプがあります。これらに対する解決法や工夫をe-learningの中で情報を集めて共有し、改善に役立てました。

さらに、昨年1年間で10箇所400人を対象にテレワークのトライアルを実施し、有効な活用法が分からないという声に対してワークショップを行うなどの活動も行いました。

テレワークの導入後、定期的な観測とアンケートを行っています。それによると労働時間は対前年比で1~2割少なくなり、退社時間も徐々に改善される傾向があります。

しかし課題もあります。例えばマネジメント層と一般社員間で「働き方改革」に対する理解に乖離があったり、「テレワーク対象職場になっているが、とてもそれを推進していく雰囲気ではない」といった意見も寄せられています。

トライアルに参加した職場の中には、早い段階から独自の活動を展開し、極めて効果が上がっている例があります。その一方で、ネガティブな捉え方も少なくありません。「働き方改革」は、会社のためでもあり、社員のためでもあります。しかし、何となく実感をもって捉えられていないところがあります。仕事の種類やリーダーの捉え方によって、「自分ごと」になっていないケースがありますが、ここが大事なポイントだと考えています。

これらの課題を踏まえ、現在は働き方改革を「自分ごと」で考えるための場作りを目的に、推進側のメンバーやそれをサポートしている管理者を集め、外部のファシリテーターとワークショップを開くなどの活動をしています。

【パネルディスカッション】働き方改革は「ビジネスモデルの変革」、更なる取り組みを

<モデレーター>
慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科特任教授
高橋 俊介 氏

講演に続くパネルディスカッションに先立ち、モデレーターを務める高橋俊介氏から問題提起とコメントが寄せられました。高橋氏によると、業種・業態、企業の課題によっても「働き方改革」が持つ意味の重さは違ってきます。

高橋氏は、働き方改革には4つの視点があると示しました。

  • 守りの経営:健康経営と職場安全配慮の視点
  • 社会の要請と労働力確保:1億総活躍の視点
  • 経営の根幹:ビジネスモデルと生産性の視点
  • 働く人の価値観:多様性創造性の視点

そして、「トップには『働き方改革』は、ビジネスモデルの変革だという認識を持っていただきたい」と強調しました。

高橋氏は、「働き方改革」で余った時間をいかに有効活用するかを考えることの重要性も指摘。「余った時間を上手に活用するという前向きな気持ちがなければ変わりません。会社で仕事ばかりやっていると、自分の人生を作っていく能力が減退します。働き方改革で得た時間で何をするか。そこが非常に重要になっていくと考えています」と述べ、議論を展開しました。

管理者のマネジメント能力が問われる「働き方改革」推進

まず安藤氏が、「企業が働き方の改革に舵を切る中で、従業員の中に広がる不安や不満を吸い上げ、安心感に変えることが重要。これが今後の変革を成功させるためのカギ」としました。また、高速道路の走行スピードを例にしながら、「いろいろな人がいる中で、自分だけがルールを無視して仕事をすることが許されないことを理解すべき」と説きました。

高橋氏はこれを受け、「実際に働き方改革を進めようとすると、管理者のマネジメントやコミュニケーションのスタイルを変える必要があり、ここが一つの壁になる可能性がある」と課題を示しました。

これに対して佐藤は、「働き方改革は、職場や担当者によって進捗状況が大きく変わる」ことを説明。また、「皆ができていない訳ではなくて、できている人はできている。これをどう転換していくのか、時間をかけながら丁寧に取り組む必要がある」と訴えました。

最後に、高橋氏は「ICTを活用して働き方改革を進める時に、何が一番大事なのでしょうか?」と質問。これに対し佐藤は「働き方改革というのは、意識改革であると同時に『マネジメントスキルの改革』でもある。特にマネージャーの方々に、ICTの活用と同時に進めていただければ思います」と述べ、パネルディスカションを締めくくりました。

登壇者
  • 日本大学総合科学研究所
    准教授 安藤 至大 氏

  • 富士通株式会社
    人事本部 労政部長 佐藤 彰彦

  • 慶應義塾大学大学院
    政策・メディア研究科特任教授 高橋 俊介 氏