落合陽一と考える「AIの活かし方、人の役割」

新しいテクノロジーを生かすには、どのような発想力が必要か。どんな技術でも前例が乏しい場合は、頭を悩ますことが多い。今で言えば、AI(人工知能)はまさにその段階だろう。今回、筑波大学学長補佐の落合陽一氏と富士通が共同で、AIを利用するための発想術をテーマにしたイベントを開催。ニューテクノロジーのキャッチアップの仕方を紹介した内容をリポートします。

落合流「発想術」

イベントは、落合氏の講演とワークショップの2部で構成。NewsPicksで約10日間の告知をし、600人ほどの応募があった中から抽選で選ばれた約30人が参加した。顔ぶれは、寺院の代表や官公庁の官僚、民間企業からはIT、メーカー(食品、製薬、鉄鋼、汽船、自動車など)、不動産、金融、コンサル、情報、スポーツ関連など。さまざまな業種・業界のビジネスパーソンが集まった。

冒頭の講演では、落合氏が新たなアイデアを生み出すために心がけていることや発想術を披露した。そのポイント、“落合語録”をまずは紹介する。

Point.1 「当たり前」を疑え

多様化していた社会が時間とともに標準化されてきたのが、今の日本ではないでしょうか。標準化された世界は、決められたルールに沿って生きていけばいいから楽。だから、無意識のうちに世間がつくった“人間社会的な”当たり前に擦り寄り、思考が止まってしまっている。機械にアウトソースできなかった時代の名残りが、まだこの社会にはあります。

ここにイノベーションの出発点はあります。人間が解決する「常識」や「当たり前」で埋め尽くされ、「専門に分化」し「標準化」された世界に斬新なアイデアは生まれません。

特にテクノロジーやアート、デザイン、ものづくりといったクリエイティブな仕事は、近代の標準化されたフレームワークの中でいくら考えても、独創的なアイデアは出てきません。「機械知能」と「人間知能」の融合の中で、分化と標準化のもたらす障壁を取り外して考えるべきです。

産業革命からインターネット以前までの当たり前を疑い、「なぜ」と問いかけ続けられる力が必要です。

Point.2 「言葉」ではなく「画像」でイメージしろ

標準化の典型例が「言葉」。僕たちがふだん使っている言葉は、実は多様化していた古のものではなく、標準化された近代になって言わば強引に作られた(翻訳された)言葉だというのが僕の考え方です。近代的な言葉でいくら思考していても、近代的人間性を突破するくらいの斬新なアイデアは生まれません。

思考する時、なるべく言葉ではなく画像や時空間といった現象そのものをイメージすること。言葉よりも映像のほうが頭に浮かんだアイデアが標準化されずに、独創的な多様化した状態で可視化できる。

クリエイティブな世界で成功している人は、言葉ではなくイメージで斬新なアイデアを発表しています。それが個人化した例は『YouTube』や配信型SNSなどによく見られますね。

Point.3 「戦略」と「戦術」を混同するな

新しいアイデアを生む際、ほかの人と議論をするうえで、「戦略」と「戦術」を明確に分けることが大切です。今話していることが戦略なのか、戦術なのか。長い時間をかけて話すべきことは戦略のほう。ディスカッションしていると、何について話しているのか、わからなくなる時があるから、戦略についてしっかりと話しているかをその都度確認してみてもいいでしょう。

例えば、これは研究の話ですが、僕のラボでは大学1年生から配属される子もいるのでこのスライド(下記)は徹底させています。戦術と戦略の往復を繰り返して、融合的に考えるには、「九九」を覚えるように徹底することが必要です。

Point.4 AIと人のフィードバックループをつくれ

テクノロジー、とくにAIを利用する前提としてお伝えしたいことは、「AIは何でも自分でやるわけではない」ということ。

「自己進化する」そして「転移学習を可能にする」AIは、発展途上です。つまり、エンドユーザーが使えるようなツールにはまだなっていません。うちのラボでも、AIの仕組み自体を研究している人と、その応用を研究している人はフォーカスがだいぶ異なっていますし、作業が違います。応用をするべきときに必要なのは、むしろ人の行動力です。

AIの振る舞いを人がチェックし、何かおかしい事象があれば、人が改めてAIに返す。そういった循環を高速に行っていくことが必要。つまり、 AIと人の「フィードバックループ」をつくらなければ、その性能を十分に発揮できません。

富士通流「AIワークショップ」

落合氏の講演後、AIを導入・活用するための思考術をトレーニングするためのワークショップが開催された。このワークショップは、富士通が通常、各企業・団体ごとに開催するもので、異なる複数の部門担当者を数十人招いて約6時間かけて行っているワークショップの特別版。内容を圧縮し約60分にまとめたものだ。

通常は0〜5を6時間かけてディスカッションするが、今回は特別版として体験1〜3を約1時間で行った。

完全招待制ワークショップ特別版

各部門で感じている業務の課題や不満、成長戦略に必要なことを整理し、そのうえでAIの基本知識を学び、業務にどのように利用できるか、そのプロセスや思考術を学ぶ内容になっている。

このワークショップは、落合氏の提言と同じく「イメージ(画像)」を有効活用している点が興味深かった。

Step 1:現状と理想のイメージフォトカードを選ぶ

ワークショップのファーストステップは、業務の「現状」と「理想」を思い浮かべ、それに関連するイメージフォトカードを選ぶというもの。

フォトカードを選んだ後は、他の参加者とディスカッションし、「なぜそのカードを選んだのか」「現在の業務にどのような不満があるのか」「理想とする業務の詳細は?」などを選んだフォトカードをもとに書き込んで話し合う。

Step 2:インスピレーションカードを活用しAI活用アイデアを発想

セカンドステップは、理想とする業務を実現するにはどのようなAIが欲しいか。AIが活用できそうな業務に直結するテクノロジーがイラスト化された富士通オリジナルの約150枚にもおよぶインスピレーションカードから2枚選択する。

ある参加者は、ファーストステップで日々の業務は同じことのくり返しだと感じ、河原に並ぶ同じような石がたくさん写ったカードを選択。理想のカードには、恋人同士が仲良く寄り添うカードを選び、「『個客』にぴったりマッチした提案を行いたい」と語っていた。

そして、セカンドステップで選択したインスピレーションカードは、カメラで顔認識を行い来客者の分析を行うというもの。もう1枚はタブレット端末を活用し、同じく来客者もしくは客が手にした商材をタブレットでスキャンしておくことで、先回りして顧客が望むサービスを知る、というAIテクノロジーであった。

落合陽一が参加者とともに考える

落合氏も自らワークショップに参加して、落合氏が選んだフォトカードは下記。

左の「業務の現状」のフォトカードでは、牧場でヤギとのんびり戯れる子どもたちを選択した。一方、右の「理想とする業務」のフォトカードは、屈強そうな軍人を選択。

「本当は映画の『フルメタル・ジャケット』のように、ハートマン軍曹になりたい。海兵隊のような育成の仕組みの整った組織で新兵を育成したいんです。でも実際は、大学のラボというゆるい組織は、学生という発達途上の不完全な歯車でできた機械です。ワークフローなんてなく、動物のようなやんちゃな子どもたちを相手にしている。もちろん伸び代はすごい。そしてそれはそれで穏やか。まるで牧場」というのが、落合氏の考えだった。

落合氏はワークショップに参加するだけでなく、各参加者のカードを見てまわり、適宜アドバイスしていた。

前半の落合氏の講演を静かに聞き入っていた様子とは一転。AI活用に関するアイデアを参加者同士でシェアすることで、お互いに新たなフィードバックも得られ、会場は一気にヒートアップし、参加者の声が反響し合うほど盛り上がっていた。

「落合×富士通」のハイブリッドでAI活用の発想を刺激

約90分のディスカッションの後、落合氏がAI活用における発想術のポイントを総論としてまとめた。

「多くの参加者が本業でのAI活用を考えていたようでした。実際のビジネスでどうAIを活用するかをイメージすることは大事ですが、別観点からプライベートでの省力化、脱人化的な活用を想像してみるのもいいかもしれません。
僕がAIを活用するときによく考えるのは、本業ではなくオフモードやプライベートでの活用。たとえば育児を楽にするAIとか。出社してから30分間リラックスするためのAIといった具合です。

なぜ、オフモードなのか。本業に臨むときにストレスフリーな状態であることが重要だからです。もっと言えば、ストレスがある状態で本業を行うと、事故やケガに繋がる危険性がある。そのリスクをオフモードのAI有効活用で減らすのが、僕の考えであり、このような考えでAIの活用を考えると、意外に本業に繋がる結果が出るとも考えています」

「もう1つお伝えしたいことがあります。チャレンジというものは、失敗するもの。でも、それは、イノベーションを生むためには必要なプロセス。スタート時はどうしてもキツイものだと受け入れるしかありません。

僕はラボのみんなに、イノベーションはハードモードから始まってイージーモードに変わると頻繁に言っています。一般的な物事はイージーから始まってハードモードに移っていくような気がしますが、イノベーションは真逆です。
なので、失敗は当然ぐらいの感覚で、何度もチャレンジを続けてください。その継続がブラッシュアップされ、確率論的にイノベーションが生まれるのです」

ワークショップ終了後、参加者が書いたワークショップシートには、たくさんのヒントが詰まっていた。落合流発想術と富士通流のワークショップの枠組みの中で刺激を受け、AI活用における具体的なアイデア創出を後押ししていた様子が伺えた。企業におけるAIの本格利用、その「前夜」を感じさせた。

(取材・文:杉山忠義、写真:長谷川博一、編集:木村剛士)

[最新デジタル設備を完備したスタジオを見学]

落合氏の講演とワークショップの2部構成で行われた今回の特別企画。第1部講演後、参加者の方々には休憩時間を挟みながら、今回のイベント会場となった、富士通の共創ワークショップ専用施設「FUJITSU Digital Transformation Center」をご案内しました。

今回の「AI」ワークショップのスタジオとは別の、最新のデジタル設備満載のスタジオへご案内。「IoT」などをテーマにICT活用のアイデアを発想するワークショップ専用スタジオです。

スタジオの簡単な説明の後、インスピレーションカードが壁一面に映し出された、独自開発のインタラクティブボードを自由に体験。参加者の方々は、早速面白そうに次々とカードを選んで壁にとばして整理してみたり、カードを大きくしてじっくり読み込んでみたり、手書きのカードをデジタル化するなど、様々な様子で楽しんでいました。

カードは、お客さまとの対話を通じて生まれたもので700以上。新たなIoT活用や、お客様毎の課題にあったアイデア出しと、目指す未来像の創出をスピーディに手助けしてくれます。

スタジオにはIoT活用を具体的にイメージできるよう、人の脈拍や位置情報を測れる「バイタルセンシングバンド」なども備えられています。皆さんこのような機器にも興味津々の様子で、休憩時間全てを使って見学されている方が多く、楽しみながらかつ真剣な様子がとても印象的でした。

スタジオ以外にも、館内にあるロボットやVR技術などの最先端テクノロジー展示コーナーもご案内

(FUJITSU JOURNAL編集部)

落合陽一 氏
筑波大学学長補佐・図書館情報メディア系助教 デジタルネイチャー研究室主宰/メディアアーティスト
1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程早期修了、博士(学際情報学)。専門はCG,HCI,VR,視聴触覚提示法,デジタルファブリケーション,自動運転や身体制御。2015年より筑波大学図書館情報メディア系助教 デジタルネイチャー研究室主宰。2017年より筑波大学学長補佐,大阪芸術大学客員教授,デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。ピクシーダストテクノロジーCEO。2015年米国WTNよりWorld Technology Award 2015,2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica, EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prize、国内外で受賞多数。著書に『魔法の世紀』『超AI時代の生存戦略』などがある。