21世紀にふさわしい日本的経営を構想する~第11回トポス会議に見る、今後の日本企業の在り方

トポス3「日本の社会の潜在力と企業」

3つ目のセッション(トポス3)では「日本の社会の潜在力と企業」をテーマに新しい日本的経営を創造しつつあるビジネス・エグゼクティブが登壇しました。ジェローム・シュシャン氏(ゴディバ ジャパン株式会社 代表取締役社長)、鎌田由美子氏(カルビー株式会社 事業開発本部本部長 上級執行役員)、玉川 憲氏(株式会社ソラコム 代表取締役社長)、濱松 誠氏(One JAPAN共同発起人・代表)の4人です。

日本価値の原点に戻る

ゴディバ ジャパン株式会社 代表取締役社長 ジェローム・シュシャン氏

シュシャン氏は、2010年に代表取締役社長に就任して以来、日本の業績を毎年2桁以上成長させてきた実績があります。日本文化にも造詣が深く、25年前から弓道を始めています。同氏は、「弓道では『正射必中』という言葉がある。その言葉を踏まえて、全てのエネルギー、気持ちを正しくすることに注力している」と説明しました。

ビジネスにおいても「顧客にとって何が正しいか(正射)を常に考えている」と述べ、正射に注力すると、結果は自然とついてくるとしました。「日本は欧米の真似をするところもあるが、日本価値の原点に戻ることが現代の社会や経営、イノベーションのヒントになる」と見解を述べました。

働き方の変革からイノベーションが生まれる

カルビー株式会社 事業開発本部本部長 上級執行役員 鎌田由美子氏

鎌田氏は、JR東日本時代に「駅ナカ」を手掛けたり、「地域活性化」「子育て支援」などに携わった経歴をお持ちです。また、現職のカルビーでは事業開発本部長として、アンテナショップや新規事業開発などに従事しています。地域活性化では、産地や作り手にも興味を持ち、日本全国で疲弊してきた地域でどうやって若い力を地元に戻していき、成長していけるのかに尽力したといいます。

鎌田氏は、ダイバーシティを推進する企業であるカルビーでは、女性の管理職の比率が年々高まっていることを説明しながら、「働き方が変わる中で大企業からのイノベーションが起き、そこから触発されてもっと良い社会になってきたと感じている」とお話しされました。

テクノロジーによるイノベーションの実現

株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川 憲氏

玉川氏は、IoT(モノのインターネット)プラットフォームを手掛ける株式会社ソラコムの代表で、先日KDDIによるM&Aの発表があったばかり。日本IBM基礎研究所やアマゾン データ サービス ジャパンを経て、スタートアップ企業としてソラコムを2015年に創業しました。同氏は、クラウドコンピューティングをサービスとして提供するAWS(Amazon Web Services)によって、DropboxやInstagram、Netflixなどが立ち上がったことに触れ、「誰もが平等な機会が得られるコンピュータのデモクラシーとも言えるイノベーションが起こった。同じことをIoTの世界にももたらしたい」と説明しました。

また、「日本は圧倒的にソフトウェアエンジニアリング能力が足りていない」と指摘。ソラコムではソフトウェア技術をコアとして日本発でグローバルプラットフォームを作り、日本でもシリコンバレー的なビジネス環境の構築を目標にしています。同氏は「優れたテクノロジーは魔法と変わらない」という言葉を引用し、イノベーションの力によって様々な新規事業を支援していきたいと語りました。

大企業病を打破する取り組み

One JAPAN共同発起人・代表 濱松 誠氏

濱松氏は、パナソニックグループの採用戦略や人材開発領域を担当する傍ら、2012年、組織活性化を狙いとした有志の会「One Panasonic」を立ち上げました。その後、2016年に大企業の同世代で同じ課題意識を持つ企業人を集め、有志団体「One JAPAN」を設立して代表に就任。One JAPANには45社・約1,000人の有志が参画し、共創や新しい働き方の実現に向けて取り組んでいます。

一般的に、大企業では社内だけでも組織のサイロ化が起こりがちです。「日本企業は人材や技術、ブランド、歴史、信頼、お金というリソースが豊富にあることこそが強みであるにもかかわらず、若手・中堅社員が生かせていない」と指摘。One JAPANのミッションは「挑戦する個人を増やす、組織風土を変える、組織のサイロ化やどうせ言っても無駄症候群という大企業病を打破すること」にあると強調しました。

イノベーションを実現するためには

4人の発表後、企業のイノベーションに関する取り組みの現状、ソーシャルスタートアップの可能性などが議論されました。登壇者からは、「大企業にはある種の思い込みがあり、若者や女性に任せられないとしてなかなか改革に踏み込めない現状がある」と指摘がありました。

シュシャン氏は「一度成功したら、次の年も同じことをやりがち。最近はスピードが速いため、常に新しいことに挑戦しなければならない。その場合は、クリエイティビティが重要となる」と語りました。また、「これからの時代は多様性が鍵となる。日本人だけではなく、海外の人と違う価値観を分かち合うことで世界に広がるイノベーションが起こせる」と説明しました。

鎌田氏は「チャレンジすると失敗することもあり、成功することもある。しかし、事なかれ主義の人を評価してしまう企業や人事評価が現状多い」と指摘。「時代に合った制度を作り、制度を変える。制度が使いやすいように環境を変えることで、会社自体の働き方も変えられる。人脈を作ることも人生を豊かにすることにつながる」と話しました。

濱松氏は「イノベーションを実現するためには、挑戦する人を増やすこと、組織の風土を変える必要がある。社内外に新しいことに挑戦したいという人が大勢いる。そういった人たちが組織を超えてつながり、共に課題解決をしていくことで、挑戦する風土ができる」と述べました。

玉川氏は「ここ最近、着実に伸びているスタートアップ企業は、何らかの社会問題を解決することを目的にしていることが多い。新しいことへのチャレンジは、そのビジョンに共感する参加者のパワーがないと進んでいけない。また、日本でのイノベーションを阻害しているのは、必要以上の遠慮。肩書に遠慮するから意見が'出てこずイノベーションを起こすチームとして機能しないこともある」と指摘しました。

これからも共同体主義的な経営が重要となる

セッション終了後、野中氏が今回のトポス会議を総括しました。

まず、野中氏は「優れたイノベーションは、創造的破壊である。組織が肥大化し、官僚化してくると起業家精神が衰退する」と指摘した。また、日本型経営のイノベーションとは、大規模組織でありながら、共同体主義的な組織で実現できることにあると述べました。

共同体主義組織では、大規模でありながら、組織のメンバーが徹底的に意見を出し合い、サポートしながら全員で目標を成し遂げます。「イノベーションの本質は、一人一人の利己、自我を越えてチームとして組織的一体感を確立する"共感"にある。組織的なイノベーションの根幹にあるのは、そうした共感の確立である」と述べ、今回の登壇者の講演は、まさに共感を確立して、目標を実現できた具体例など説明しました。

また、AI(人工知能)などのIT技術が普及する今後も、共同体主義的な経営は必要になると述べました。日本の人間性や感覚質(特定の感覚的経験に伴う独特の質感を表す概念)を突き詰めるのが強みとするところだが、欧米諸国の科学的合理主義を捨てるわけではないといいます。「これからの世界は、一定の法則や原理、理論で説明できてしまうほど単純ではない」(野中氏)。

物事を二項対立として捉えるのではなく、一見矛盾する二者を両立させる「二項動態」として捉え、ダイナミックで変化に富む二項動態の経営を目指すことがイノベーションにつながるという。さらに「知的機動力とは、変化する状況に応じてありとあらゆる種類の知や考え方を導入し、思考の改善や変更には終わりはないということを理解してタイムリーに対応することである」と説明しました。

続けて、「世界との積極的なかかわりを通じて、先の見えない状況で創造力と探求心を働かせながら、道徳的に成長していくことが重要になってくる」と見解を示しました。

最後に会議の参加者に向けて「日本企業の今後の在り方を含めて、アート(直感)とサイエンス(分析)を統合することを錬磨して実践していただきたい」と語り、今回のトポス会議を締めくくりました。