21世紀にふさわしい日本的経営を構想する~第11回トポス会議に見る、今後の日本企業の在り方

トポス2「日本的経営の根幹的価値観とシステム」

2つ目のセッション(トポス2)では、「日本的経営の根幹的価値観とシステム」をテーマに、スティーブン・K・ヴォーゲル氏(カルフォルニア大学バークレー校 教授)と評論家の中野剛志氏が登壇しました。

日本的経営モデルの特徴

カルフォルニア大学バークレー校 教授 スティーブン・K・ヴォーゲル氏

ヴォーゲル氏は、米国の研究者から見た「日本的経営モデルのメリット・デメリット」を発表。同氏は、日本経営モデルの特徴を「ステークホルダーを中心としたモデルである」と定義しました。これは「株主よりもステークホルダー、短期的な利益よりも長期的な成長や協力関係を結び、現場主義を取る」モデルです。

1990年代、バブルが崩壊した際に日本政府と産業界が、米国に代表される株主モデルへシフトしようとしました。しかし 、米国モデルには完全に収束せず、緩やかに改革を進めました。強制的ではなく、選択肢を広げるような改革を推進し、カンパニー制や持株会社への再編成、ストックオプションの導入、執行役員制度導入などの取締役会再編、社外取締役の登用などを行ったがどれも段階的改革だったとヴォーゲル氏は述べました。

続けてヴォーゲル氏は「日本企業は米国モデルを採用すべきだったのか」という問いに対する答えを「NO」と断言しました。ストックオプションや自社株買戻し、M&、敵対的買収など米国モデルの特徴だと言われるものの多くが「企業業績を改善しない」と学術的研究で示されているからです。

また、「日本企業にとって改革の必要性はないことを意味するのか」という問いに対しても「NO」と答えています。同氏によると「これからは国際的な状況(新しい現実)に適応しなければならない」。新しい現実とは、具体的には以下のような変化であるというのです。

  • 少子化高齢社会など人口動態の変化
  • 市場のグローバル化
  • グローバル生産チェーンの進展
  • 製品からサービスへの転換
  • デジタル化などの変化

同氏はこれらの進展に対応するためには新しいスキルと構造が必要だと提言。また、「日本企業にとって新しい構造、新しい戦略のどちらが必要か」と問いかけ、構造よりも戦略の問題であると説明しました。「組織を変えることで全てが良くなるわけではない」と述べ、具体的な改善方法として以下を示しました。

様々な人のインプットを大事にする「多様性」、企業の「国際化」、グローバル生産チェーンへの「ニッチ化戦略」、サービス技能やソフトウェア技術のスキル習得、ボトムアップからのアプローチによるオープンイノベーションの推進、 と語りました。

イノベーションが生まれる企業の条件

評論家 中野剛志氏

次に、中野氏が「イノベーションに適した経営システム」と題し、日本の評論家として政策形成の視点から見た日本型経営について発表しました。

中野氏は「イノベーションとは、未来という不確実性に向けて資源を動員すること」と定義。また、市場を「存在する財・サービスの価値を評価し、取引する場」と位置付け、その上で、イノベーションが未だ存在しない財・サービスを実現しようとする行為であるため、「市場ではイノベーションは評価できない。市場の声を聞いてもイノベーションは実現できない」と説明しました。

さらに、「利益を生み出すのに成功する可能性が低い」「他のチームが追随できない長期間を要する」「大規模な資源動員を要する」という課題を克服した企業がイノベーションを達成できると述べました。そのため、イノベーションは期待される利益をあらかじめ計算するのが困難であるという性質があるとし、環境保護や難病治療など利益以外の価値によって正当化する必要があるとの見解を示しました。

さらに、大規模な資源動員のためには、社内外の関係者を説得する必要があり、同じ価値観やビジョンを持つ関係者間の信頼関係の構築が求められ、人間関係が長期に安定しなければイノベーションは困難になるといいます。

中野氏は、社内外の関係者間の濃密なコミュニケーションと協力行動の持続、コンセンサス重視や閉鎖性、組織に対する高い忠誠心といった「日本的経営の根幹的な価値」が、イノベーションを実現する鍵になると説明。短期利益の追求の競争では日本的な経営は不利になると指摘しました。ただし「日本に限らず、米国のリコンバレーも典型的な閉鎖的な共同体である」とも述べていました。

プルーラル・セクター型経営を目指す

このセッションでは、加護野忠男氏(神戸大学 名誉教授)、ヘンリー・ミンツバーグ氏(マギル大学 教授)もビデオメッセージを寄せました。

加護野氏はROE重視の経営を批判し「イノベーションは成功するか分からないしリスクを伴う。そのリスクをカバーできる自己資本を持たないと企業は存続できない」と語った。またかつてドラッカーにインタビューしたことを振り返りながら「金銭によるインセンティブで経営するのは良くない。利潤追求もほどほどにしないと問題が起きることもある」と指摘。

ミンツバーグ氏は「プルーラル・セクター」と呼ばれる新しい社会の枠組みのコンセプトを提唱している。プルーラル(plural)とは、複合的という意味を持ち、ここではNPOやコミュニティなどを指している。「政府、企業、コミュニティの三者がバランスを取って社会を形成することが望ましい。今後、プルーラル・セクター型の日本的経営が求められる」と述べました。

今回のトポス会議のコーディネーターを務めた多摩大学大学院教授 ・トポス会議発起人 紺野 登氏(写真左から二番目)、キャスター 羽田 未蘭野氏(写真一番右)