21世紀にふさわしい日本的経営を構想する~第11回トポス会議に見る、今後の日本企業の在り方

2017年9月22日、「第11回トポス会議」が六本木ヒルズ森タワーのアカデミーヒルズで開催されました。研究組織「ワールド・ワイズ・ウェブ・イニシアティブ」(w3i)が主催するトポス会議は、産業人や研究者らを集め、世界的な課題の解決に向けて議論する会議体です。トポスとは、ギリシャ語で「場」を意味します。
11回目となる今回は「21世紀にふさわしい日本的経営を構想する」をテーマに掲げ、経営学の第一人者であるピーター・ドラッカーがかつて称賛した「日本的経営」を取り上げました。

オープニング

HondaJetとイノベーション

ホンダ エアクラフト カンパニー社長兼CEO 藤野道格氏からのビデオメッセージ

第11回トポス会議は、ホンダ エアクラフト カンパニー社長兼CEOの藤野道格氏のビデオメッセージから始まりました。

米国ノースカロライナ州に本拠地がある同社は、ビジネスジェット機「HondaJet」の開発・生産・販売を行っています。HondaJetは、主翼上にエンジンを置くという画期的な設計が特徴です。この設計は業界を揺るがす「ラディカルイノベーション」として様々な賞にも輝いています。そのほかにも主翼やノーズに採用した自然層流技術や複合材胴体、最先端の次世代アビオニクスなど独自技術にこだわりイノベーションを起こしてきました。さらに、日本企業として初めて米国連邦航空局から型式証明を取得するという快挙を成し遂げています。

HondaJetの設計者でもある藤野氏は「徹底した組織運営の効率化を図ったことで、小さなチームでも先進的な航空機を作りあげることができた。日本企業が単独で型式証明を取得したこと、そして型式証明を取得する能力を有したということは自社のみならず、日本、そして世界の航空機産業にとっても価値のあることだと自負している」とコメントしました。

日本的経営とは?

ドラッカーは、日本的経営の特徴として以下の4つを挙げています。
(1)総意(コンセンサス)に基づく効果的な意思決定
(2)年功序列制度による雇用の柔軟性
(3)継続的訓練による変化の容認
(4)若いプロフェッショナル・マネジャーの育成

一橋大学名誉教授 野中 郁次郎氏からのビデオメッセージ

会議の冒頭、トポス会議発起人で一橋大学名誉教授の野中 郁次郎氏は「日本が敗戦直後から驚異的な経済成長を遂げた理由は、続的改善を得意とした独自のマネジメント・システムである日本的経営にある」と説明しました。

しかし、成功した罠とバブル崩壊後の自信喪失から、強みである日本的経営を自ら否定したと指摘。分析過多(over-analysis)、計画過多(over-planning)、コンプライアンス過多(over-compliance)という現象が、今の日本企業から活力を奪っているとしました。

続けて、今回のトポス会議では「日本的経営の『知的機動力』をいかに再構築するかについて議論し、21世紀の日本企業のあるべき姿、進むべき道筋を考える」と挨拶しました。

トポス1「イノベーション時代の日本的経営」

今年のトポス会議は、3つのセッションで進められました。
最初のセッション(トポス1)では「イノベーション経営の時代の日本的経営」をテーマに、リチャード・ストラウブ氏(ヨーロッパ・ピーター・ドラッカー・ソサエティ創設者 兼 理事長、グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラム理事長)、工藤禎子氏(株式会社三井住友銀行 常務執行役員)が登壇しました。

起業家精神の重要性

ヨーロッパ・ピーター・ドラッカー・ソサエティ創設者 兼 理事長、グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラム理事長 リチャード・ストラウブ氏

このセッションでは、まずストラウブ氏がドラッカーの経営論を踏まえた「起業家精神の重要性」について語りました。起業家精神(アントレナーシップ)とは、新しい事業の創造意欲を持ち、高いリスクに果敢に挑む姿勢のことです。

ストラウブ氏は、これまでのヨーロッパ芸術ではその時代の誰もが同じ主義や傾向を追うことになり、イノベーションは限定的であったと説明。一方、日本は異なる歴史を歩んできたといいます。

同氏はその一例として、江戸時代の文化・社会を挙げました。江戸時代には様々な流派や亜流が存在する「多様性」があり、その中から多くのイノベーションが生まれたことを紹介しました。社会全体として「多様性」と「適合性」が両立して良い緊張感を生み出し、その二元性がイノベーションの強い潮流になっていたと説明しました。

イノベーションを起こす代表例としてよく挙げられるのが、スタートアップ企業です。しかし、ドラッカーは晩年著書の中で「スタートアップ企業だけがイノベーションを起こしているわけではない」と述べています。また、人類が急激に前進したのは起業家精神があったからだと説明してもいます。「起業家精神はどんな人にも重要であり、主婦や学生などこれまでとは異なる起業家(事業家)が出現する」と予測していたのです。ストラウブ氏によると「今まさに起業家社会が到来している」とのことです。

また、同氏は「日本はドラッカーが一番高く評価した国。日本が日本らしくあるためには、日本の人間関係や日本の精神性に合致するものを追求すること。これこそが、今後の日本企業が進むべき道である」と語りプレゼンテーションを終えました。

オープンイノベーションの場を自ら作り出す取り組み

株式会社三井住友銀行 常務執行役員 工藤禎子氏

次いで、工藤氏が三井住友銀行のイノベーションへの取り組みを発表しました。同行では「顧客と一緒に今起こっている変化に適応し、持続的な成長をするにはどうしたらいいか」という観点から様々な施策に取り組んでいるといいます。

その1つが、異業種連携でオープンイノベーションの場を提供する「トリプルアイ(Incubation&Innovation Initiative)」事業コンソーシアムです。

同コンソーシアムは、三井住友銀行と日本総合研究所が2016年2月に設立されました。日本成長戦略の基盤となる先進性の高い技術やビジネスアイデアの事業化を支援することを目的とし、技術やビジネスアイデアの事業化支援だけでなく、法制度調査研究・法制度設計に向けた政策提言までを行っています。各種分科会を立ち上げ、ブロックチェーンなどの新しい技術や未来の街づくり、ロボット・AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)など異業種の企業同士を連携したプロジェクトを推進しています。

また、同行はスタートアップ企業を対象にしたピッチコンテスト「未来」を開催。毎年100社規模のベンチャー企業が出場しています。さらに、ベンチャー企業や大・中企業のオープンイノベーション支援に関連する産学官での業務連携を通じて、取引先企業のサポート体制を強化しています。

三井住友銀行では、ものづくりやIT、農業、バイオ・ヘルスケアなどの業界セクターごとに専門知見のある約30のベンチャーキャピタルに出資。日本総研、SMBCベンチャーキャピタル、三井住友ファイナンス&リリース、SMBC日興証券などグループ企業をシームレスに連携する支援体制を構築し、外部とのネットワークを確立してベンチャー企業の発掘・育成を支援するエコシステム形成に取り組んでいます。

さらに同行は、日本の社会的課題解決に取り組むために「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」を設立。医療費や行政コストの削減に向けて取り組み、既に神戸市の糖尿病重症化予防プログラムを推進しています。

また、金融API(Application Programming Interface)を公開して提携先企業と協働。それぞれが保有する情報やサービスを組み合わせることで、多様なサービスを提供することを目指しています。

2人の発表後のディスカッションでは、起業家社会の実現に向けた現状の課題が議論されました。工藤氏によると「企業が個人・コミュニティや政府と対話を増やし、企業が政府・個人を巻き込んでいくことで社会課題解決型のイノベーションアイデアもうまれる」といいます。

また、ストライブ氏は「日本人の知的水準は高いが、日本企業の知的生産性は低い」というドラッカーの指摘も現状を表していると指摘。その上で「起業家社会では今までにない機会が生まれ、その実現にはイノベーションが必要である」とコメントしました。