Industrie 4.0から見えてくる、日本のスマートファクトリーの可能性

【「知創の杜」フォーカスシリーズ】IoT、AI、スマートファクトリーによるビジネス変革 の実態と方向性

IoT、AI、スマートファクトリー(注1)、Industrie4.0(注2)といった言葉が日常化し、様々な企業が新しいビジネスの変革を発表しています。お客様の現場ではどれくらいのレベルまで取り組んでいるのでしょうか?実際のビジネスに取り組んでいるコンサルタントを交え、「ビジネス変革の実態と一歩上をいくための課題と今後の方向性」をテーマに議論を繰り広げました。
※富士通総研発行『知創の杜2017年 vol.5』の記事の一部より転載。(対談日:2017年3月28日)

対談者(敬称略)
上田 晴康:株式会社富士通研究所 人工知能研究所 主管研究員
澤田 洋祐:株式会社デンソーウェーブ ロボット事業部技術企画部製品企画室 室長
巣山 邦麿:株式会社富士通総研 執行役員
中村 記章:富士通株式会社 ミドルウェア事業本部 エグゼクティブアーキテクト
熊谷 博之:富士通株式会社 産業・流通営業グループ プリンシパル・コンサルタント
齋木 雅弘:株式会社富士通総研 マネジングコンサルタント
池田 義幸:株式会社富士通総研 デジタルマーケティング・グループ グループリーダー
※役職・所属は対談当時のものです。

欧州と日本で異なるビジネス変革への壁

―――最近では、ドイツの「Industrie4.0」が話題となっていますね。日本とは何が違うのでしょうか?

澤田:はい。欧州はインターネットをFA(Factory Automation)業界に導入することに壁がなかったような気がします。2004年の時点で、中小企業が大企業にリモートメンテナンスをしている光景をよく目にしました。大企業側はファイアウォールに穴を開けることに対して非常に前向きで、自分たちのセキュリティさえしっかりしていればいいという発想だと記憶しています。人がわざわざ出向くよりインターネット経由でメンテナンスした方が効率的と言っていましたが、元々IT化の素養があった気がします。

―――最近のビジネスにはORiN(注3)が欠かせないようですが、具体的な取り組みをお聞かせいただけますか?

澤田:ORiNは、元々「バーチャルとフィジカルを共存させる」こともコンセプトの1つでした。2005年にORiNの現バージョンを公開していますので、CPS(CyberPhysical System)の発想はその時点ではすでに実現していたと認識しています。ORiNにはデバイスからの情報を収集する「工場監視系」、IPCによる統合開発環境で設備を制御する「設備制御系」、弊社の商品のようにORiNをソフトウェアアーキテクチャーの中心に置くような「製品組込系」の3つのコンセプトがあります。

澤田 洋祐(さわだ ようすけ)
株式会社デンソーウェーブ
ロボット事業部技術企画部製品企画室 室長

2005年に現バージョンのORiN Ver2が公開され、その仕様に基づいて2006年にORiN2 SDKを開発したのですが、「工場にPCとは何事だ!」という時代で、日本では受け入れられませんでした。そこで、欧州に展開したところ、うまく行くことができました。欧州はシステムインテグレーターが強く、任意の統合開発環境で設備全体をコントロールすることを好む企業が多かったからでしょう。日本でORiNによる設備統合制御が認められたのはIndustrie4.0ブーム以降ですので、5、6年のギャップを感じています。ただ、日本の場合は設備制御系よりも工場監視系でORiNが注目された感があります。おかげさまで、今はORiN協議会の会員が毎月増えるようになりました。

―――日本でも時代が追いついてきたということですね。

澤田:日本で評価いただいているのはレトロフィット、つまり古い設備も最新のアプリ、基幹系につなげられ、IoT化できる点かと思います。ORiNの特徴はデバイス側が何もしなくていいという点です。日本の自動化産業は歴史が長く、新しいものでないとダメと言った瞬間、多くの既存設備がIoT化できなくなってしまうかもしれませんので、新旧共存可能な環境が必要です。特にFA業界は古い規格が残り続け、新しいものが増えていく業界です。ORiNはアプリケーション側にもデバイス側にもゲートウェイを持たせることができるので、常に新しいものから古いものまでORiNで吸収できる構成をとっているところがお客様に認めていただいているのだと思います。

デジタル化技術でニーズとシーズをマッチング

―――工場におけるデジタル化を促進する取り組みをお聞かせください。

熊谷 博之(くまがい ひろゆき)
富士通株式会社 産業・流通営業グループ
プリンシパル・コンサルタント

熊谷:富士通の工場は、普通の企業に比べると圧倒的にPC寄りのコントロールをしていて、特定のロボットメーカーの開発キットをそのまま使ったりします。そんな効率の悪いのはおかしい、ORiN協議会が描くような理想に近い形に富士通も変わらなければと、ORiN協議会に入りました。日本の自動車メーカーの生産技術の現場は各自動車メーカーの制御部隊が担っていますが、ドイツのメーカーに行くと、外部のシステムインテグレーターが現場のラインを構築しており、自分の得意技のシステムインテグレーションを様々な自動車メーカーに横展開できる環境があります。それが日本と大きく違います。

中村:鉄骨大手の部品を作っているお客様がいらして、設計図面をもとに鉄骨部品を起こすのですが、慣れた人が見ても微妙なズレが分からず、現場に持っていって使えないことが多かった。その課題に対して我々はAR(Augmented Reality:拡張現実)を使い、3DのCADで設計図面からこんなものができるはずだと立体的に起こしたものを実際の製作部品と重ね合わせたところ、微妙なズレでもすべて設計図面通りかが一目で分かり、不良品ゼロが実現できて、お客様も喜ばれました。お客様の実現したいこと(ニーズ)とデジタル技術(シーズ)が融合することで化学反応を起こし、課題解決が図られたわけです。お客様との共創によって新たな可能性が生まれ、テクノロジーが生きることを実感したので、今後広げていきたいし、世の中もそうなっていくと感じています。

齋木 雅弘(さいき まさひろ)
株式会社富士通総研 産業グループ マネジングコンサルタント

齋木:お客様から最近言われているのが「音情報」の活用です。画像では表面部分しか分かりませんが、音を聞くと中の構造や異常が分かることがあります。このため、製品の最終検査や途中の製造工程で、音から異常を読み取れるのではないかということです。そういう新しい可能性も現場の知恵から出て来ているので、まだまだ活用が広がる領域かと思います。

澤田:私たちも3Dシミュレーションがデジタル化として最初に受け入れられた事例かと思います。市販のシミュレーションに弊社のロボットのVRC(Virtual Robot Controller)を接続できるようにし、シミュレーションと実機も接続できるようにしリアルとバーチャルを融合しました。

熊谷:3Dでどういうものができるのかシミュレーションして、今度はARの技術を使うと、実際の今あるものと重ね合わせることができる。様々なテクノロジーを組み合わせると、ようやくやりたいことができます。

テクノロジーの進化スピードと実用化のギャップを埋めるためには?

―――お客様も「こんなことをやりたい」と言うと「こんな技術がありますよ」とサジェスチョンしてくれたら嬉しいでしょうね。

熊谷:例えば、造船では各種IT技術に早い時期から着手し、世の中がまだ研究段階から実用化のトライアルを積極的にされています。我々が今「これが使えます」と持っていくと、「そんなのは10年前にやってダメだった」と言わるケースもあります。テクノロジーは2、3年経つとブラッシュアップされ、使えなかったものが使えるものになる、その時間差で、あまりに早く着手したために選択肢から除いてしまっているのです。常に技術は変化し先に進むので、ウォッチしていないと、すぐ時代遅れになってしまう気がします。

中村:今の技術は半年~四半期ごとに変わってしまい、1つ覚えたからと言って、未来も使えるわけではない。いかにテクノロジーの進化のサイクルに我々の仕事を合わせていくかがポイントになってくると思います。

上田 晴康(うえだ はるやす)
株式会社富士通研究所 人工知能研究所 主管研究員

上田:例えば囲碁に関しては、2年前は人間に勝つのに10年かかると言われていたのに、その後トッププロに勝ち、人間を追い抜くということが起きていますディープラーニングは2012年頃から急に注目を浴び、バリエーションが増えています。今、私が注目しているのが「GAN(Generative Adversarial Networks)」という仕組みで、判断しようとするものと騙そうとするものの2つを学習させる方法です。このやり方により、写真の一部が欠けていても補完したり、線だけの状態から色を再現したりと、クリエイティブな方向に行き始めています。

―――AI系のうまくいった最新事例をお聞かせいただけますか?

上田:「Deep Tensor(ディープテンソル)」は一番うまくいっている技術です。普通の機械学習は画像のように一列に並んだデータからの学習はできますが、「化合物がつながったもの」「文書の参照関係」「SNSの友達関係」といったグラフ構造のつながり方からの学習は難しかった。そこで、データのつながり方を統一的表現に落として学習する方法として発表したのが「Deep Tensor」です。例えば創薬分野では、タンパク質の化学式を入力して、薬として効くかどうかを学習させると、今まで専門家でも見つけられなかったつながり方のパターンを見つけることができます。これにより、アクセスが集中する通信に注目した侵入検知や、過去の取引に注目して金融のローンを貸し出しては危ないタイプを見分けるといった話が最先端ですね。

熊谷:富士通は社内で先行してPoCを行い、工場も検査の最終工程で画像系の機械学習を使って、今まで人間が検査していた部分を機械に置き換えていこうとしています。1つのテクノロジーが先に進むことによって、補完するテクノロジーも周辺に出てくるので、いくつか組み合わせると、今までできなかったことができるようになり、いろいろなことが起きる気がします。

工場のIoTと標準化の波

―――島根富士通の工場をお客様と見学した際、「どこがIoTなんですか?」と聞かれたことがあります。全部センサーで自動化されてIoTの積み上げになっているので、「ここがIoT」という一覧を見せてアピールしないと分からないかもしれませんね。

齋木:半導体工場では工程ごとに違うメーカーが入っていて、実績をとるにも独自データ形式で溜められているので、どうつなぐのかという話が出てきてしまいます。だからORiN協議会でデータまで標準化できるといいと思います

熊谷:RRI(ロボット革命イニシアティブ協議会)の産業機械サブ幹事会では1年ごとに活動した中身をオープンにし、経産省の産業機械課主導で日本の工作機械メーカーを主体に日本なりのスタンダードを作り上げていこうとしています。工作機械は日本のメーカーが世界でトップだという自負と技術力が業界内にはありますから、日本が勝ち抜ける領域として守らなければいけないし、世界をリードする立場でやろうとしているのです。そこで、工作機械メーカーごとに違う仕様を統一し、国として標準化していこうとしているのです。ビジネスとしてどう見るか、ユーザーとしてどう見るかは相反していて、今後はユーザーの立場が強くなり、メーカーにとらわれず、自分たちにとって使いやすい形・運用ができる方向にニーズが変わってきます。それが標準化という部分とメーカー固有という部分の閾(しきい)値かと思います。

[司会]巣山 邦麿(すやま くにまろ)
株式会社富士通総研 執行役員

―――海外の工作機械メーカーが標準的なもので出てくると席巻される危険もありますね。

澤田:多分、システムインテグレーターの立場が重要になると思います。ORiNも含め監視系で最初に使っていただいたのはイタリアですが、食品業界のシステムインテグレーションでは基幹系との接続、デバイスとの接続はシステムインテグレーターがやり、エンドユーザーではありませんでした。システムインテグレーターがORiNを採用したのは、1社でメンテナンスするのが大変だからです。そういう点で欧州はスタンダード好きなのだと思います。

中村 記章(なかむら のりゆき)
富士通株式会社 ミドルウェア事業本部
エグゼクティブアーキテクト

中村:今まで日本はお客様単位に求められるシステムを作ってきました。欧米では運用をITIL(Information Technology Infrastructure Library )基本で標準化し、ServiceNowという会社がすべての運用を巻き取ってしまいましたが、そういった会社が日本にも入ってこようとしています。これからは全体最適の観点でオープン技術を活用し、自ら標準化に取り組むことが重要だと感じています。

今後強化すべき課題とは?

―――今後はどのようになっていくべきか、課題は何か、お話しください。

上田:IoTでデータがどんどん集まっているのは事実で、そのデータで何を分析して何に使いこなしていくのかが大事になると思います。そのためにもデータサイエンティストを増やすことと同時に、問題意識を持った人が分析できる仕組みの確立が一番の課題だと思います。

澤田:今、AIとロボットはキーワードだけでも盛り上がっていますが、ロボットがAIのアウトプットデバイスになっていくと考えると、ロボットメーカー1社だけですべてを提供することは現実的ではないと思います。オープン化を目指してつなげることで、ロボット自身が単なるAIに支配される機械にならないためにも、自律のためのインテリジェンス性が必要になるかと思います。

熊谷:お客様によってはデータが溜まっていなかったり、データは溜まっているけど後で使える形になっていないという問題もあります。IoTの使い方の基本はそこで、データを積み上げた情報を自分たちの業務に生かす。見える化だけでは何の改善もできないので、人間の知恵やベテランのノウハウが勝負どころです。

中村:デジタルテクノロジーを使ってビジネス変革を促すことは欧米では当たり前の取り組みですが、日本で実際取り組んでいるのは2割に満たないという結果が出ています。お客様のやりたいことを明確にして必要なテクノロジーと結びつけられれば、デジタルテクノロジーの活用は進んでいくでしょう。それにはお客様との共創が必要不可欠で、今まで以上に強いパートナーシップを組んで共にビジネスを見て課題を共有していくことが必要です。

―――「何をやりたいか」という聞き方では難しいかもしれないので、「一番どこが問題か」という方が分かりやすいと思います。

池田 義幸(いけだ よしゆき)
株式会社富士通総研 デジタルマーケティング・グループ
グループリーダー

池田:総務省によれば、IoTの普及は2020年に2016年比で2倍になるということです。そうなると、IoTをはじめ、情報を活用し新たな価値を創出するための取り組みが必要になります。そこで、まず今あるデータを見てみることから始め、データを見ながら使い方を考えるという取り組みを支援することが増えています。それで課題も浮き彫りになり、どのデータを取得、蓄積、整備すればよいか見えてきます。また、既存のビジネスプロセス自体がデジタル化されていないことが壁になる会社も多いので、プロセスの可視化・デジタル化自体を自動化する取り組みを富士通グループで進めていきます。

―――今日はIoTやAIについて新しい知識も得られ、日本の方向性も把握できましたので、お客様に役に立つアプローチを続けていければと思います。

対談者(敬称略)
(後列左から)
中村記章、熊谷博之、齋木雅弘、池田義幸
(前列左から)
上田晴康、澤田洋祐氏、巣山邦麿

(注1) スマートファクトリー:工場内のあらゆる機械とインターネット環境をつなげることで機械の稼動状況を詳細に把握・蓄積し、この情報をもとに工場全体の効率的な稼動を実現することにより、最大の利益を生み出す環境を満たした工場をいう。

(注2)Industrie4.0:ドイツ政府が推進する国家プロジェクト。主に製造業の高度化を目指すもので、21世紀の製造業の様相を根本的に変えるため「第4次産業革命」とも言われる。

(注3) ORiN:(Open Resource interface for the Network)。工場内の各種装置に対して、 メーカー、機種の違いを超え、統一的なアクセス手段と表現方法を提供する通信インターフェース。

知創の杜(フォーカスシリーズ)「IoT、AI、スマートファクトリーによるビジネス変革の実態と方向性」

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