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東京ガスが「数理最適化技術」を活用した「攻めのメンテナンス」を実現

富士通総研が発行している情報誌「知創の杜」の中から旬なテーマを取り上げ、実際のビジネスに取り組んでいるコンサルタントを交え、対談形式でお届けしています。今回のテーマは「数理最適化技術」です。(対談日:2017年1月13日)

対談者(敬称略)
東京ガス株式会社 市川 昭仁 氏
東京ガス株式会社 飯嶋 健 氏
富士通株式会社 鵜飼 丈太
富士通株式会社 砂土居 知子
株式会社富士通総研 茂木 美恵子
[司会]株式会社富士通総研 渡辺 南

ガスの安定供給を支える「供給設備管理センター」

――AI、ビッグデータ、IoTといった新しいICTの使い方によってビジネスのデジタル化を加速する動きが活発化しています。さらに「Industrie4.0」の取り組み等があります。また、事業活動の生産性の飛躍的な向上によって事業のスケーラビリティや経営の合理的判断を実現するスマート経営も盛んになると思われます。まず最初に、供給設備管理センターについてご紹介いただけますか?

市川 昭仁(いちかわ あきひと) 氏
東京ガス株式会社 防災・供給部 制御設備G
供給設備管理センター 所長

市川 都市ガスは工場で製造されてから様々な設備を通じてお客様にお届けしますが、供給設備管理センターでは1都6県に点在する280の施設について、主にLNG(液化天然ガス)基地から出る高圧導管の各所にある高圧ステーションの電気計装の維持管理、町中の一般にはガスタンクと呼ばれるガスホルダーのある整圧所の電気、計装、機械設備の保全に37名で対応しています。

――そうした難しい業務を行うために、どのようなことを重視していますか?

飯嶋 「安定供給」と「保安の確保」が最重要課題だと思います。口で言うのは簡単ですが、実践していく上での業務基準があり、その配下に定められる作業要領・各種点検業務マニュアルを確実に実行することによって安定供給を実現しています。急ぐあまり手順がおざなりにならないよう、業務基準・作業要領の順守を所員に徹底しています。

――そうすると、業務の中に占める教育や訓練が重視されているのでしょうか?

飯嶋 はい。入社間もない人間に「安定供給」「保安の確保」を意識しろと言っても難しいので、常にキーワードを口に出すことで、重要な仕事であると意識付けをしています。

「守りのメンテナンス」から「攻めのメンテナンス」へ

――「安定供給」と「保安の確保」といった絶対的な命題に加えて、広域にまたがる多数のガス供給施設の維持管理を、少数精鋭部隊で効率的に実施していかなければならないということですね。

市川 1都6県という広範囲で280の施設を1拠点から見ており、さらに今後地域拡大や施設増加が見込まれる中で、従来からのメンテナンス方式では早晩業務量がオーバーフローしてしまうことは明らかでした。そんな時に富士通さんからフィールド・イノベーション(FI)(注1)の提案を頂き、私たちの業務を分析してもらい、新しいメンテナンス方式を導き出していただきました。まさに業務改革です。

――新しいメンテナンス方式とは、どのような内容なのでしょうか?

市川 ポイントは2つあります。1つ目は、それまでは千住センター1か所を中心として、個々の施設を都度往復する移動スタイルでしたが、それでは今後の施設の広域化に伴って移動距離がどんどん伸びてしまうため、遠方の保守エリアに中継拠点となる保守センターを設置し、そこを拠点に巡回する移動スタイルを取り入れました。2つ目は、設備単位の保守から施設単位の保守への変更です。それまでは、設備単位でのメンテナンス計画を立て、対象となる設備がある全ての施設を訪問していましたが、出向いた先の施設にある設備をいくつか同時にメンテナンスする方法に変えることにしました。

(図)業務改革のポイント

――供給設備管理センターの業務革新を支えているスケジューリングシステムはどのようなシステムなのですか?

飯嶋 健(いいじま たけし) 氏
東京ガス株式会社 防災・供給部 制御設備G
供給設備管理センター 副所長

飯嶋 280施設のうち、業務に必要な知識レベルを持つチーム編成と、最も効率のよい施設巡回順序を導き出し、最適なメンテナンススケジュールを計算するシステムです。以前は、翌月のスケジュールを人間の頭で考えるのに1週間近く要していましたが、今はシステムによって50分で結果が出てきます。

砂土居 実際には同じメンテナンス作業でも、施設の規模や導入年代によって行うことが違ったり、作業にかかる時間や必要な人数等はバラバラです。こういった特徴をすべて加味して計画を立てるのは、人の手では不可能だったと思っています。

――業務改革の経緯について、もう少し触れていただけますか?

飯嶋 東日本大震災以降、「チャレンジ2020ビジョン」(注2)が策定される中、導管部門に課せられた課題は「エネルギーを安全かつ効率的安定的に供給する」ことでした。しかし、エリアを拡大してLNG(液化天然ガス)を多方面で復旧・利用していく動きが出てきて、その後どれくらい設備が増え、エリアが広がっていくか、2012年時点では明確に見えませんでしたそういうタイミングで富士通さんからご提案があり、業務効率化に役立つ知恵をお貸しいただけるということで、業務の見直しを始めたわけです。

――それが富士通からFIの提案だったのですね。

鵜飼 丈太(うがい じょうた)
富士通株式会社 フィールド・イノベーション本部
第六FI統括部 フィールド・イノベータ
(富士通認定フィールド・イノベータ)

鵜飼 当時、「無理を感じるけど、30年やってきたのだから」と、皆が今後のさらなる広域化に不安を感じていました。現場に立ち会って行った業務量調査からも1日で行って戻る移動時間が長いのは明白で、「移動距離を短くしたい」「施設ごとにやった方がいい」など、業務改革に前向きな意見が沢山出ました。そこで、「遠方の中継拠点をベースに巡回する移動スタイル」「施設ごとのメンテナンススタイル」という2つの業務改革をご提案したところ、移動距離が短縮され、施設が広域化しても今と同じ人数で回ることができると分かったのです。今までやり方を変えなかったのは、複雑な条件を守りつつ、かつ移動時間を短縮させるような効率的なスケジューリングができないからで、システム化して欲しいとお客様から言われました。

――その結果は東京ガス様にどう捉えられたのでしょう?

飯嶋 当初は半信半疑であったというのが正直なところです。しかし話を伺う中で、来年、再来年、20年先まで見渡したとき、20XX年に破たんするということを数字的に見せられてしまったわけです。これまで業務効率化というと、点検周期を伸ばそう、作業を簡便にして時間を短くしようという「守りのメンテナンス」でしたが、今回は考え方を変えて、業務のやり方自体を大きく変える「攻めのメンテナンス」に挑まなければ、となりました。

――当初から東京ガス様の将来に対する危機意識が高いこともあり、それに対してFIの提案がぴったりフィットしたということですね。

施設訪問の順番やチーム編成に数理最適化技法を適用

――業務を変えるというコンセプトを受け、現実に実行可能なスケジューリングシステムの開発に携わった茂木さんはいかがでしょうか?

茂木 美恵子(もき みえこ)
株式会社富士通総研 ビジネスアナリティクス事業部
チーフシニアコンサルタント

茂木 富士通総研はAIを活用したスケジューリングシステムの数理最適化の機能設計およびロジック開発を担当しました。FIを実施した直後でしたので、お客様の課題は明確で、「今後供給設備が広域化しても今のままの人数で対応していきたい」「そのためには業務を平準化し、移動距離を削減する必要がある」ということでした。この課題は、月間スケジューリングシステムを作れば解決するといった単純なものではなく、数十年先まで平準化された中長期計画と年次計画、それをインプットした月間スケジュール、この3段階のロジックが必要だったのです。そのため、今後20年の作業を平準化しつつ、施設の訪問回数が最小になるように、月々にメンテナンス作業を割り振る問題について、数理最適化技術を用いて解きました。数理最適化は、異なる目的のバランス点を見つける組み合わせ問題が得意です。次に、移動距離を最小にする効率的な施設訪問ルートとチーム編成を決定するロジックを構築しました。これは施設訪問順番やチーム編成も組み合わせ最適化の問題で、ここにも数理最適化技術を用いました。

――開発前にシミュレーションで計画が可能であると確認したのでしょうか?

茂木 はい。開発前にシミュレーションで検証を行い、今の37人体制のまま業務継続できるという結論に至りました。また、設備ベースから施設ベースにメンテナンススタイルを変更し、数理最適化技術を用いて計画を立案することで、年間の施設訪問回数を年間約1,500回から約500回まで削減できるという効果も定量的に示せています。

――点検周期や移動時間といった様々な制約があって人手では大変なシミュレーションですね。

茂木 この話を頂いたとき、特徴的な点検周期の制約条件が数理最適化技術の考え方にぴったりでしたので、目標水準を満たす実行可能計画を導き出す自信はありました。それに、中長期計画、年次計画、月間スケジュールのすべてに数理最適化技術が適合することはめったにありませんから、絶対解きたいという思い入れも強かったです数理最適化は所詮コンピュータによる数値計算なので、時に血の通わない結果を出すこともあります。現場の方からすると受け入れ難い結果だったかもしれません。

――継続的なメンテナンス業務を行っている中で、あるタイミングでいきなり新しい計画に切り替えましたので、一部の作業の点検周期を前倒しすることになりました。当然、実施したばかりのメンテナンス作業もありましたから、抵抗はありました。でも、5年後、10年後を見据え、折衝も含め内部で対応しました。

臨機応変に対応し、現場業務で使い続けられるシステム開発を目指す

――システム開発の面ではいかがですか?

砂土居 知子(すなどい ともこ)
富士通株式会社 社会基盤システム事業本部
第四システム事業部

砂土居 皆さんの実際の業務を拝見していると、緊急対応も入るし、急に行けなくなる人もいるので、数理技術で最適化した結果をそのまま実施しようとしても、現場には受け入れられないと思いました。ですので、臨機応変に対応できるシステムを心がけました。例えば、「誰がどこに行く」という個人の割り当ては数理技術では出さず、結果が出た後で個人をチームに割り当てたり、その週内でどの施設に行くかは決めるけど作業の順番は現場に任せることにしたり、あとは緊急対応も調整できるようにしています。

――「血の通わない数理最適化」に砂土居さんが血を通わせたということですね。

茂木 今回工夫したのは、様々な業務シナリオを想定して複数パターンのシミュレーションを実施し、結果を可視化し、お客様の望む結果に近づくよう比較検討いただいた点です。地図上に月別の訪問施設をプロットするようなシミュレーション結果をお見せしながら、「雪が降る季節は北の山間地に行かない」「連休は観光地に行かない」といった条件を聞き出しました。また、トレードオフの関係にある「業務の平準化」と「移動距離の最小化」のバランスをシミュレーションし、定量的な数値で結果の違いを説明しました。

――そのあたりの仕様は、血が通うようにかなり練り込んだのですね。

茂木 これまでに、様々な業種・業務の計画系システムに数理最適化を適用してきましたから、数理最適化がどうしても血が通わない結果になりがちなのは予想できていました。そこをカバーできるシステムの機能を砂土居さんと話し合い、富士通サイドから「こういう調整機能があるべき」とご提案しました。

砂土居 「こういうシステムを作って欲しい」という機能要件を頂いたというより、「業務改革がやりたい」というのがリクエストでしたからね。でも、今回はその業務改革のシナリオが、背景を含めFIフェーズからお客様内部も富士通サイドも全員で共有できていたので、お客様の期待には必ず応えられると考えていました。システム開発では、要件定義で伺ったものが設計になると「やっぱりこうしたい」ですとか、設計したら「仕様変更したい」といったことが多々ありますが、今回はそういった変更がほとんどありませんでした。それは目標がシンプルで「平準化」と「効率化」だけに絞ったからだと思います。

飯嶋 まだシステムを100%使いきれているとは正直言えませんが、近いうちにシステムの有効性に気づき、より積極的な利用が行われるものと思っています。

――市川所長の目からご覧になっていかがですか?

市川 まずは1年間よく回っていたなと感じています。もっと活用すると効率的に余裕を持った業務ができるかと思いますので、担当者が使いこなせるかが今後の課題です。若い人の教育を兼ねてメンテナンスに行くことがありますので、そういった点を加味しながら、うまくシステムを活用できると良いですね。

スリムでパワフルな事業者を目指して

――最後に、今後の供給設備管理センターの抱負についてお伺いしたいと思います。

市川 まず1つ目は、スケジューリングシステム運用を軌道に乗せて、来年開通する施設、その先の工事着手している施設、そういったものの維持管理が入ってきた時に大丈夫か再検証しつつ、施設拡大・業務拡大に対応していくことです。2つ目は、今回の計画範囲はメンテナンス、定期点検業務でしたが、設備更新作業など他業務も含めた業務計画最適化が将来的にできると、業務全体の効率化が期待できます。3つ目ですが、最近の社長の発言の中でも「スリムでパワフルな導管事業者を目指す」と宣言しています。管理場所が増えて動線的にも伸びている中、業務の品質や効率化はもちろん、人のマネジメントや業務サポートの高度化が大切な課題と考えています。

――ガス供給網が今後さらに拡大していくというのが事業の前提なわけですね。

市川 社会インフラとしての輸送網ということで、我々がメンテナンスする施設が増えていくのは明白です。また、今まで10分で済んでいた作業が1日かかる設備に変わることもあります。そういったところを織り込んでいくと、もう1回業務を見直す時期が来るかもしれません。

飯嶋 施設が増えれば仕事が増える、といったパラメータを変える部分は、要件定義ではその辺はあまり多くないと見込んでいたようですが、すでに20か所くらい発生してしまったので、見込み違いな点があります。そのような運用面の改善として、私以外でも触れる人間を増やさなければならないし、システムのメンテナンスをするためのインタフェースを追加する等も考えていかなければいけないと思います。このスケジューリングシステムは1回適用してしまうと、止めるとか他のものに変えるといったことが難しいので、今後とも富士通さんにご協力いただきながら、メンテナンスして使えるシステムを継続していきたいと思っています。

――2017年4月にはガス小売自由化がスタートするということで、東京ガス様のビジネス環境も大きく変化していくと予想されます。そうした中、ガス供給インフラ、社会基盤として一層重要性が増していくと思います。これらの敷設や維持管理の安心安全という点から、サービスレベルの向上という点から、ますます高度化が必要だろうと思います。本日はありがとうございました。

[司会]渡辺 南(わたなべ みなみ)
株式会社富士通総研 執行役員
ビジネスアナリティクス事業部長※

(写真左から)鵜飼、砂土居、市川氏、飯嶋氏、茂木、渡辺

(注1)フィールド・イノベーション(FI):お客様ともにビジネス課題を可視化し、ICTだけでなく仕事のやり方やスキル、業務プロセスを含めて改革を推進する活動。
http://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/fieldinnovation/
(注2)東京ガス チャレンジ2020ビジョン
http://www.tokyo-gas.co.jp/Annai/plan/
(注3)東京ガス株式会社様HP
http://www.tokyo-gas.co.jp/

※渡辺執行役は2017年3月31日付けで退任。
※役職・所属は対談当時のものです。
※この対談は、富士通総研発行の『知創の杜2017 vol.4』の記事を一部修正の上、転載したものです。

知創の杜(フォーカスシリーズ)「数理最適化技術で実現した広域ガス供給設備の保全業務改革」

当記事の詳細をPDFでご覧いただけます。

コンサルタントやエコノミストの知見・ノウハウをご紹介する情報誌「知創の杜」はこちら >>

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