2030年のSDGs達成、企業はどう取り組むべきか

2030年迄に国際社会が達成すべき目標として、2016年1月からスタートしたSDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)。環境や社会、経済活動を未来に向けて持続可能とするための取り組みが、世界各国の企業で始まっています。しかし日本では、どのように進めていけばよいか迷っている企業も多いようです。日本の企業が国際社会の一員としてSDGsを達成し、自らも持続的に成長していくためには今、何が必要なのか、共創とICT技術との視点から考えます。
【富士通フォーラム2017 カンファレンスレポート】

SDGsへの本格的な取り組みをスタートしよう

カンファレンス前半では、国連開発計画(UNDP)の近藤哲生氏、多摩大学大学院研究科長の徳岡晃一郎氏、東北大学の今村文彦氏、世界経済フォーラムの高橋雅央氏の4人の有識者の方々にご登壇いただきました。また、富士通の佐々木伸彦より、富士通のビジネスを通じ、社会課題解決に向けた取り組みを紹介しました。

SDGsの本質と企業の役割とは

国連開発計画(UNDP)
駐日代表事務所
駐日代表
近藤 哲生 氏

2016年SDGsがスタートしました。2015年まで推進されてきたMDGs(ミレニアム開発目標)は、貧困の撲滅や教育の普及など、主に途上国の開発を目的とし、公共部門の開発専門機関など一部の人を対象に掲げられました。それに対して、SDGsは環境や社会、経済を未来に向けて存続させるため、先進国を含めた全ての国と人を対象に、2030年までに達成すべき目標として国連で採択されました。なぜ「Sustainable(持続可能な)」という言葉がついているかというと、これを目指さないと、地球や私たち人間が持続可能ではなくなってしまうからです。このことをまず私たちが自分ごととして捉え、少しでも良い未来を子供たちに手渡すため、世界を変えていこう、というのがSDGsの本質です。

SDGsは地球上の全ての人間、生きとし生けるものが持続的に生きていくためのすべての条件を網羅しており、17の目標、169のターゲット、230の指標で構成されています。どの目標もテクノロジー、イノベーション、産業技術基盤が整わなければ達成が困難です。その中でも、9番目の「強靭(レジリエント)なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業基盤を作る、そのためにイノベーションを活用していく」という目標や、17番目の「持続可能な開発へ向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」という目標は、SDGs達成のための大切な要素となっており、企業の果たす役割は重大です。

SDGsを社会課題とビジネスの2つの側面から考えた時、ゴール達成につながる3つの大きな潮流があります。1つは、全ての人々が「自分ごと」として、将来を考える時代になったこと。2つ目に「ESG投資」、つまり、環境や社会課題に貢献する企業に積極的に投資するという、新しい投資基準の重要性が認識されるようになったこと。3つ目に、単なる社会貢献ではなく企業が本業の一環として取り組む共有価値創造(CSV)が重要な視点になる、ということです。つまり、企業そのものの社会への価値、ソーシャルインパクトの高い企業が良い企業と言われる時代となってきていると言えます。

このような観点から、SDGsの目標達成に寄与している多くの日本企業の中でも、富士通と東北大学災害科学国際研究所、UNDPが協業し、災害統計グローバルデータベースの構築を通して、世界の防災に貢献しつつある事例に私は注目しています。企業の運営のあり方が社会にとってどういう意味があるかが問われている今、皆さんのコアビジネスを通じて、SDGsを実現していくことに期待しています。

小粒のイノベーションに甘んじず、未来構想力を強める

フライシュマンヒラード・ジャパン パートナー・SVP
多摩大学大学院 研究科長 教授
徳岡 晃一郎 氏

社会課題に取り組む企業にとって、イノベーションがいかに重要かということについてお話ししたいと思います。日本企業の場合、イノベーションといっても前例踏襲の改善オンリー型、自前主義に囚われた内向き型に止まることが少なくありません。しかし、SDGsのようなグローバルビッグイシューに向き合うにはこれでは不十分です。これを裏付ける数字として、世界規模でESG投資が6200兆円あるのに、日本企業による投資は56兆円に過ぎないというデータがあります。

イノベーションの目的はだんだん進化しています。これまでは、イノベーションとは単に新しい技術やアイデア、市場を創造することと捉えられていたかもしれません。しかし、SDGsで提唱している「だれも取り残されない世界」という大きな社会課題に向き合う時、日本の企業はもっと世界の人々を意識し、より大きなスケールで物事を捉える必要があるのではないでしょうか。

今、イノベーションの主戦場は、GoogleやAppleのように「新しい技術やアイデアから新たな価値を創造し、新たな市場を創造する活動を行い、ライフスタイルや考え方を変え、社会に意義ある大きな変化を起こすこと」だと私は考えています。そしてまたさらなる進化形として、持続可能な成長、社会的公正や共通善を達成するために、社会の現実、あるいは予想される問題の転換を仕掛ける取り組みである、とも私は定義しています。このようなスケールの大きいイノベーションを起こすためには、より良い未来を構想する「未来構想力」を持ち、現実を変えていこうとする力、つまり「イノベーターシップ」が必要です。イノベーターシップとは、熱い思いと実践知で現実を転換し、より良い社会へ向けてイノベーションを起こしていくリーダーの力量である、と私は捉えています。イノベーターシップを発揮してSDGsへ向き合うには、今こそ、SDGsを企業戦略の中核に据え、世界へ発信できる理念を持ち、世界の人々に届けるという広がりを意識し、本腰を入れて持続的に取り組んでいくことが重要です。

人工知能やスパコンの支援を受けて進む、災害防災の科学

東北大学 災害科学国際研究所
所長 今村 文彦 氏

東北大学災害科学研究所(災害研)の使命と活動紹介として、我々研究所の1研究機関として2015年4月に開設された災害統計グローバルセンター(GCDS)についてお話します。

2015年3月、仙台市で第3回国連防災世界会議(仙台会議)が開催され、国連加盟国が今後15年にわたり目標とする行動様式について協議が行われました。その会議で、国際的な防災に関する枠組みである「仙台防災枠組」が採択されました。これは、防災・減災へ向けた具体的な活動計画を策定したものです。そして、会議終了後の4月、国際開発計画(UNDP)と東北大学との合意により、災害統計グローバルセンター(GCDS)が設立されました。設立の背景には、災害科学を研究している立場から、2011年の東日本大震災の経験や教訓を世界に発信し同じような被害を軽減したい、または繰り返さないようにしたい、という強い想いがありました。

ところが、枠組みを作っても海外各国は日本と違い、過去の被害実態が未整理で、実態がつかめないという問題がありました。また、仙台防災枠組には、災害による死亡者の減少など、世界各国で目指すべき7つのグローバル指標を設定していますが、災害損失や被害の統計が無いため、その進捗を評価することが難しい状況でした。そこで、GCDSでは、UNDPとの連携を中心に、国連機関やその他防災関連機関と連携体制を構築し、今では災害被害統計の収集、分析、活用を切り口に、国際防災戦略に貢献。民間セクターとして、富士通が、グローバルデータベースの基盤構築を支援しています。

災害研では、他にも防災、減災に向け、スーパーコンピューター「京」による被害実態の把握、観測予測技術なども行っています。今後も更なる津波の予測精度の高度化が必要だと認識しています。ただ、それ以上に重要なことは、そこから得たデータを活用して、地震や津波の発生後に避難すべきなのか、不要なのか、地域住民が判断できる形にして提供することだと思います。私たちは、東日本大震災を経験した者として、今後も、スパコン技術や人工知能などのテクノロジーを通じ、色々な大学・研究機関と連携して地域に特化した防災、減災情報の発信、提供を目指していきます。

SDGsを「自分ごと」として引き寄せるための共創

富士通株式会社
執行役員専務 佐々木 伸彦

富士通のビジネスモデルは、一言で言えば「ICT基盤をはじめとする様々な技術の提供を通して、お客様にイノベーションを創出し、社会の発展に貢献する。さらには、お客様や社会の成長を起点に、様々な資源を再投資する好循環を作り出し、自らも持続的に成長する」ことです。本格的にSDGsの達成に貢献するためには、このビジネスモデルにSDGsの要素を組み入れられるかどうかが鍵になります。

世界的には人口爆発が進み、人口1000万人以上のメガシティが増えることで、環境汚染や災害の深刻化が懸念されます。一方、日本では高齢化が進み持続可能性への懸念が生じています。これらの課題は複雑に連環しており、企業活動とも無縁ではないのですが、どうすればそうした課題を"自分ごと"としてとらえ、その解決に本格的に取り組むことができるかが重要です。

世界15万人の富士通グループ社員がバラバラの未来を描いていては、総合力を発揮することはできません。各拠点や部門がSDGsという、いわば共通言語の目標を認識し、それぞれのビジネスの目標と重ね合わせていくことがポイントになります。さらにパートナーとの連携、共創による新たなエコシステムを作っていくことも不可欠です。

富士通は現在、国連開発計画、東北大学とパートナーシップを締結し、災害統計グローバルデータベースの設計・構築に取組んでいます。このプロジェクトは、社会貢献活動と言うだけではなく、グローバルなビジネスモデルを構築して持続的に推進し、SDGsにも貢献していくものです。そのほか、「食とスマート農業」のエコシステムを形成する取り組み、スーパーコンピュータを活用したIT創薬や、AIを活用した予防医療への富士通の取り組みなどにもSDGs目標達成の一環としてしっかり取り組んでいきます。

あなたの課題ではなく、私たちの課題

世界経済フォーラム
エグゼクティブコミティーメンバー
高橋 雅央 氏

自動運転、針の無い注射、ブロックチェーン、AI、3Dプリンターなど、「第4次産業革命」と呼ばれる技術イノベーションが急速に進んでいます。ビジネスリーダーなどが、これらの技術イノベーションのもたらす良さを組み込んだ社会システムを共創し、必要な政策・規制を協働で創り上げていくことが大切です。その一方で、SDGsなど決められた目標を盲目的に受け止めるのではなく、なぜこういった項目を国連がSDGsとして発信するのかという、背景や文脈に注意を払う必要があります。

皆さんはSDGsを自分の課題として語れますか? 欧米のリーダーは、課題について話す時常にOur issue(私たちの課題)として語りますが、多くの日本のリーダーはYour issue(あなた方の課題)を主語に持ってくることが多い。人称を自分に近づけて理解することがいかに大事かを意識されていない方が多いと思います。

SDGsに取り組む日本企業は、まず何を実現したいか、なぜ自社が行うか、工夫の余地はあるかなどの問いを自問自答しながら、さらに目標達成のための前提を問い直し、その上で必要な協業を摸索するというステップが欠かせません。SDGs達成のためには、一企業、一業界だけでは限界があります。セクターを越えた協力関係をどのように形にし、自らの目指す姿と社会のインパクトを両立させるかが重要になってくるのです。

パネルディスカッション
SDGsを実現するには、グローバルな協業・共創が必要

パネルディスカッションでは、日経BP社の藤田香氏がモデレーターを務め、登壇した前出の5名が「SDGs達成に向けて技術が果たせる役割と課題」「SDGsにおけるパートナーシップの在り方」の2つのテーマについて、さらに詳しく議論しました。

SDGs達成に向けて技術が果たせる役割と課題

日経BP社
日経エコロジー&日経BP環境経営フォーラム
プロデューサー 藤田 香 氏

企業が持つ技術力をSDGs達成に向けて集約していくために様々な課題があります。富士通の佐々木は「SDGsの有無にかかわらず、技術は世の中を大きく変化させるものです。
企業がより大きな視点で、自分たちの技術をどのように世の中に適応させていくかを考えた時、SDGsが大きな指針になっていることは確かです。SDGsは、どうしたら私たちの技術で人を幸せにすることができるか、多くの道筋を示してくれました」と述べました。

UNDPの近藤氏は「MDGsには貧困を減らすなどの成功した部分と、妊産婦死亡率などの未だ苦戦している分野があります。後者では妊産婦らが適切な医療サポートに十分アクセスできない点が大きかったと思います。SDGsではこれを技術の力で克服していこうとしています。遠隔医療システムや自動翻訳技術を使えば、言葉と距離の壁を乗り越えることができます」と、イノベーションへの期待を語ります。

一方で企業のイノベーションから生まれる新しい技術と、既存の政策や規制とをどう調整していくかも重要な課題です。世界経済フォーラムの高橋氏は「例えば、針のない注射器というイノベーションがありますが、従来の医療機関はこうした技術の登場を想定していません。画期的なイノベーションをSDGs達成につなげていくためには、スタートアップ企業、ファシリテータ、テクノロジーサービス企業、政府関係者などが一堂に会して、より大きな絵を描くための議論をする必要があります」と述べました。

SDGsにおけるパートナーシップの在り方

SDGsは一つの政府、一つの企業だけでは到底実現することができないスケールの大きな取り組みです。そこには様々なセクターのグローバルな協業・共創が必要であり、パートナーシップを強化するためのコツのようなものが必要になります。東北大学災害科学国際研究所でUNDPや、富士通と協業を進めている今村氏は、その経験を問われてこう語りました。「国連世界防災会議・仙台会議はパートナーシップ推進の重要なきっかけになりましたが、同時にそこで痛感したのは、日本の防災技術のレベルは高いですが、そのままでは世界に適用できないということ。UNDPのネットワークを通じて世界に啓発することでより広く伝わりますし、世界からのデータも集まります。そのデータ分析のためにはパートナー企業が不可欠で、それが富士通でした。ネットワークとICTを活用することで、津波の予測などを可視化情報として世界に発信することができるようになりました。防災研究を一地域に止めるのではなく、グローバル安全学として飛躍させるための鍵もここにあります。」

近藤氏は「これまで、UNDPは様々な国の政府と協業してきましたが、SDGsでは単に政府との協業だけでなく、アカデミアとビジネスの領域を巻き込んだ『A、B & G』という関係が重要になります。今回の東北大学との協業はそのノウハウを得る重要な経験になりました。日本企業は国際社会では欧米企業に比べその存在感は控えめですが、SDGsという共通のテーマが視野に入ったことで、今は日本企業にもエンジンがかかっています」と評価しました。

これを受け佐々木は「企業は利益を追求することが目的ですが、同時に法人として社会から尊敬を得たいとも思っています。もともと日本には『三方良し』というビジネス哲学がありますが、SDGsはそれをグローバルに発信していくチャンスです。SDGsの目標達成には共創によりイノベーションを起こしていく必要がありますが、その実現のために従来の企業組織では対応できにくい部分は、プロジェクト組織を立ち上げるなどして対応力を強めることも必要です」と述べ、共創に向けたパートナーシップづくりを意識的に行っていく必要性を語りました。

SDGs達成に向けて発想の転換が求められている

一方、グローバルなパートナーシップは、あうんの呼吸だけで実現しないこともまた確かです。高橋氏はダボス会議の経験を踏まえ、「グローバルな会議では言葉の定義を明確にすることはもとより、参加者がそれぞれアジェンダを持ち寄って議論することが欠かせません。さらに単に自国・自社の経験とソリューションを提案するだけでなく、あるべき将来像を提示しながら、その課題を共に実現するという姿勢を見せる必要があります」とも指摘しました。

徳岡氏は、この日の議論を総括し、「より大きなスケールでパートナーシップを構築するためには、これまでの発想を転換することが不可欠」とした上で、「これからは従来の企業間連携という発想を超え、政府、国際機関、NGO、NPO、企業、大学などのより大きな枠組みで、共に未来を想像するという発想が不可欠になります。ルールが存在しない領域に踏み込むのですから、単にルールを守っていればよいという消極的な態度ではなく、ルールを作り出すという積極的な姿勢も求められます」と提言しました。

登壇者
  • 国連開発計画(UNDP)
    駐日代表事務所
    駐日代表
    近藤 哲生 氏

  • フライシュマンヒラード・
    ジャパン パートナー・SVP
    多摩大学大学院 研究科長 教授
    徳岡 晃一郎 氏

  • 東北大学
    災害科学国際研究所
    所長
    今村 文彦 氏

  • 世界経済フォーラム
    エグゼクティブコミティーメンバー
    高橋 雅央 氏

  • 富士通株式会社
    執行役員専務
    佐々木 伸彦

モデレーター
  • 日経BP社
    日経エコロジー&日経BP環境経営フォーラム
    プロデューサー
    藤田 香 氏