デジタル時代を勝ち抜くシステム開発

AIやIoTなどのデジタル技術がビジネスや社会の中核に組み込まれ、働き方や生活を変え、イノベーションを起こしています。企業はデジタル技術を活用したビジネスの変革や、新たなビジネスの創出が求められる一方、どのようにデジタル活用をすればいいのか、どうシステムを開発していけばいいのか分からないと悩む企業も少なくありません。デジタルを活用して成果を上げている企業の事例を通して、サービスを迅速に実装する方法を紹介します。
【富士通フォーラム2017 カンファレンスレポート】

デジタル活用成功事例の数々

カンファレンス前半は、AR技術を活用したモノづくりや、プロ野球の新しいファン増大を目指したIT活用の取り組み、デジタルビジネスの変革に向けたお客様との共創など、デジタル時代を勝ち抜くシステム開発について、ご講演いただきました。

デジタル技術でものづくり革新を実現

株式会社巴コーポレーション
顧問
石津 治男 氏

巴コーポレーションは東京スカイツリーなどの立体構造物や鉄塔など幅広い分野で活動する総合建設会社です。1979年から3次元CADの活用を開始し、2012年から鉄塔設計に合わせた設計の自動化に取り組むなど、設計・製造工程で3次元データを活用してきました。

長年、モノづくり革新に取り組んできた当社ですが、3次元データを設計・製造工程だけでなく、品質管理にも活かせないか社内で検討していました。その検討中、富士通からAR技術を使った3次元データ活用について提案があり、採用させていただきました。そして共にAR技術を活用した部材診断の技術を開発し、今はその部材診断を実際に現場で使っています。

部材診断とは、3次元CADデータと診断対象となる部材の写真を、タブレット端末とAR技術を使って3次元画像で重畳する(重ね合わせる)ことにより、現場でボルトの穴のズレや取り付け位置のズレなどを確認するものです。この技術によって、現場で製品の不適合がこれまで以上に分かるようになり、製造ミスの発見や手戻りの防止、組み立ての遅延リスク排除など、様々な効果を上げることができています。

監督やコーチにも評判の高速動画検索

パシフィックリーグマーケティング株式会社
執行役員 COO/CMO
根岸 友喜 氏

パシフィックリーグマーケティングはプロ野球(パ・リーグ)6球団の共同出資で設立した企業です。新しいファンを増やすことをミッションに、インターネットを活用したファン向けマーケティング活動や、国内外向けにコンテンツの放映権/配信権などのセールスを行っています。

その中でも、ITを活用したファン拡大への取り組みの1つが「パ・リーグTV」で、富士通のグループ会社と一緒に開発した、有料の動画配信サービスです。パ・リーグの全試合をいつでも、どこでも視聴でき、会員数は約7万人、VOD再生回数は年間に約3億回を数えています。

富士通とは動画検索サービス「PitchBase」(ピッチベース)も共に進めてきました。このサービスは、最初はファン向けに開発したものですが、映像検索が高速に行えるなど、便利さが球団のスカウトや監督、コーチなどの目に留まり、今や国内の球団だけでなく、メジャーリーグの球団にも採用されています。以前は選手のピッチングフォームやバッティングフォームなどの映像を、監督や選手たちはビデオルームで確認していましたが、今は遠征の移動中やホテルでもタブレット端末で自分の見たいシーンを検索、閲覧できると好評です。今後もファン拡大に向けて、コンテンツの開発など様々な施策を行っていきたいと思います。

デジタル時代に求められる、アジャイル型のシステム開発

株式会社ITR
代表取締役 兼 プリンシパル・アナリスト
内山 悟志 氏

デジタル化には注目すべき4つの潮流があります。1つ目は「社会・産業のデジタル化」です。現在のデジタル時代では、ビジネスに直結した業種・事業特化型のビジネスITが進展しています。その中でも、先ほど講演されたAR技術を活用した巴コーポレーション様の事例は、社会・産業のデジタル化を体現する、まさにビジネスITと言えるものです。

2つ目が「顧客との関係のデジタル化」です。先ほどお話があったパシフィックリーグマーケティング様の事例は、マーケティングとITを融合したマーケティングITと呼ばれるものであり、顧客との関係をデジタル化した良い例です。この他には3つ目の、「組織運営や働き方のデジタル化」、4つ目の「デジタル化に対応したビジネスを創造」があります。

次に、イノベーション領域でのデジタル活用で重要なことをご説明します。従来の基幹系システムなどで行われていたSoR(注1)に対し、イノベーション領域では新技術の採用やこれまでと異なるビジネスプロセスの構築など不確定な要素が多く、SoE(注2)の特性を持ったシステム開発をしなければなりません。そのため、試行錯誤しながら進めるアジャイル型のシステム開発が必要となってくるのです。

企業や研究機関などが持つ技術やアイデアを組み合わせて革新的な製品開発につなげるオープンイノベーションや、顧客の反応を見ながら反映するサイクルを短期間に繰り返すリーンスタートアップ、公開されたAPIを活用して新サービスを開発・提供するAPIエコノミーなど、イノベーション領域には様々な特性があります。今後はさらに、ウォーターフォール型(注3)、自前主義といったこれまでのシステム作りに対する既成概念から脱却するマインドチェンジが必要になってきます。

(注1)Systems of Record:業務処理や記録のシステム。
(注2)Systems of Engagement:人やモノなどへの関与のためのシステム。
(注3)従来の一般的なシステムライフサイクル(ビジネス要件->システム要件->設計・実装)で回す進め方。

お客様と最後まで共に歩むデジタルジャーニー

富士通株式会社
執行役員
今田 和雄

富士通では、「FUJITSU Knowledge Integration」のコンセプトの下、これまでの実績と経験に基づき、デジタルビジネスの変革に向けてお客様と共に歩んでいく「デジタルジャーニー」を提唱しています。このデジタルジャーニーは、お客様の良きパートナーとして試行錯誤しながら最後まで一緒に歩んでいくことを宣言したものです。

さらに、お客様の様々なニーズに対応していくために、新たなインテグレーションの取り組みの全体像として「Knowledge Integration in Action」を定義しています。情報収集・問題発見、アイデア創出、サービス実装の3つを共創フェーズとして定義し、高速に繰り返しながらお客様と共に歩んでいきます。

次に、デジタルビジネス時代に求められるサービス実装について考えてみます。従来のSoRと異なり、デジタルビジネスのシステム開発では次のような課題があります。システムに求められる要件をあらかじめ定義できない、アイデアを実現する実装方法が分からない、リーンスタートアップに向けたIT人材・スキルが不足している、といった課題です。

お客様が実現したいサービスと最先端テクノロジーには多くのギャップがあります。多岐にわたる最新技術からサービス実装で使う技術をどうやって選ぶのか、また、クラウドで多様に提供されているAPIなど、外部サービスに対する知見と使い方、これらも含め、技術・サービスのインテグレーションのための高いITスキルと経験が必要です。

こうした課題に対し、富士通の解答は2つあります。人材育成とテクノロジーインテグレーションです。デジタルテクノロジーに明るくお客様との共創をリードできる「デジタルイノベーター」の育成と、非常に多くのデジタルテクノロジーをインテグレーションして、お客様との共創実践で培われた成功モデルをデザインパターンとして提供することで、お客様との共創を加速させていきます。

デジタル時代を勝ち抜くシステム開発とは

カンファレンス後半は、デジタル時代を勝ち抜くシステム開発の考え方をテーマに、先に登壇した4名にモデレーターを加えたディスカッションが続きました。

共創によるシステム開発のあるべき姿

日経BP社
執行役員
日経BP総研 イノベーションICT研究所所長
桔梗原 富夫 氏

モデレーターの日経BP社 桔梗原氏は、テーマを「共創によるシステム開発のあるべき姿」、「小さく始めて継続的にフィードバックし、改善・進化していくシステム」の2つに定め、話を進めました。

最初のテーマ「共創によるシステム開発のあるべき姿」について、石津氏は「プロトタイプを開発して分かったことが2つあります。1つは、現場で使うにはコツがいるということです。3次元的な感覚がないとうまく重畳できないこともありました。もう1つは、現物の認識に時間がかかったことです。複雑な形状の場合、4、5分はかかります」と説明します。

部材診断のテストにおいては、不良品の検出という難易度の高い問題への対応が必要でした。これに対して富士通の今田は、「スマホのゲームで有名になったAR技術ですが、富士通では5、6年前から取り組んできました。建築部材の写真に3次元データを重ね合わせて表示すれば簡単にできると考えたのですが、実際はそうはいかず、現物と設計データがぴったり合わずに苦労しました」と振り返ります。この発言に対し、石津氏は「実際は現物と設計データがずれていることが正解、富士通のテストデータに間違いはありませんでした」と話します。

その後、工場で評価を行い、現場の声をフィードバックしながら、製品に反映して再び現場で適用・評価してもらうという繰り返し作業を半年間で6回実施。今田は「お客様に寄り添いながら、アジャイル開発することの大切さを実感しました」と振り返ります。こうした経緯もあり、石津氏は「思い通りのものができ、現場ではストレスなく活用しています」と評価しました。

そして、アジャイル開発について内山氏は「日本ではモバイルやWeb系アプリの開発に適用するものと考える技術者も少なくないようですが、海外では基幹系もアジャイル開発が浸透しています。今後、日本でもビジネスITの領域はアジャイル開発が主流になっていくと見ています」と話します。

次に、パ・リーグを盛り上げるための取り組みについて、根岸氏は「保有しているコンテンツを活かすためには、ファンの力やITベンダーなど外部の力も必要です。共創のイベントとして富士通とハッカソンならぬ、『パッカソン』を実施しています」と述べました。ハッカソンとは、設定したテーマの関係者が一堂に会しアイデアを出し合い、更にはアイデアを形にするプロトタイプ開発まで行うイベントのことです。

富士通ではSE部門が中心となって組織横断的にハッカソンを開催してきました。パシフィックリーグマーケティングとの「パッカソン」では、スポーツのUXに興味のあるデザイナーやエンジニアも参加するなど、アイデア段階からお客様と一緒にデジタルジャーニーを歩んでいます。

例えば、あまりITに詳しくないプロ野球の監督や選手がタブレットを操作しやすいようUI/UXの機能強化を図っているのもパッカソンの成果です。根岸氏は「PichBaseのUI/UXは年配の監督にも評判がよく、優れています」と評価します。また、UI/UXの重要性について、内山氏は「今後、スマホネイティブの若者がどんどん入社してきます。社内システムも機能重視から、UI/UXを重視したシステム開発が求められるようになるでしょう」と指摘します。

小さく始めて改善していくシステム作り

2つ目のテーマ「小さく始めて継続的にフィードバックし、改善・進化していくシステム」については、根岸氏は、「プロ野球ファンサービス向上のための取り組みが必要。野球の新しい楽しみ方をいろいろ提案する上で、ヒットするシステムは10打席1安打か2安打でいいと考えています。大切なのは、ファンの意見を聞きながら、より多くの打席に立って打ち手の数を増やしてシステムを改善していく方法を意識することです」と話しました。

また、システム改善について、内山氏は「最近は継続的なインテグレーションとデリバリーを行うCI/CDの開発環境も進んでいます。また、テストとデバッグを同時に進める考え方もあり、小さく始めて改善していくシステム作りが今後、主流になっていきます」と紹介。

かつては自社部門でシステム開発を行ってきたという石津氏は、「現在は、富士通の汎用技術を使いながらイージーオーダー的にカスタマイズできるので、開発スピードも上がり、システムの継続もうまくいっています」と話します。これに対し、今田は機能を最小限にして改善したり、柔軟にカスタマイズしたりするためにも、「様々なAPIを組み合わせられる素結合型のサービスが必要です」と述べました。

桔梗原氏が今後のシステム開発で富士通への期待を尋ねたところ、石津氏は「部材に画像データを重ね合わせただけで、製品が合格かどうか判定するなど、AIを活用したシステムの開発に一緒に取り組みたいですね」と富士通との共創への期待を話しました。また、根岸氏は「新しいファンを増やすためにビジョンとミッションを共有し、目標に向かってやり抜く覚悟を期待しています」と熱いメッセージを。そして、今田は「富士通はお客様のデジタルジャーニーを最後まで一緒に歩み、皆様のご期待に応えていきます」と応えました。

最後に、モデレーターの桔梗原氏が、「皆様にもデジタルビジネスに取り組もうという気になっていただければ幸いです」と述べ、パネルディスカッションを締めくくりました。

尚、当日はグラフィックレコーディングの実演が入りました。
これは、議論の内容を絵と文字によってリアルタイムに記述していくものです。
議論の整理にもなりますし記録にもなる。また、記録を見ながら議論を発展させていくことにもなるという手法です。

グラフィックレコーディングのアウトプット

登壇者
  • 株式会社巴コーポレーション
    顧問
    石津 治男 氏

  • パシフィックリーグマーケティング株式会社
    執行役員 COO/CMO
    根岸 友喜 氏

  • 株式会社ITR
    代表取締役 兼 プリンシパル・アナリスト
    内山 悟志 氏

  • 富士通株式会社
    執行役員
    今田 和雄

モデレーター
  • 日経BP社
    執行役員
    日経BP総研
    イノベーションICT研究所所長
    桔梗原 富夫 氏