アジア市場で成功する「勝ちパターン」を生み出す

新興国市場であるアジアで、日本企業が成功を収める「勝ちパターン」はあるのでしょうか? 2017年6月、東京で開催した「FUJITSU Asia Management Forum 2017」において、キーノートスピーチに早稲田大学ビジネススクール 教授の内田和成氏が登壇。「グローバル・アドバンテージ ~新興国市場で勝ちパターンを構築、持続する」と題した講演の様子をレポートします。
【FUJITSU Asia Management Forum 2017 キーノートスピーチ】

アジアで戦う上でキーになるのは「現地化」

早稲田大学ビジネススクール 教授 内田 和成 氏

新興国が発展していく中、日本企業はどのように世界、アジアで事業を展開すればいいのでしょうか。

内田氏は、「キーになるのは現地化。土俵を世界に移し、どこでどのように戦うかがポイントです。ビジネスの成功に共通の正解はありません。自社に相応しい正解を見つけることが重要です」と示唆しました。

まず、アジアは国ごとに事情が大きく異なる点を挙げ、ベトナムでの韓国企業サムソン製品の販売例を紹介。隣接したアジア各国と比べても非常に売れ行きが好調な理由として、韓国の音楽やアニメが人気を博し、韓国製品への関心が高まったことが背景にあると説明しました。

「ベトナムでは、既に日本製品の優秀さは知れ渡っています。その地で、サムソンが品質を訴求してもうまくいかなかったでしょう。一方で、既に韓国文化は人気でしたから、それに乗っかる形でマーケティング展開してうまくいったのです。先に製品を輸出し売ろうとする日本のビジネスとは全く逆の道を歩んだのです」

同様に、大きく異なる特徴を持つ例として、インドネシアにおけるUberの苦戦を挙げました。インドネシアは交通渋滞が激しく、移動手段は自動車よりもバイクが中心です。このような風土の中でシェアを広げているのが、「GOJEK(ゴジェック)」というサービス。これはバイクで人を運ぶだけでなく、花や弁当なども運びます。また利用者の要求に応じて、時にはマッサージ師を乗せることもあります。

このように各国の事情に根付いたサービスが展開される国では、Uberでさえも対抗が難しい現実を示し、「新興国で戦うには、まず相手を知ることが重要。所変われば、ビジネスも変わります」と、勝ちパターンも別の国では全く通用しない課題を指摘しました。

「アジアは国ごとに違いが大きく、同じ市場はありません。いわば、訳の分からない相手と、日本企業は対峙する必要があるのです」と内田氏は、アジアの新興国市場でシェアを広げていくことの難しさを述べました。

成功を収めることに正解はない。独自の勝ちパターンを見つけることが重要

では、現在アジアで成功を収めている日本企業にはどのような共通点があるのでしょうか。

内田氏は、その特徴として、「教科書に乗っているようなグローバルスタンダードで成功しているところは少ない」と指摘し、独自の勝ちパターンを生み出した企業が強いと分析しました。

例えば、トヨタ自動車では、現地の社員を日本に連れてきて、トヨタ流のやり方を徹底的に教えています。またヤクルトは、世界各国でヤクルトレディによる直接販売を展開し、シェアを拡大させています。どちらも自分の会社の流儀を世界中で展開していると言えます。

内田氏は「トヨタは、日本流でもグローバルスタンダードでもなく、トヨタ流を世界で展開しています。このように自社の独自性を強化して、勝ちパターンを見つけることが必要です」と主張しました。

そして、独自の勝ちパターンを構築しているのは、メーカーだけではないとし、公文式を世界中で展開している日本公文教育研究会のサービスについても紹介。海外に駐在する日本人スタッフの数よりも、サービスを展開している国の数が多く、現地の人に任せ成功している事例であると解説しました。さらに内田氏は「子どもに教えるのであれば、現地の人が現地の言葉で教えるのが基本。何より、我が子の成長を望まぬ親などいないため、その人たちに働きかけて教育者になってもらう」という公文のポリシーを説明しました。

勝ちパターンを構築するには、試行錯誤が必要

成功している企業は、どのような勝ちパターンを構築したのでしょうか。そして、日本本社のやり方を現地で通用させるには何が必要なのでしょうか。

内田氏は、「試行錯誤して、失敗を積み重ねて、独自のやり方を見つけることが重要」と見解を示しました。

トヨタは、現地のスタッフを日本に招き、トヨタ流を教え込んでいます。しかし学んでもらうことは技術や技能の習得だけではありません。日本のトヨタで実践している規律もしっかりと教えているといいます。内田氏は「技術や技能に加えて、トヨタの哲学を含む精神面を教えること。それがトヨタクオリティにつながっています。精神面が欠けると、仏作って魂入れずになりかねません」とメンタルの重要性を言及しました。

また、グローバルの売り上げが過半数に達するユニ・チャームでは「自社の哲学に共鳴してくれる人を採用する」という方針を立てていると紹介しました。

一般的に、優秀な人材を採用しようとする企業は少なくありませんが、優秀な人は次のステップを求めた結果、会社を出ていくことも珍しくありません。しかし、「企業の哲学に共鳴して入社する現地スタッフは、長期に渡って勤務し、会社に価値を与え続けてくれる」と内田氏は言います。

最後に、「勝ちパターンの構築には最初から答えがあるわけではありません。試行錯誤を繰り返し、時には痛い目を見ながら経験から学ぶこと。成功している日本企業は、日本で成功した強みを、何らかの形で海外市場でも活かしています。日本での強みが通用するならそのまま活かし、必要なところは現地化していくことがポイントです」と述べ、講演を締めくくりました。