あなたは女性をフェアーに評価していますか
~女性の活躍のために、企業が取り組むべきダイバーシティとは

ダイバーシティの核である女性の活躍に向けて、企業は何に取り組めばよいのでしょうか。NHKの「クローズアップ現代」で20年以上キャスターを務めてきた国谷裕子氏が、自身の経験や取材を振り返りながら語りました。
【富士通フォーラム2017 特別講演レポート】

女性が活躍できる企業からはイノベーションが生まれやすい

キャスター
国谷 裕子 氏

「クローズアップ現代」が始まって20年の間に日本の1世帯当たりの所得は120万円下がり、男性が働き女性が家事育児を支える仕組みは通用しなくなりました。社会の変化がさらに速く、複雑化する現在、リスクや変化に対応してイノベーションを起こすために必要なのは、ダイバーシティです。そして、そのダイバーシティ推進の核にあるのが、女性の活躍を推進する取り組みです。

クローズアップ現代では雇用問題を多く取り上げてきました。しかし、女性をテーマとする回より、男性や若年層の問題を取り上げた回が圧倒的に多かったのです。それは、番組が始まって以来23年間、番組の編集責任者が全員男性だったことなど、制作者の多くが男性だったからではと考えています。女性視点のテーマや提案が認められにくくなっていたのです。多様な視点を持つダイバーシティな番組作りが、この体制ではできていなかったのではないか、と今では思います。

私はクローズアップ現代でキャスターとして成功したい、とにかく認められたい、という一心で、スタッフが決めるスケジュールに対してイエスと言い、早朝や深夜だろうと土日だろうと働きました。成功することに一生懸命だった私は男性のような働き方をして、女性たちの気持ちに思い至りませんでした。おそらく、周りの女性たちからは「あの人のようには働けない」と思われていたに違いありません。

そんな私がダイバーシティについて目を開かされたのは、2010年、ある国際女性会議に出会った時です。「女性が活躍できている企業ではイノベーションが生まれやすい」「女性が活躍する企業では男女ともに働きやすい環境が生まれて、社会全体が活性化する」などの議論に接し、目から2枚も3枚もウロコの落ちる思いをしました。

「曖昧な評価」という見えない壁が、女性のキャリア形成を妨げる

ダイバーシティへの意識が高まり、取り組みも始まる日本ですが、その一方で、世界経済フォーラムが毎年発表している男女平等指数を見ると、日本は2010年に94位だったのが、2016年は111位に落ちています。2003年に、小泉政権が2020年までに女性管理職比率を30%にすると目標を掲げましたが、厚生労働省が発表した2015年の調査結果では女性が管理職に占める割合は11.9%に留まっています。旗を振ってアクセルを踏んでいながらも世界のスピードには追いつけず、遅々として目標に届いていません。

なぜこのような状況が続くのでしょうか。女性にとって働きがいのある職場づくりが充分でないことが、女性のキャリア形成と管理職昇進の壁になっているのです。

日本女子大学の大沢真知子教授が中心となって実施したキャリアに関する調査では、卒業時点で働く意欲が高い人ほど離職率が高いという結果が出ています。この理由について、大沢教授はやりがいの感じられる仕事の機会を男性と同様に与えられていないからと分析しています。日本にはまだまだ性別役割分担の意識が強く、女性は、意識的・無意識にフェアーでない評価をされ、結果的に昇進は遅れ、働く意欲を薄れさせているのではないでしょうか。

フェアーな評価を妨げる原因は何でしょうか。スタンフォード大学にあるダイバーシティに関する研究所では、女性の昇進を妨げる「見えない壁」について研究しています。「見えない壁」とは、女性への評価が曖昧になっていることです。例えば、男性上司は男性部下に具体的な言葉でアドバイスを与えるのに対し、女性には「今年はよくやった」などの曖昧な言い方に終始しているのです。この分析を受けて、複数の上司で部下の評価を実施するなど曖昧な評価をなくすための取り組みが始まっています。女性たちのやる気を引き出し、働きがいのあるしくみが持てているかを、見直す必要があるのではないかと企業は感じ始めています。

女性たちが目指したい、リーダーのロールモデルをつくる

女性たち自身の課題もあります。独立行政法人の国立女性教育会館が2015年に入社した正社員の男女にアンケート調査を実施したところ、男性の94%は管理職を目指したいと回答しました。一方、女性は58%に留まりました。管理職に就きたくない理由として、家庭と仕事の両立が難しい、自分には能力がない、責任が重くなる、が挙げられています。

女性の自己肯定感が低く、管理職を目指す傾向が弱いという意識の問題があるのは、女性が、これまでの男性リーダーと同じように振舞わねばならないというプレッシャーに捕らわれているからではないでしょうか。しかし、今後本当に女性をはじめ多様な人々のクリエイティビティやイノベーションを期待するのであれば、一人ひとりが自分らしく自信を持って働き続けられる会社にすることが必要です。そして、意識的にチャレンジングな仕事に就かせ、励まし育てて、自身が目指したい女性リーダーのロールモデルを作る必要があるのです。

真のダイバーシティが生むイノベーション

2014年から導入され「資生堂ショック」として話題になった、資生堂の短時間勤務の美容部員1,200人に向けた施策があります。企業側は、復職した美容部員に土日や休日、夜間に働いてほしいと求めて、世間やマスコミを驚かせました。しかし企業側の真意としては、一番化粧品が売れる時間帯に販売経験を積み、スキルアップして働きがいを感じてもらいたいという思いがあったのです。「資生堂ショック」から3年後の取材では、美容部員たちの一番大きな変化は「自分はこの仕事を継続していく」という意識が根付き、プロ意識が身に付いたことだと伺っています。そして「改革の次のステージは、男性社員の意識改革や働き方の多様性への取り組みである」と人事部長は話していました。

女性も男性もキャリア形成ができて働きやすい、ダイバーシティのある組織を作るために、やるべきことはまだまだあります。複雑化し変化の激しい現代において、ここにいらっしゃる皆さんがダイバーシティのある組織を作り、さらに多くのイノベーションを生み出していかれることを願っています。

登壇者
  • キャスター
    国谷 裕子 氏