これからのAIが変える日々の暮らし、産業・社会を考える

多くの分野で注目を集める「AI(人工知能)」。ディープラーニングのブレークスルーによって、2010年代に入り急速に発展しました。高度に進化したコンピュータの処理能力とソフトウェア技術によって実現するAIには、IoTやビッグデータの活用と並んで私たちの生活を大きく変える期待が寄せられています。本格的な普及時代が到来したAIは、これから私たちの暮らし、産業、社会をどのように変えていくのでしょうか。
【富士通フォーラム2017 カンファレンスレポート】

AIの現状と未来の動向

カンファレンス前半は、特化したタスクしか処理できない「特化型AI」と進化型AIの概要、AIに関する研究開発の取り組み、AIを活用した未来医療の3テーマについて、各方面の有識者の方々にご講演いただきました。

今、人間はAIを活用できるかどうかの分岐路にいる

駒沢大学 経済学部 准教授
井上 智洋 氏

今までのAIはいわゆる「特化型AI」と呼ばれます。チェスならチェス、将棋なら将棋など、特化したタスクしか処理できません。しかし特化型であるにしても、2020年になると、AIが実空間の幅広い局面で利用されるようになります。自動運転車や自律型のドローン、自動運転トラクターなどの「スマートマシーン(賢い機械=自律的に動く機械)」が普及し始めるからです。2025年になると、言語の理解ができるAIが登場し、これがロボットに搭載されると、接客ロボットや執事ロボットが使われるようになります。そして2030年になると、「汎用型AI」が登場すると考えられています。これは、人間と同様に様々な状況で知性を働かせることができるAIです。人間は、様々なタスクをこなす汎用的な知性を持っていますが、将来はこういった汎用的な処理をこなすAIが誕生するということです。

2030年は、生産構造の劇的な変化である「第4次産業革命」が起きるとも言われています。これは、機械が人間にとって代わって生産活動を行うというものです。汎用型AIを始めとした技術を導入して生産のオートメーション化を高度に進めた国とそうでない国とでは、2030年以降、経済成長率に大きな開きが出てくる可能性があります。つまり私たちは今、分岐路に立たされているのです。企業でも個人でも、AIを活用できるかどうかによって、様々な局面で格差が開いてしまうだろうと考えられます。

それでは、私たち人間はどうすれば良いのでしょうか。まずはオートメーション化をもっと進める必要があります。現在は第3次産業革命の真っ只中です。もっとIT化を進める必要があり、同時にAIの研究者だけでなく、「AIを活用できる文系の人材」を増やす必要があります。その上で、人間は人間にしかできないクリエイティブな仕事に特化することを、企業は意識していかなければならないと思っています。

理研AIPセンターが取り組む機械学習研究の最先端

理化学研究所 革新知能統合研究センター
センター長
杉山 将 氏

2016年度より文部科学省が「AIPプロジェクト」を開始しました。これはAI、ビッグデータ、IoT、サイバーセキュリティを含む統合プロジェクトで、このもとで理化学研究所は「革新知能統合研究(AIP)センター」を設立しました。AIPセンターは「次世代基盤技術の開発」「サイエンスを発達」「社会実装に貢献」「倫理・社会的課題への対応」「人材育成」の5つの事業を展開しています。

AIに関する研究開発は世界規模の競争ですが、主要な応用研究は既に予算規模の勝負になりつつあります。それに対し、基礎研究はまだまだ「個人勝負」の様相です。現在ブームになっているテーマを追いかけるのではなく、10年後に花咲くかもしれないテーマに賭けていくことが重要ではないかと思います。

昨今はディープラーニングが非常に注目されていますが、現状の技術では未だ解決できない問題もたくさんあります。今後もディープラーニングの基礎研究にしっかりと力を入れて、さらなるの性能・効率の向上につなげていきたいと考えています。

また、「ビッグデータ+ディープラーニング」が現在盛んに研究されていますが、分析に必要なデータのラベル付けのコストが高いのが実用上の問題となっています。そこで、私たちは、「正例とラベルなし例からの分類」など色々な方法を試しています。機械学習の研究としては、ラベル付のコストが低くて学習の精度が高い手法を作ることが今後ますます重要になっていくと考えています。

AI、スパコンが拓く医療・創薬の未来

京都大学大学院 医学研究科
教授
奥野 恭史 氏

私の研究室では精密医療や創薬の革新的な技術開発にフォーカスし、特にシミュレーション技術やAIを駆使した医療・創薬の高度化に取り組んでいます。精密医療では、人のゲノム情報が簡単に測定できるようになり、これを用いて個人の体質に基づいてより効果的で安全な治療の選択をするという研究が進んでいます。

例えば、ゲノム配列のコードがあればどんな病気になりやすいか、どんな薬が効きやすいかが分かります。個人ごとに分かれば精密な医療ができます。このような理由でゲノム医療=精密医療が世界中で進んでいますが、そういった課題を解決するというところで、AIが非常に注目をされています。

ゲノム医療におけるAIとしては、IBMのWatsonがあります。日本でも日本人のゲノムを使ってしっかりとAIを作ろうということで、京大と富士通で日本版Watsonを作るプロジェクトを開始しました。
Watsonというのはがん治療で有名ですが、私たちはがんに限らず様々なゲノムのAIを目指しており、「予測」も可能なAIを、次世代のAIとして開発したいと思っています。

医薬品の開発において非常に問題なのが、開発のコストと時間です。開発の費用としては、だいたい1品目あたり1200億円位かかると言われています。また開発期間は10年以上かかると言われています。医療を高度化するには先進の医療が必要で、先進の医療を入れるためにはお金がかかります。こういう状況の中で私自身が目指しているのは、創薬にスーパーコンピュータとAIの技術を導入して、医薬品の開発コストを劇的に下げようということです。例えば開発期間で4年の短縮、あるいは業界全体で1.2兆円位の削減ができないかと考えています。

この時、スーパーコンピュータやAIの技術は非常に重要な武器になります。この意味で、日本のIT企業に大きな期待をしています。

AIによって、私たちの未来はどう変わるのか

カンファレンスの後半は、先に登壇した3名の方々にモデレータを加え、「AIの現状と未来」について、社会、ビジネス、倫理の3つの観点からパネルディスカッションの形で進みました。

AIがもたらす社会とビジネス

<モデレータ>
富士通株式会社
執行役員
原 裕貴

モデレータの原裕貴は、「AIと社会」「AIとビジネス」「AIと倫理」という3つのテーマを設定。最初のテーマ「AIと社会」について、理化学研究所の杉山将氏は、特定のタスクに特化した「特化型AI」と人間のような知性を持った「汎用型AI」の間にはまだまだ大きな隔たりがあるとし、「現在、危惧されているような人間を駆逐するようなAIの出現を心配する必要はない」ことを説明しました。

京都大学の奥野恭史氏からは、医療分野におけるAIへの期待や関わりについて紹介がありました。奥野氏が専門とする医療分野は、日本が抱える社会問題そのもの。高齢化や医療費など、AIによって状況を好転させられるテーマが多くある一方、AIによる誤診などの心配も存在します。奥野氏は「AIが誤診をした時にどうするかという話がありますが、AIが出した回答で、すぐそのまま治療につなげることはありません」と説明。「医師がいるのですから、AIの補助を受けて医師が最終的な判断を下します。そういった所で厚労省とも話をしています」と、医療分野にAIが普及しても医師の存在が必要であることを強調しました。

また、たとえ専門外の医師であっても、AIを利用することで「ある程度の医学知識で安全な治療ができる」と、医療分野でAIに寄せる期待が大きいことを示しました。

駒沢大学の井上智洋氏からは、AIが普及することで労働者の分布傾向が変わり、クリエイティビティやマネージメントなどの頭脳労働に就く人がかなり増える可能性があることを紹介しました。

AIが普及すると、今の仕事はなくなる?

続く「AIとビジネス」に関するテーマでは、"AIによって仕事が失われるのか"を中心にディスカッションを展開しました。もし、AIによって今の仕事がなくなるのであれば、私たちはどうすれば良いのでしょうか。

これに対して井上氏は、「2045年くらいには全人口の1割くらいしか働いていない」というシナリオを公開。さらに、「現時点でもIT化によって仕事の内容や就労状況が変化していますが、ITのもっとインテリジェントなものをAIと考えた時に、これからますますAIの影響は高まっていくと考えられます」と、将来的な予測を示しました。

このような汎用型AIの登場について、杉山氏は「科学者の立場からは正確な年代は予測できませんが、近い将来ではないと思います。それまでにかなりのブレークスルーを続ける必要があるかもしれません」と意見を述べました。

また、「AIがすべての業種で人から仕事を奪うのか」という疑問については、奥野氏から「医療従事は人と人との触れ合いで、例えば患者は看護師がどう接したかによって癒やされ方が変わる。そういったことがAIにできるとは思えません」とし、さらに「医療の現場では、機械にできることはAIに任せるなど、人間の負担を減らす環境に期待したい」などの意見を述べました。

これに関して杉山氏は、「我々が研究している機械学習はAIの頭脳の部分ですが、AIのシステムが実際に社会に導入されて使われていく時には、人間と触れ合う部分の研究が大事になってきます」と説明。「AIの基礎技術が発展してかなり賢いものができたとすると、ある意味頭脳労働はなくなるかもしれませんが、本当に人間と触れ合う部分は最後まで残ると思っています」と、ホスピタリティのないAIの発展だけで社会や仕事の環境が激変することはないとの考えを示しました。

AIが発展すると、今までにない倫理が求められる

今後、AIが社会の中に浸透してくることは間違いがありません。しかし、その時に倫理の問題が問われることになります。例えば自動運転や医師の診療は、どこまでをAIに任せて良いのか。問題が起こった場合には誰が責任を取るのか。パネルディスカッションの最後には、「AIと倫理」についての意見交換を行いました。

医療に携わる奥野氏は、AIを利用する責任は"その人"にあるとの見解を示しました。「例えば医師が何か調べたいことがある時、今はGoogleで医師自身が情報を探しますが、そういう作業をAIが代わりに行うと、論文を読む時間のない医師は非常に助かるわけです。でもそれをどの辺で留めておくか、どう判断するかは最終的には医師の技量に関わってきます」

この他、杉山氏は、新入社員の採用選別にAIを利用するのは比較的簡単にできるが、人間が介さない選別で不具合があった場合の責任をどこに設定するか、といった懸案事項も紹介しました。

モデレータの原は、「AIは人間のための技術。普及と安全な運用に向けて解決すべき課題はまだまだ山積みの状態です。AIの導入は世界的な流れでもあり、その中で日本が遅れを取らないよう、制度の整備や投資の継続が必要です」と述べ、パネルディスカッションを締めくくりました。

登壇者
  • 京都大学大学院
    医学研究科
    教授
    奥野 恭史 氏

  • 理化学研究所
    革新知能統合研究センター
    センター長
    杉山 将 氏

  • 駒沢大学
    経済学部
    准教授
    井上 智洋 氏

モデレータ
  • 富士通株式会社
    執行役員
    原 裕貴