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米国発、ラーニングスタイル最前線から学ぶAI時代を生き抜くスキル

【「知創の杜」フォーカス】ラーニングスタイル

このシリーズは、富士通総研が発行している情報誌「知創の杜」の中から旬なテーマを取り上げ、実際のビジネスに取り組んでいるコンサルタントを交え、対談形式でお届けするシリーズです。第8回のテーマは「AI時代を生き抜くスキルとラーニングスタイル」です。

対談者(敬称略)
後藤 義雄(株式会社ベネッセホールディングス 事業開発部 プロジェクトリーダー)
平松 知江子(株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ イノベーション戦略本部長)
山本 秀樹(Minerva Schools at KGI(ミネルバ大学)日本事務所代表)
志賀 真保子(株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室 シニアコンサルタント)
平野 篤(株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室長・司会)

※所属・役職は対談時(2016年11月9日)のものです。

AI時代のスキルに対する問題意識
─変化する時代に応じて新しい価値を生む学び─

――今ある職業の半分が将来コンピュータに取って代わられると言われたり、2020年にプログラミング教育が必修化されたり、ICTやAIをきっかけにラーニングスタイルやスキルの定義が大きく変わっています。それを踏まえてお話しいただけますか?

山本 秀樹(やまもと ひでき)氏
Minerva Schools at KGI(ミネルバ大学)
日本事務所代表

山本 私はミネルバ大学の日本事務所代表を務めています。以前、外資系企業でリーダーシップ研修を行う中で、今の時代、良い大学を出て企業に入ったものの活躍できない、30代40代の方も過去に培ってきたスキルが今の社会に応用できない、というスキルギャップが大きい状態に課題を感じていました。その点、ミネルバ大学は、専門知識ではなくクリティカル思考やクリエイティブ思考、効果的コミュニケーションを鍛えるにはどう知識を整理すればよいかにフォーカスしているのが特徴です。

後藤 私はICTを活用した学びが先行しているシリコンバレーに2011年に飛び込み、最新情報をキャッチアップしながら新しいサービスを作る活動を続けてきました。2016年に日本に戻り、シリコンバレーで実践してきた知見を活かして日本で新たな事業を作ることに挑戦しています。

平松 私はAI時代に必要なスキルとは、課題を発見する力や、解決策を見つける力、それもディスカッションしながら導いていく力だと思っています。そういう考えのハブになり、スキルを高めていこうと、2016年4月に富士通で「みらいDOORS」という共創の部屋を開設しました。ここでは、外部のイノベーションリーダーとの研究会「タマリバ」、子供たちが先端技術と触れ合う「キッズイベント」などを用意しています。やがてAI自身がクリエイティブなアイデアも出していくかもしれません。(図1)

(図1)共創空間「みらいDOORS」と活動計画(富士通SSL)

志賀 私には就学前の子供が2人いますが、シンギュラリティ、IoT、AIと騒がれる中、どのようなスキルを子供が習得していけばいいのか、私だけでなく周りの親たちも皆悩んでいます。2016年度上期に富士通総研(FRI)でも子供向けプログラミング言語を使って小学生対象の教室を5回開催し、子どものポテンシャルや親の問題意識の高さを肌で感じました。

米国のトレンドは「教学分離」とパーソナライズ、アダプティブ

――米国事情を踏まえてトレンドやキーワードをご紹介いただけますか?

山本 1つは「MOOCs」(注1)というオープンオンラインコースが普及する中、大学の役割の「教えること」と「学ぶこと」の分離が加速することです。またオンライン以外でも、講義形式中心の知識を教えるだけの授業に失望し、大学を辞めて自分でオープンコースを受ければいいと考える学生も増えている。それが2つめのトレンドであるブロックチェーン(注2)です。つまり、学びのあり方が多用化している。こういう中で教育機関としての大学が今後どういう位置づけになっていくのか、アメリカも模索しているのではと思います。

後藤 アメリカの場合、特に大学の学費が高いこともあり、教養部分はオンライン学習でもいいと4年前くらいからMOOCsが盛り上がってきました。ミネルバさんはオンライン授業が特徴的ですが、大学の将来をどうお考えですか?

山本 テクノロジーを利用した授業が大学に浸透していく速度は今後加速すると思います。ただ、MOOCsに変えたら、授業についていけずドロップアウトするケースが多くなってしまったという状況もあります。きちんと生徒の理解度に応じたアダプティブな授業になっていないのです。そこで今、テクノロジーを使って一人ひとりの問題解答状況に応じて適切な解説を提供するという新しいサービスが出てきています。講義形式の知識の伝達はMOOCsに置き換わらざるを得ない状況をミネルバ大学は作りたいと考えています。

後藤 義雄(ごとう よしお)氏
株式会社ベネッセホールディングス 事業開発部
プロジェクトリーダー

後藤 私はシリコンバレーに家族と住んでいましたが、日本と違うと感じたのは、小学1年生からパソコンやマウスの操作に慣れるような取り組みがなされていること。算数のゲームや掲示板のようなコミュニケーションツールで子供が書き込むことによって体験的に「システムってこういうふうに動くんだ」と感じ取れることが大きいと思います。日本はいきなり体験を飛ばして学びに入ってしまっているのが気になりますね。

志賀 私もシリコンバレーの公立小学校を見学しましたが、小学校1年生がイヤホンをしてオンラインで勉強したり、教室を半分に割ってブレンディッド・ラーニング(Blended Learning)(注3)をしたりしている。それによって個別に「この子はこのくらい進んでいる」というのを先生が把握している。30~40人の子供たちの理解度を先生が一気に把握する解決策としてICTが公立校で使われているのに驚きました。

後藤 「ICTツールを使え」と上から指示されるのではなく、先生が自分で考えて、「これなら何とかなる」とやっている。アメリカは日本に比べ学力格差も大きいので、それをカバーするために努力しているなと感じました。

志賀 アメリカでは、元々行われていた授業にICTを導入するのではなく、ICTを使ってどんなことができるかを考えられた学校が出てきています。凄いと感じたのは、10人の生徒に対し40人近くのエンジニアが10台のカメラで見ながらリアルタイムでモニタリングし、行動分析していること。目的はパーソナライズで、それぞれの子供が何を勉強すればいいのかをICTで実現する方法をエンジニアが研究していることが衝撃的でした。

平松 私どもはzSpace(ジースペース)というホログラフィックタブレットを扱っています。心臓やタービンのような大きいものとか、実際には触れないものを3Dとして触れたり分解したりできるので、バーチャルだけどリアルに物の仕組みを体感でき、ICTならではの教材ができると思います。

ミネルバ大学が行き着いた教育の姿
─社会で活躍できる知恵を適切な学費で実現─

――ミネルバさんは今やアイビーリーグを凌ぐほど学生が世界中から集まると紹介されていますが、詳しく内容をお聞かせいただけますか?

山本 ミネルバのミッションは、「世界中の才能ある学生にこれからの社会で活躍できる知恵を適切な学費で実現すること」です。これを今のアメリカのすべてのエリート大で実現させるためのベンチマークがミネルバ大学です。今のアメリカの大学の課題は、学費が高すぎるためにアイビーリーグ(アメリカの名門私立大学8校の総称)などの半分以上は一部の富裕層で占められていること、それから人種や国籍、ジェンダーを優遇する「優先枠」が、実は需要を抑える「制限枠」になっていること。それなら優先枠を取り払ってしまおうということです。また、変化の激しい時代には科目横断的に学ぶクリティカル思考やクリエイティブ思考が重要ですが、これらは教わるものではなく、自ら学ぶものです。その学びの環境には少人数の反転授業(注4)が有用ですが、コストが高い。これをミネルバは新しいオンラインのプラットフォームを創ることで解決しました。

――実際やってみて、学生からの評判はどうですか?

山本 オンラインのプラットフォームを使った授業は、学ぶテーマについての事前課題を提出したうえで参加でき、授業中のディスカッションで個々人のパフォーマンスを測れます。また個人の発言量を測り、生徒に均等な発言機会を与えることができます。習熟度、学習効果は非常に高く、生徒からも好評です。CLA+というテストの結果によれば、入学時にはクリティカル思考力のテストでアイビーリーグの1年生と同レベルですが、1年生修了時点でアイビーリーグの大学院生と同レベルになります。(図2)

(図2)ミネルバ大学の特徴

これからの教育に向けたベネッセのチャレンジ
─創造的な思考問題解決・発見力を身につけられる学びへ─

――ベネッセさんの新しいチャレンジを詳しくご紹介いただけますか?

後藤 「子供たちが未来を創り、新しく問題を発見してそれを解決できるように育ってほしい」というのが目標です。そのチャレンジとして、クリエイティブな力を持つ子供を育てる、問題発見力・解決力を身につけられるサービスを作りたいと思っています。創造的な思考や問題解決ができる子を育てるといったことが求められており、ベネッセとしては長い歴史と経験を生かして学校や家庭に新たな学びを提供したいと思っています。

志賀 シリコンバレーでは具体的にどのようなことをされたのでしょうか?

後藤 新しい学びの方法を実現するために、自社の知見だけではなく、現地のスタートアップや面白い技術を持った人たちと一緒に開発してきました。教育とは違う分野で使われる技術でも「子供の教育に置き換えたらどうなるのか」と相談すると、意外とアイデアが出てきます。例えば電気を通すペンを授業に取り入れ、「1個の電池で複数のLEDを光らせるにはどうすればいい?」「これが並列つなぎだよ」と知識を教えながら、自分で設計、実行、やり直しを繰り返すことで、いわゆるエンジニアリングプロセスを体験しながら作品を完成させていきます。さらに、出来上がった作品を家に持って帰り、YouTubeで紹介するなど、より深い学びにつながることも狙ってワークショップを開催していました。このように子供たちが自分で考えて表現するということは、これからもっと評価されるようになると考えています。

教育へのICTテクノロジーの活用や期待
─共創支援、ダイバーシティ・コミュニケーション、テレイグジスタンス─

平松 知江子(ひらまつ ちえこ)
株式会社富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ
イノベーション戦略本部長

平松 コミュニケーションは「できる」というだけでなく、その質が大事だと思います。例えば見知らぬ大人が小さな子供たちの中に入って会話すると、どうしても威圧感がありますよね。でもパペットが喋っているなら、初めから人見知りなく楽しく会話が弾みます。そうした効果をICTでもたらすことができるのです。

山本 ミネルバのオンラインプラットフォームが面白いのは、例えばクリティカル思考を学ぶために必要な脳の使い方や基礎コンセプトを約120項目の要素に分けて、1~5段階の習熟度をアセスメントしていくという点です。そのデータを分析・検証することで、効率的、効果的な学び方が得られます。ミネルバで出来上がったその教授法とICTがセットになることで、将来的に国の教育に生かされる形になっていくと思います。

後藤 ICTは所詮ツールと言う人は多く、既存の業務フローや生活の効率化に使うイメージで語られますが、本当は「ツール」を超えて「武器」にしてほしいと思っています。例えば戦国時代に鉄砲が伝来して戦い方が変わったのと同じように、新しい技術を知っていると、今までの価値とは全然違うビジネスや生活の新しいやり方を発想することができます。子供たちには様々なテクノロジーに慣れてもらって、自分で考えて作れる武器として身につけてほしいです。

志賀 真保子(しが まほこ)
株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室
シニアコンサルタント

志賀 プログラミング教室を実施して分かったのは、子供はすぐ覚えるということです。パソコンを触ったことがない子が数時間でゲームを作っていく。こうしたいという創造力のポテンシャルが凄い。ただ、ローマ字入力ができないから、やりたいことがあるのにそこで引っかかっている。ICTを今までの授業スタイルに入れていくのではなく、「ICTで何ができるか」から考えて、子供にとって何が一番いいのかを考えていきたいと思います。

これからの日本における変化
─2020年に向けて学校を変える、IT教育を変える─

――最後に今後の日本について、お一人ずつお話しいただけますか?

山本 シンガポールやマレーシアの中等教育の学校では、数学や英語の授業だけでなく、デザイン&テクノロジーの授業でCADを回して3Dプリンターで抽出したものをプレゼンしています。まさにクリティカル思考・クリエイティブ思考を養う過程でICTを普通に使っているのを見ると、日本の一方通行な授業に自分の子を預けていいのかと不安になります。学校のニーズを聞くだけでなく、学校をどう変えていくかということに、我々も主体的に関わっていくべきだと思います。

後藤 2020年は東京大会の年でもあり、学習指導要領が改訂される年でもあります。「何を知っているか」という知識の習得だけでなく、「それを使ってどのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」を視野に入れた学びのサポートをしていきたいと思っています。

平松 共創によるイノベーションがますます重要な時代になってくると思います。ICTでできることを1つずつ進めながら実現に近づいていきたいですし、そうした中で私たち自身ももっと好奇心旺盛にチャレンジしていきたいと思います。

志賀 多くのことが変化していくこの先、「これだ」というスタンダードがない中を進んでいかなければいけません。「AI時代」と言いながら、まだAIで何ができるか模索中だと思うので、常に変化をウォッチし、様々な方々とディスカッションしながら、共に新しい学びを模索していけたらと思います。

――本日はありがとうございました。

[司会]平野 篤
株式会社富士通総研 デジタルサービス開発室長

(写真左から)後藤氏、平松、山本氏、志賀、平野

(注1)MOOCs:Massive Open Online Courses(MOOCs、ムークス)。インターネット上で誰もが無料で受講できる大規模な開かれた講義のこと。
(注2)ブロックチェーン:分散型台帳技術、分散型ネットワーク。
(注3)集合研修とeラーニングを組み合わせ、それぞれのメリットを活かして学習する方法。
(注4)反転授業:授業と宿題の役割を「反転」させ、授業時間外にデジタル教材等により知識習得を済ませ、教室では知識確認や問題解決学習を行う授業形態のこと。

知創の杜(フォーカスシリーズ)「AI時代を生き抜くスキルとラーニングスタイル」

当記事の詳細をPDFでご覧いただけます。

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