トップランナーが語る「ブロックチェーン革命」の本質

「Sansan Innovation Project 2017」レポート

金融と技術が融合して創り出す革新的な金融サービス、Fintech。そのFintechで注目されている技術がブロックチェーンです。ブロックチェーンは、働き方やビジネスの未来にどのような変革をもたらすのでしょうか。2017年2月2日、東京・港区のヒルトン東京お台場で行われた「Sansan Innovation Project 2017」に、編集室が潜入。「働き方の進化」をテーマにしたセッションの様子をレポートします。

金融と経済の仕組みを変える、ブロックチェーンのインパクト

ブロックチェーンとは、ビットコイン(仮想通貨)を支える技術で、従来の集中管理型から個々のシステムが情報を保有する分権型へと仕組みを変えようというものです。かつてインターネットが社会や経済のあり方を大きく変えたのと同じように、近い将来のビジネスや社会の姿を変えると言われ、金融のみならず流通、サービス、製造など幅広い領域への適用が期待されています。

当日行われたセッション「FinTech・IoTが描く未来〜ブロックチェーンがもたらす分散型社会の働き方〜」では、モルガンスタンレーMUFG証券の安井 肇氏をモデレーターに迎え、ブロックチェーン研究の第一人者である早稲田大学ファイナンス総合研究所の野口悠紀雄氏と、日本銀行の小早川周司氏、経済産業省 商務情報政策局の佐野究一郎氏により、「FinTech・IoTが描く未来〜ブロックチェーンがもたらす分散型社会の働き方〜」について討議が行われました。会場には多くの人が来場し、満席となる盛況ぶりでした。

世界の金融機関が注目するブロックチェーンの応用可能性

最初に野口氏は、ブロックチェーンを取り巻く現在の状況について、次のように紹介しました。
「ブロックチェーンは分散型台帳技術と呼ばれ、データベースの一部(台帳情報)を共有・共通化してシステムが連携するという仕組みです。様々な分野に広がりを見せていますが、最も一般に知られているのが仮想通貨=ビットコインだと思います。ビットコインについて、2014年に起こったマウントゴックス事件(当時日本最大であったビットコイン取引所・マウントゴックスが破綻した事件)により信頼性が壊滅的になったとも言われましたが、取引所がストップしてもサイバー攻撃を受けても、ビットコインは市場価値を失うことはありませんでした。つまり、この一件によりビットコインそのものの堅牢性が証明されたと言えるでしょう」
その対極にあるのが中央集権型の金融システム。その象徴は日本銀行券であり、銀行預金もすなわち中央集権型である、と野口氏は説明しました。

これを受け、小早川氏より日本銀行が現在取り組んでいる課題について紹介がありました。
「私たちは現在、参加者限定型(クローズド型)の分散型台帳(ブロックチェーン)技術を使った実証実験を進めています。取引処理のスピード(パフォーマンス)や、取引が嵩んだ場合でも処理がしっかりと行われるか(アベイラビリティ)といった視点に基づいて、実験結果を積み重ねています。この背景としては中央銀行が提供するサービスにブロックチェーン技術を応用できないかということが挙げられます。これまでの結果を見ると、処理性能の面では、検証ノード数の増加に伴って、レイテンシー(遅延)時間が拡大する傾向にあることが分かってきました。この間、英国、カナダ、スウェーデン、中国といった国々では、紙幣やコインをデジタル化できないか、デジタル化に際してブロックチェーン技術を応用できないかといった議論も行われています。人類の歴史において貨幣は形を変えながら進化してきていることを踏まえると、これらの海外の動向を踏まえながら、しっかりと調査・研究を進めていくことが重要であると考えています」

今後は、こうした新しい形の貨幣がエンドユーザーにとっての選択肢となりうるのか、安全な決済手段となりうるのか、さらには決済サービスの効率性を向上させるのかといった観点に照らしながら、ブロックチェーン技術の有用性を検討していく必要がある、と小早川氏は言います。

FinTechの応用が想定される5つの分野とは

一方、佐野氏からは非金融部門でのブロックチェーン技術応用についてのお話がありました。

「取引先の信頼性を担保するために多大なコストを払って構築していた中央集権的な第三者機関を不要にするかもしれない、ということが、ブロックチェーンがもたらす変革の大きなところでしょう。今、IoTやAIの中に分散型のコンピューティングが生まれています。日本でも大きな広がりを見せているシェアリングビジネスやパーソナルデータストアも分散型のビジネスモデル。これらがつながり合いながら、コンピュータのアーキテクチュアそのものが分散化していくという展望です。経済産業省は2016年に、ブロックチェーン技術が影響を及ぼす市場規模は67兆円と発表しました」として、ブロックチェーンが応用されるであろうと想定される分野を5つ挙げました。

「1つ目は『電子クーポンやポイントサービスへの応用』。2つ目は『土地登記や電子カルテや各種登録などの権利証明』。3つ目は 『デジタルコンテンツやチケットサービスなどのシェアリングの実現』。これについてはプラットフォーマーが不要なシェアリングの実現があり得ると考えられます。4つ目は 『オープン、高信頼、高確率なサプライチェーンの実現』。ブロックチェーン技術により、製品の原材料からの製造過程と流通・販売までを追跡することが容易になります。5つ目は『プロセスや取引の全自動化、効率化の実現』。いわゆるスマートコントラクトですが、誰かが亡くなった時に遺言の情報が自動的に処理されていくとか、洗剤が足りなくなると洗濯機が電子取引業者に自動発注するといったことです」

ブロックチェーンが働き方にもたらすインパクト

まず野口氏から説明があったのは、情報を右から左に移し、チェックして、手数料をもらう業務をブロックチェーンが代替するようになり、金融機関のあり方に大きな影響があるという予測でした。ブロックチェーンは2022年までに銀行の清算や決済にかかるコストの4分の1程度を削減すると言われています。すると、銀行の業務領域が削減され、同時に利益率が格段に下がると予見されます。一方で、人間がやってきたルーティンワークをブロックチェーンが取って代わっていくというメリットもあります。

このような予測を元に、野口氏は未来の働き方を、労働者が"いる/いない"、管理者が"いる/いない"の2軸マトリックスを用いて説明しました。
マトリックス中の左上は労働者がいる/経営者がいるという、旧来型組織の構造です。右上の"労働者がいない/経営者がいる"はオートメーション化された生産ラインのようなもので、右下の"労働者がいない/経営者がいない"はAIによる自動化が進んだ組織の形態です。
そして、"労働者がいる/経営者がいない"という形態が、ブロックチェーンの根幹をなすDAO(Decentralized Autonomous Organization)、すなわち自律分散型組織です。これが普及すると、人間にしかできない仕事は何か、システムで代替できない仕事とは何かが問われる時代が訪れると野口氏は言います。

「人間にしかできない仕事」とは、価値を創造すること

野口氏の発言を受け、人間が担うのは付加価値を現場で生み出していく仕事だと佐野氏は言います。

続いて、小早川氏は中央銀行員が考えるべき働き方の未来について語りました。

「中央銀行はIoTやFinTechから遠い存在だと思われてきましたが、将来的には、中央銀行サービスにFinTechを活用するような機会が徐々に増えてくるかもしれません。例えば、中央銀行が発行するデジタル通貨が誕生したり、個人が中央銀行に口座を保有しデジタル・デバイスを使って決済を履行したりするような可能性もあるかもしれません。中央銀行員には、保守的な発想に囚われることなく、技術革新が進む下で、創造力を膨らませながら人間と機械の役割分担に考えを巡らせることができるような人材が求められるようになるのではないでしょうか」

ブロックチェーンがビジネスを変えていく中で、人間にしかできない仕事を発見していくことが重要であるというお話でセッションは幕を閉じました。

新たなビジネス価値の創造に向けて

このセッションでは、ブロックチェーンは金融のみならず、あらゆる取引や資産のあり方を変え、会社や社会制度を根本から変革する可能性をもっているということが専門家の知見に基づいて説明されました。
富士通ではブロックチェーンに力を入れており、複数の組織間で機密情報を扱うことができるセキュリティ技術や開発や、地域スタンプラリーの実証実験など、様々な取り組みを行っています。今後もブロックチェーンの適用領域拡大に貢献し、新たなビジネス価値の創造を目指します。

登壇者
  • 早稲田大学ファイナンス総合研究所、
    一橋大学名誉教授
    野口悠紀雄氏

  • 日本銀行
    小早川周司氏

  • 経済産業省 商務情報政策局
    佐野究一郎氏

  • モルガンスタンレーMUFG証券
    安井 肇氏