自動運転の普及で広がる巨大市場、技術を知りビジネスチャンスを手に入れる【前編】

2025年には世界で1450万台の自動運転車が走ると予測され(注)、自動運転の時代はすぐそこまで来ています。実用化に向け具体的なシステム開発が急速に進む中、オープンソースを活用し自分の手で「自動運転システム」をつくり、自ら乗って走行体感できる「自動運転システム構築塾」が、東京・赤坂にある「TechShop Tokyo」で開催されました。この構築塾の様子と、プログラムの総合プロデューサーである東京大学 准教授の加藤真平氏に自動運転の現在と将来の展望について伺いました。

(注)BCG分析、just-auto.com July 2014 maeket analysis, LMC Automotive, HIS Global Standards

世界各国で加熱する自動運転システムの開発

自動運転の実用化が近づく中、自動車産業の根本を揺るがす大きな変革が訪れています。その影響は、自動車メーカーにとどまらず、エネルギー産業、保険業界、物流業界、広告業界など、あらゆる産業界に及ぶでしょう。そして、無人旅客サービスや車載インフォメーションコンテンツ、自動運転保険サービスなど、見たこともない製品やサービスで果敢に挑もうとしている新たなプレーヤーが続々と現れてきています。

この「自動運転システム構築塾」にも、自動運転の活用を目指すエンジニアや研究者だけでなく、経営戦略担当の方も参加。計5日間におよぶ演習から実践までのコースには、30名を超える参加者が明日のビジネスのヒントを求め真剣に取り組んでいました。

<プログラム構成>
DAY1:自動運転システム実践解説
DAY2:ROS(Robot Operating System)演習
DAY3,4:オープンソースソフトウェア「Autoware」演習
DAY5:自動運転車実習(自動車教習所にて)

自動運転システム構築塾の様子(TechShop Tokyoにて)

構築塾の解説は、東京大学 准教授の加藤真平氏による、自動運転システム開発にまつわる世の中の動きの解説から始まりました。
「今、世界で導入されている自動運転システムの多くは、カメラ方式のほかにレーザー方式とミリ波方式を採用しています」と話を切り出し、それぞれの特長を解説。

レーザー方式とはグーグルでも取り入れられているシステムで、車両に取り付けられたLiDARと呼ばれる装置からレーザー(不可視光線)を放ち、周囲との距離を測定していきます。レーザーとミリ波(電波)は、それぞれにメリット・デメリットがあると加藤氏は言います。

「テスラが採用しているミリ波方式は、装置が安価で導入コストは低く抑えられますが、対象物を識別する能力が低いため高速道路など情報量の少ない場所でしか活用できません。対して、レーザー方式は対象物を識別する能力が高いので、複雑な地形を持つ市街地にも対応が可能です。ただし、将来的に価格が下がると予想されるものの、現時点でLiDAR一台あたり100~500万円程度と、導入コストが高くついてしまいます」

レーザーとミリ波、それぞれ一長一短といえますが、今回の構築塾では市街地走行を目的にLiDARを使ったシステムを学習。車両に取り付けられたLiDARで周囲にある物体までの距離を測り、その情報を高精細の3次元地図データに変換し、自動走行する経路を設定。最後に、経路通りに自動車が追従するための車両制御プログラムを組んでいくことで、自動運転システムが完成するという仕組みです。

構築塾では加藤氏を中心に、8つの大学が連携して研究・開発を進めるオープンソースソフトウェア「Autoware」を使い、これら一連のシステムの基礎を組み上げていく演習を行っていきました。

大学・自動運転研究者の知見を結集し、ノウハウを伝授

自動運転は分野横断型の複合技術です。東京大学はスーパーコンピュータ、オペレーティングシステム、名古屋大学は車載システム、データ解析、などそれぞれの大学に専門分野があります。「自動運転システム構築塾」の講師を、最先端の研究開発を進めるこれらの大学の研究者・学生が担当し、各大学の得意分野を持ち寄り細かいノウハウまで伝授しました。

  • 名古屋大学
  • 東京大学
  • 大阪大学
  • 早稲田大学
  • 立命館大学

認知・判断・操作など自動運転機能を基礎から演習

講師による解説

2日目からは加藤先生に代わり、各大学に所属する学生が講師として登場し、受講者は実際にPCを使って演習を進めていきます。演習はROS(Robot Operating System)演習からスタート。ROSはもともとロボットの動きを制御するためにOpen Source Robotics Foundation(OSRF)が開発したオープンソースのミドルウェアで、その汎用性の高さから自動運転システム開発のプラットフォームとして、近年、技術者の間で広く使われるようになっています。

PCを使った実習

3日目、4日目では、ソフトウェアに搭載されたアプリケーション群の各機能の基礎を習得。今回学んだ自動運転システムには、LiDARのほかに、カメラやGNSS(GPS)といったハードウェアが必要で、それらから取得した情報を処理することで、車両制御が可能となります。これらは主に7つのアプリケーションによって構成され、その一部の演習を紹介していきます。

RVizによる三次元地図の生成

自動運転でもっとも重要なのが、高精度の「三次元地図データ情報」です。車両がどこにいて、どのルートを走るのか地図データを元に設定してくため、LiDERから得た情報を、RVizというビジュアライゼーションの機能をもったソフトウェアで周辺の地形を可視化していきます。ディスプレイ上には道路幅や建物の形は3Dに点の集合体で表示され、車両の走行に合わせて点群が動いていきます。ここで受講者を悩ませたのが点の数の調整です。点群の密度が高ければ地形認識が容易になりますが、処理に負荷がかかり動作に影響を及ぼしてしまいます。講師にアドバイスのもと、受講者は試行錯誤しながらパラメーターを調整して最適な数値を導いていきました。

実習中の様子

次に、難易度が高いとされる演習が「物体検出」です。LiDARから得た点群とカメラによるセンサーフュージョンで、対象物が前方、もしくは対向車線を走る車両なのか、歩行者なのかクラスタリングしていきます。「現段階では、あらかじめ設定された障害物の候補から対象物を見極めていますが、将来的には機械学習を使って自動的に判別できる仕組みになっていく」と加藤氏は説明しました。

こうした作業が連日長時間に渡って続きますが、受講者達の集中力は途切れることなく、頻繁に質問をしながら一つひとつ疑問点を解決して演習を進めていきました。

いよいよ走行実験!4日間の集大成、その成果はいかに

走行中の自動運転車

最終日は、都内の自動車教習所にて自動運転の走行実験が行われました。走行実験で使用する車両は、自動運転用にLiDARやGNSS装置が取り付けられたZMP社製のものを使用。車両を目の前にした受講者は前のめりにその仕組みを観察し、ここでも多くの質問が飛び交っていました。

自動運転車両に設置されたPC

準備も整い、いよいよ走行実験がスタート。受講者が車両の後部座席に乗り込み、車積PCから指示を出すと、ハンドルやアクセルに触れることなく、車両がゆっくりと走り出しました。

「理屈としては理解していたものの、実際に目の当たりにするとやはり不思議な光景ですね」と受講者から驚きの声があがりました。走行中も車両のルーフにある、わずか20cmほどのLiDARが高速回転しながら、常に周囲の地形情報を取得して、ルートを正確に周遊していきます。あいにくの雨天でありながも影響をうけることなく、車両はスムーズに走行していきました。

体験を終えた受講者の方々に話を伺うと、「たった4日間の開発期間で、ここまで形になるとは思っていませんでした。今後、自社でも研究を進めて活用していきたいと思います」「自社での自動運転開発はこれからですが、大きな知見を得られました」と、今回の「自動運転システム構築塾」に対する高い評価が多く聞かれました。

共創空間「TechShop」がクリエイティブを刺激する

こうして5日間におよぶワークショップが終了。最後に加藤氏に話を伺うと「普段は殺風景な会議室で開催することが多かったのですが、TechShopのようなクリエイティブの場で出来て、私たちとしても刺激になりました。TechShopから生み出されるハードと、私たちが開発するソフト。アウトプットは違えど、最終的には互いが融合して一つのプロダクトとして展開されていきます。今後も共創空間の拠点として活用していきたいですね」と、TechShopとの協業に期待を寄せました。

これから先、自動運転システムの開発はどのような道を進んでいくのでしょうか。後編では、自動運転を実社会に普及させていくために、超えなければならない2つの大きな壁と未来への展望について、加藤氏にお話を伺います。