このページの本文へ移動

富士通

サイト内検索
サイト内検索 閉じる

イノベーション創出のポイントは「使う人の気持ちになる」こと

【「知創の杜」フォーカスシリーズ】ヘルスケア

このシリーズは、富士通総研が発行している情報誌「知創の杜」の中から旬なテーマを取り上げ、実際のビジネスに取り組んでいるコンサルタントを交え、対談形式でお届けするシリーズです。第6回のテーマは「ヘルスケア」です。

対談者

里見 英俊氏(伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 イノベーション推進室 室長)
森下 晶代(富士通デザイン株式会社 サービス&プロダクトデザイン事業部 デザイナー)
巣山 邦麿(株式会社富士通総研 産業・エネルギー事業部 事業部長)
久本 浩太郎(株式会社富士通総研 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント)
大原 宏之(株式会社富士通総研 産業・エネルギー事業部 プリンシパルコンサルタント)

ICTを活用し、健康寿命の延伸を目指す

――医療や介護・福祉、健康増進といったヘルスケア市場では、社会保障の財政面の不安がある一方、2025年に100兆円規模のビジネスに成長するとの見方もあります。まず、イノベーション創出の挑戦や「エンパワメント福祉」(注1)についてお話しいただけますか?

里見 英俊(さとみ ひでとし)氏
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
イノベーション推進室 室長(技監・ITアーキテクト)

里見 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は基本的にITインフラを販売する会社で、2014年にイノベーション推進室を作りました。当時、インフラがコモディティ化する中で、今後日本でもサービスビジネスを主体にビジネス展開していかなければと考えていました。イノベーション推進室では、ウェアラブルやIoTといったICTの技術が福祉やヘルスケア、介護で使われる新しいビジネスモデルを考え、2015年秋に「エンパワメント福祉」を始めました。御社とスマートアグリ(注2)の件で話していた際、ユビキタスウェア(注3)のようなチップセットを含んだデバイスをご紹介いただき、ビジネスの模索を始めました。

――ヘルスケア領域でUX(注4)をベースに新しいサービスを考えていますね。

森下 私たちのチームは主に産業分野のサービスデザインを担当しています。昨年、CTCの皆様とお会いしてヘルスケアを深く考える機会をいただきました。「健康は個人の自己管理だ」とよく言われますが、実は自己管理だけでは解決しないものが多く、家族や病院など社会全体を含めたサービスをデザインできたらと考えています。

――社会的な課題とICT企業に求められていることについてお話しいただけますか?

大原 宏之(おおはら ひろゆき)
株式会社富士通総研
産業・エネルギー事業部 プリンシパルコンサルタント

大原 FRIの産業・エネルギー事業部は製造業・サービス業のお客様と一緒に新しい価値を創る活動をしており、最近ではヘルスケア領域に取り組んでいます。特に、平均寿命と健康寿命(注5)の間の10年ほどの開きをICTでどう埋めていくか、という「健康寿命の延伸」が一つの課題です。また、介護現場の生産性や働く人のモチベーション向上にICTを生かす方法など、様々なことを考えています。今回CTC様とは、富士通のユビキタスウェアを使って新しいサービスを作り込んだり、検証したりという取り組みを行っています。

社会が協力して初めて実現する「エンパワメント福祉」

――ヘルスケア領域は、世の中に広くわたった奥深い分野なので、新しいビジネスとして注目されているのだと思います。その中で、里見さんは「エンパワメント福祉」に的を絞られていますね。

里見 介護とヘルスケアにIoT等の技術的なキーワードを組み合わせた時、言えることが二つあります。一つは、現在多くの介護とヘルスケアはデータ連携していませんが、ユビキタスウェアの機能を全部ワンチップに入れることができれば、世の中のサービスも縦割りでなく横つながりの仕組みが作れるということです。もう一つは、総務省が発表するオープンデータ戦略です。皆さんが持っているデータをシェアして付加価値をつければ、健康管理は自分や家族、両親も含めた総合的な一つのサービスとなります。社会の様々な関わりの人が協力しなければ「エンパワメント福祉」は成立しません。

新たなサービス創出のコンセプトは「使う人の気持ちになる」

――新しいサービスやプロダクトの創出に取り組む際、何から着手すればよいか分からないお客様が多いと思います。富士通グループで実践しているアプローチを紹介いただけますか?

森下 晶代(もりした あきよ)
富士通デザイン株式会社
サービス&プロダクトデザイン事業部 デザイナー

森下 私たちが一番大事にしているのは「現場で起きている事実」です。そのためには、現場に行くか人に会うかして、現場の人の気持ちになってみることが重要です。視覚障がいを持つ方に街で会って「大変そう」と思うことはあっても、その人が本当はどういう気持ちなのかは分かりづらい。「これはお節介だったんだ」とか、「これは声をかけられないだけで、して欲しかったんだ」といった気持ちが分かることが大事。人と人の関わりで解決しにくい部分をICTでうまくサポートしながら、「使いたい」と思ってもらえるものをデザインしていこうと考えました。

久本 今回、CTCさんのアレンジで視覚障がい者の学校に行き、先生方から視覚障害のある生徒さんの様子を見聞きして、要望や課題がどこにあるのかを探るアプローチを取りました。実際の目で見て、話を聞いて初めて感じ取れる発見がありました。

里見 今回のプロジェクトも最初からできたわけではありません。2014年度に福祉介護の世界にICTを入れることを謳い、GPSで様々なサービスが作れるのではと考えましたが、当時はユビキタスのようなチップがありませんでした。翌年ようやくユビキタスウェアが出てきたので、様々なことを検討しました。そこでサービスモデルを考える際、富士通デザインと富士通総研に検証してもらいました。その時、突拍子もない意見や世の中から認知されないような意見を、全部分解し、まとめてくれたのがUXデザインです。技術も世の中も絶えず進歩していくので、一度振り返って見直し、過去に考えていたものが今できるのではと考えてみることが重要です。

――このアプローチでは、現場で使う人、ペルソナを想像しながら、その人がどう生活しているかを捉えていくことが重要ですね。

久本 浩太郎(ひさもと こうたろう)
株式会社富士通総研
産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント

久本 FRIでは、社会課題やニーズ、市場動向などをリサーチし、サービスの具体化のために、ユースケースとベネフィットのモデルパターンをいくつも創り上げ、ユーザー層にフィットする事業パートナーの検討も行いました。ニーズや課題があるところに対し、どれだけのターゲットユーザーの母数があるか、収益性や事業が成り立つかなど、UX検討と同時にビジネス展開手段について一緒に考えていきました。

里見 サービスを作っても、絵に描いた餅にならないよう説明するのが大変です。関連会社の障がい者がいる農園でユビキタスウェアを使って実証実験していますが、単純にICTで人を助けるのではなく、その人に何かをしてあげるところまで組み上げないといけない。障がい者のデータから行動パターンをAI(人工知能)で予測し、「この人はそろそろ休ませなければ」などといった分析ができると、障がい者を雇う側としては助かります。

大原 収益面のシミュレーションはやるべきですが、使われることを考えてものを作ったり実証したりということは大切だと思います。

里見 少子高齢化の日本で健康な人だけが仕事するのではなく、モビリティの問題を負っている人も活躍できる場所を作ってあげるのも我々の仕事です。ICTを使って見守られた中で仕事ができる場所を用意してあげないと、一億総活躍とはなりにくい。

技術は「その都度振り返り流用する」ことが大切

――ヘルスケアの分野では、AIやロボットの活用を目指して、様々な実験やスタートアップが実践されていますね。

里見 ロボットをネットワークに複数台つなぎ、コミュニケーションをとれるように動かす仕組みを作ったり、スマートアグリで畑の見回りの時の葉の画像を見て育成終了のタイミングをディープラーニング(注6)で分析するようなことも検討しましたが、なかなかうまく実りません。

大原 イノベーション推進室で取り組まれていることを事業部門の方が見て、ビジネスの種を拾ってもらえるといいですね。

里見 既成概念に囚われず、できるところからやればいい。技術は時間とともに追いかけてくるので、時々振り返って、「この技術は今こう流用できるので作ってみるか」みたいにやればいいのです。これだけインターネットが発達すると、世界的に技術レベルも同じ位置にいる。だから、失敗してもへこたれずに前に進めた人が勝者になるのです。一度横に置いておいて、違うことをやって、新しい技術が出てきたら、過去のものを振り返って、もう1回やってみる。

――何もないところから創る文化が根本にあるのですね。製造業は製造業同士でやるので、そういう発想が出てきません。

里見 私も最初、携帯電話をインターネットにつなぎたいと言われた時は、誰が使うのかと思いましたが、ドコモのiモードができて、auのEZWebができて、夜の飲み屋の大人の小道具で爆発的なブームが来たのですから、どこにビジネスチャンスがあるか分かりません。

誰かが喜ぶ「コト」を追求する

――テーマを探索し、コンセプト検証までを実施することで、別の事業化を促進することもありますね。これから新しいビジネス創出に取り組む企業に対して、うまく進めるためのアドバイスはありますか?

里見 皆さんは何かをやる時、製品や具材など「モノ」を探しますが、重要なのは「何をやりたいか」「何ができるか」という「コト」の方です。サービスの形(コト)を作った時に初めて製品(モノ)ができるのであって、サービスも作らないのに製品が出て来てしまうのでは本末転倒です。そのためにもUXが適切なプログラムで「コト」を分析すればいいのです。

森下 結果として見えてくることは大きくなくても、その過程で何がしたいか、そのために何ができるかを考えると大きな広がりになるので、「コト」、つまり何がしたいのかを常に考えていくことが大事ですね。

[司会]
巣山 邦麿(すやま くにまろ)
株式会社富士通総研
執行役員 産業・エネルギー事業部 事業部長

久本 「コトづくり」については、今回CTCさんとも自由闊達に意見交換させていただきました。CTCさんはリレーションを色々お持ちなので、誰とどうエコシステムを組めば実現できるのかと試行錯誤を重ねながら行うアプローチにリアリティがあり、非常に楽しかったです。

――何のために、誰が喜ぶのかを追求して、そこに当たる製品がないなら、考え直せばいいということですね。

イノベーションは一人では起こせない

――ビジネスのグローバル化や人口構造の変化、技術の進展によって今後を見通すことがますます難しい時代になります。どのような視点でビジネスや社会のイノベーションを創出していけば良いのでしょうか?

里見 ビジネスを創る側に立って考えた時、新聞やネットの情報に振り回されて、どこかが実証実験すると諦めてしまったり、やりたいことがブレてしまったりしますが、自分で芯を貫かないと完成しないと思います。誰かが先にやったなら、一緒にやりましょうと取り込めばいい。皆と協業して共創し、一緒に創り出す仕事にしないと、イノベーションは起こらない。イノベーションは一人では無理なのです。

森下 「デザイン思考」(注7)がこれだけ世に溢れる中、デザイナーとして何ができるかと考えると、1枚の絵や言葉などで、他の人が気づかない視点をアウトプットとして出すのが私たちの仕事です。また、デザイナーという職業は、世の中にアンテナを張ることが得意であり、不可欠です。その特性を生かして、「教えてください、一緒にやりましょう、これどうですか」という日常的なフィードバックで新しいものを作っていきたいと思います。

大原 富士通も、ヘルスケア領域で電子カルテや病院と診療所を結ぶネットワークをソリューションとして提供しています。今は医療関係者が中心ですが、今後は在宅介護などの分野がクローズアップされる時代になるので、そういうものを全部つないであげるサービスが必要になると思っています。

――発想を変えて、いろいろな人と一緒に考えると新しい価値が生まれるかもしれませんね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

後列左から 巣山、久本、大原
前列左から 里見氏、森下

※ CTC様とともに取り組んだ視覚障がい者向けエンパワメント福祉「ハンズアップサービス」は、国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)が主催する2016年「IAUDアウォード」の評価を受けました。

(注1) エンパワメント福祉:
健常者、障がい者、高齢者、子どもが、それぞれ本来持っている力を十分に発揮し、活きる力を湧き出させ、それがつながることで、より大きな力を湧き出させる「自由で対等」な社会。
(注2) スマートアグリ:
ICT等の先進技術を活用して生産管理や品質・生産効率などの向上を実現する新たな農業の取り組みやあり方。
(注3) ユビキタスウェア:
お客様の業務に合わせて、人や物の状態・状況・周囲の環境をセンシングし、解析・分析することで、すぐに活用できる価値のあるデータを提供できる富士通のIoTパッケージ。
(注4) UX(User eXperience):
ある製品やサービスを利用したり、消費した時に得られる体験の総体。個別の機能や使いやすさのみならず、ユーザーが真にやりたいことを楽しく心地よく実現できるかどうかを重視した概念。
(注5)健康寿命:
医療・介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、日常生活を普通に送れる生存期間のこと。
(注6) ディープラーニング:
多層構造のニューラルネットワークを用いた機械学習。システムがデータの特徴を学習して事象の認識や分類を行う。
(注7) デザイン思考:
共感・視覚化・評価と改良・実現のステップから成る新たな製品・サービスやプロセスを創出するためのイノベーション技法。

知創の杜(フォーカスシリーズ)ヘルスケア
「ICTによるビジネスと社会のイノベーション創出に必要な取り組みとは」

当記事の詳細をPDFでご覧いただけます。

コンサルタントやエコノミストの知見・ノウハウをご紹介する情報誌「知創の杜」 はこちら >>

FUJITSU JOURNAL - に関するお問い合わせ

特集

Fujitsu Asia Conference 2016
富士通フォーラム2016
セキュリティ
進むAIの実用化
IoT・ビッグデータ
環境問題の解決にICTで挑む

人気ランキング

1 スマホの充電時間が従来の3分の1に! 世界最小・最高効率のACアダプターを開発
2 「ムーアの法則」はもはや限界! 「組合せ最適化問題」を解決する新アーキテクチャーを開発
3 AI(人工知能)で注目の新技術「Deep Tensor」を用いた高精度学習で、データ分析の高度化を目指す
4 IoTでゴルフが上達!? 自分とコーチとのスイング比較もデジタルで的確に
5 サーバを丸ごと液浸して消費電力を30%削減! 斬新な冷却技術でデータセンターに革命を

おすすめ

「人を中心としたAI」の開発に向けて、理研AIPと富士通が連携センターを開設
AI・IoTの活用とIT部門の新たな役割でデジタル革新を加速する!
"体操ニッポン"から、スポーツの世界を変える。3Dセンシング技術を用いた体操競技採点支援
世界有数のITビジネス見本市「CeBIT 2017」富士通ブースレポート

google+もチェック

富士通 Biz News ビジネスに役立つ情報をメールマガジンでお届けします

FUJITSU JOURNAL - に関するお問い合わせ

FUJITSU アプリ

Google+

アンケートにご協力ください

FUJITSU JOURNALをご覧いただき、ありがとうございます。読者のみなさまの貴重なご意見を今後のWEBサイト改善に役立てたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いいたします。

アンケートに答える»

アンケートにご協力ください

FUJITSU JOURNALをご覧いただき、ありがとうございます。読者のみなさまの貴重なご意見を今後のWEBサイト改善に役立てたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いいたします。

アンケートに答える»

ページの先頭へ