"見えないもの"が見える、世界が広がる
網膜に直接映像を投影するスマートグラス「網膜走査型レーザアイウェア」(前編)

【未来を創るチカラ Vol.2】

最先端の超極細レーザーが網膜に直接映像を映し出す

網膜走査型レーザアイウェア利用シーン

視力に依らずに、ものを見ることができる───。

「網膜走査型レーザアイウェア」は、そんな目の覚めるような驚きに満ちたスマートグラスです。先日の「CEATEC JAPAN 2016」で、最高賞にあたる「経済産業大臣賞」と「米国メディアパネル・イノベーションアワード グランプリ」を受賞し、その存在を広く知られることになりました。
開発を手がけるのは、富士通のスピンオフベンチャー「QDレーザ」。一体どんなデバイスなのでしょうか。同社代表の菅原充に聞きました。

「網膜走査型レーザアイウェア」はプロジェクターを搭載したメガネにコントローラーを接続して使う

株式会社QDレーザ代表取締役社長 菅原 充

「メガネの内側にレーザー技術を応用した超小型プロジェクターがついていて、内蔵カメラで撮影した映像や外部入力したスマホ・PCデータを網膜に直接走査(スキャン)します。眼球は半球型なので、プラネタリウムに映像を投影するようなイメージですね。ポイントは直径1mmにも満たない最先端の極細レーザーを使っていること。この細さであれば眼球の奥にある網膜に直接届くので、視力やピント調整の必要がなく、ロービジョン(全盲ではない視覚障がい者)の方々も、鮮明にものを見ることができる可能性があるんです」

メガネもコンタクトも使えないロービジョンのために

ロービジョンとは、視機能が弱く、メガネやコンタクトレンズを使っても十分な矯正ができない状態のこと。世界保健機構(WHO)の定義では、矯正視力が両眼で「0.05以上、0.3未満」となっていますが、緑内障、白内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性、強度近視など症状は様々で、国内だけで約145万人、世界には約2.5億人いると言われています。

株式会社QDレーザ取締役兼富士通株式会社経営戦略室シニアマネージャー 幸野谷信次

「ロービジョンの方は普段、望遠鏡やルーペ、白杖を使っています。日常生活に様々な不便を抱え、働きたくても働けないという方も沢山いるんです。でも、スマホと同じ感覚でこのアイウェアを持つことができれば、より便利で豊かな生活が送れるようになると考えています」
そう語るのは、QDレーザ取締役兼富士通経営戦略室シニアマネージャーの幸野谷信次。
QDレーザの立ち上げに関わり、広報や資金調達など、様々な面から開発をサポートしています。

「見える!」という喜びの声が開発のモチベーション

「実際に網膜走査型レーザアイウェアをモニタリングしたロービジョンの方からは、『家族の顔を久しぶりに見ることができた』『人の目を見てしゃべるという長年の夢が叶った』など、うれしい反応が多く寄せられています。メールや電話での問い合せも毎日のように届いていて、開発の大きなモチベーションになっています」(幸野谷)

「現在、日本とドイツで臨床研究を行っているのですが、事故で両目の視力が0.028まで低下し、仕事もできなくなったドイツ人の青年がレーザアイウェアを装着したところ、0.25まで視力が矯正され、本が読めるようになったと、とても喜んでいました。そういう姿を見ると、やはりうれしくなりますね」(菅原)

自分たちの技術を使って、革新的な製品を生み出したい

網膜走査型レーザアイウェアの開発がスタートしたのは2012年。菅原が着目したのは、1980年代にアメリカで開発された眼底撮影用機器です。
「メガネへの応用も進められましたが、非常に大型だったため、普及はしませんでした。しかし、我々の持つ最先端のレーザー技術を使えば、軽量小型化・高性能化が可能になり、画期的なウェアラブルデバイスが作れると確信したんです。当初は一般向けに開発を進めていたのですが、展示会でプロトタイプを手にしたロービジョンの方が『ぜひ、これを私たちのために製品化してほしい!』と。そこで、まずは本当にこのデバイスを必要としている方々に届けるため、医療機器の認証を目指すことにしました」(菅原)