体操競技の採点を3Dセンシングでより正確に!「未来の審判」のカタチとは?

年々高度化する体操競技...判定は年々困難に

男子団体総合、個人総合での金メダル獲得の興奮が未だ冷めやらぬように、改めて日本の強さを世界にアピールしました。

日本の体操競技は、1830年、藩の新兵訓練として器械体操が導入されたのが始まりと言われています。その後、学校教育に器械体操が採用されるようになり、1930年に全日本体操連盟(現在の公益財団法人 日本体操協会)が創立され、種目別・個人総合での出場とメダル獲得が続いています。

採点スポーツである体操では、常に公平かつ正確な採点を目指して、長年にわたって多くの努力や改革が行われてきました。しかし、最近の体操競技の技術進歩はめざましく、目視では正確な判定を行うことが困難な場合も多くなっています。そのため、瞬時に正確な判定をすることが求められる審判員の負担は増大する傾向にあります。

人間の動作分析ではモーションキャプチャー技術(注1)が使われますが、その中でも知られている複数台のカメラとマーカーによる方式では、対象者の身体にマーカーを付ける必要があり、また、カメラのセッティングも容易ではないため、試合での使用はもちろんのこと、普段の練習で使用することも実質的に不可能でした。

(注1)スポーツや映像分野で用いられる、人体の動きをデジタル情報として記録する技術。

「スポーツ×ICT」でスポーツに新たなイノベーションを

2016年5月17日、富士通、富士通研究所と日本体操協会は、体操競技における採点支援技術の共同研究の開始について発表しました。

日本体操協会が持つ技の認識や採点、競技に関するノウハウと、富士通研究所が開発した3Dレーザーセンサーや3Dデータ処理などの技術を融合することで、より公平かつ正確でリアルタイムに体操競技の採点を支援する技術の完成を目指しています。

測定の様子

3Dセンシングでリアルタイム、高精度に技を特定

具体的な技術の内容は、下記の通りです。

ポイント①:3Dレーザーセンサーにより人の動きを正確に測定
1秒間に約230万点のレーザーを対象物に向けて発光し、レーザーが戻ってくるまでの時間から距離を計測。細かく角度を変えながらレーザー発光することで、動いている立体物を正確にとらえます。対象物までの距離に応じてレーザー発光する範囲を広げたり絞ったりすることで、距離が変わっても解像度が変わらずに計測できます。レーザーを使うことで、競技者はセンサーなどを着用することなく計測できるため、普段の練習や試合本番でも活用できます。

ポイント②:3Dレーザーセンサーの情報から技を特定
人の動きを正確に測定したら、そのデータから関節の位置や曲がり具合を導き、技を特定します。人の動きを集めたデータ辞書から似ているものを探して手足等の部位を推測するモデル方式(高速で低精度)と、部位を実際の人の動きに合わせるフィッティング(低速で高精度)という二つの技術を融合。高速で高精度に関節を認識することで、関節の時間的な動きを正確に捉えることができ、手足の位置や体をひねった回数などを判別し、技を特定します。これにより、リアルタイムで高精度な採点につなげることができます。

開発者の声
富士通研究所 応用研究センター ライフイノベーション研究所 矢吹彰彦

関節の位置情報から"技"を認識する技術を担当しています。当初自動車の周辺モニターなどへの適用を想定して開発を進めていた3Dレーザーセンサー技術と、リハビリ向けに開発を進めていた骨格認識技術を融合させて実現した人の動きをセンシングする技術をスポーツ向けへ応用しました。チャレンジングな対象ですが、スポーツでも身体の動きに関する基本的な要素が多く含まれている体操に注力しています。

関節位置の変化から体操選手の早くて複雑で滑らかな動きを正確に認識して技の成否を判定するための独自のアルゴリズムを開発しているところです。例えば、あん馬のフロップやコンバインなどは複数の"技"で構成されており、それぞれの"技"の成立条件を正確に捉えることが必要になります。そのために日本体操協会の協力を得て審判員の方に採点ノウハウを講義してもらったり、採点規則集とにらめっこしたりして、採点の仕方をどのようにICT化するかチームで議論を重ねています。体操に限らず競技の採点支援に適用するということは、信頼される根拠により実現する必要があると考えており、ここに大きなやりがいと責任感を強く感じています。

また、このような特殊なスポーツ環境で鍛えられた技術によって、リアルタイムの測定が実現されることは様々な分野に応用できると考えています。遠くはない将来には、スポーツだけではなく伝統芸能やリハビリ、熟練工の動きなどいろいろな場面で活用していくことが目標です。