「ろう者に音を届けたい」(前編)
髪の毛で音を感じる全く新しいデバイス「Ontenna」

【未来を創るチカラ Vol.1】

ろう者がいたからこそ生まれた、髪というインターフェイス

本多が今も大切にしている、ヘアピン型のプロトタイプ第一号。「これが僕の原点です」

最終的にたどり着いたのが、ヘアピンのように髪の毛につけるというアイデア。テンションがかかることで振動を感じやすい、蒸れやかぶれの心配がない、家事や手話の邪魔にもならない......様々な課題を一挙にクリアできる理想的なインターフェイスでした。
「髪の毛につけるというアイデアは、ろう者の方と一緒に開発したからこそ出てきたもの。風が吹くと髪がなびいて、風がどこから吹いたか方向がわかるよねというような話をしていて、確かに髪はセンシティブな部位だな、と。これは新しいインターフェイスとして使えるんじゃないかと思いました」

誰もが使いたくなるシンプルでスタイリッシュなデザインに

ろう者のフィードバックを受けて、少しずつ丸みを帯びたフォルムに進化。

2015年、大学院2年生のころにはITクリエータの登竜門ともいえる国家プロジェクト「未踏プロジェクト」のスーパークリエータに選出。予算が確保できたことで、Ontennaの基盤設計やデザインはどんどんブラッシュアップされていきました。
「最初は長方形のデザインだったんですけど、『角があるので痛そう』という意見があったので、丸みを帯びたデザインにし、できる限りコンパクトに。基盤の幅は1.5cmほどですが、そのギリギリまでアーチ構造を取り入れることで、髪の毛をつかむ面積を増やし、つけやすく、落ちにくくしています。基盤の配置にもこだわりがあって、バイブレーターは振動が伝わりやすいように髪の毛に近い位置に、LEDは光を拡散しやすくするため基盤の真ん中に、マイクはハウリングを起きにくくするためバイブレーターから離すなど、工夫しています」
これまでに3Dプリンターを使って製作したプロトタイプは実に300個。ろう者のフィードバックを受けて改良を重ねてきました。
「毎日身につけるものだから、デザインにも徹底的にこだわりました。どんなに優れたテクロジーであっても、いかにも障がい者用とわかるような見た目では、ろう者と健聴者との間にあるギャップは埋まりません。聞こえる・聞こえないに関わらず、誰もが使いたくなるような、シンプルでスタイリッシュなデザインを目指しました」
大学院卒業後はメーカーでプロダクトデザイナーとして働く傍ら、個人でOntennaの開発を続けた本多。インタビュー後編では、富士通への転職やTechShop Tokyoというものづくりの場での新たな出会いなど、Ontennaの製品化に向けた更なる挑戦について語ります。

未来を創るチカラ Vol.1 「ろう者に音を届けたい」(後編)はこちら

富士通株式会社
グローバルマーケティング本部
総合デザインセンター
本多達也
1990年 香川県生まれ。大学時代は手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立などを経験。人間の身体や感覚の拡張をテーマに、ろう者と協働して新しい音知覚装置の研究を行う。2014年度未踏スーパークリエータ。第21回AMD Award 新人賞。現在は、富士通株式会社総合デザインセンターにてOntennaの開発に取り組む。