人とデジタルの未来~デジタル革新とは何か、今ビジネス・リーダーは何をすればよいか~

【富士通フォーラム2016 カンファレンスレポート】

デジタル技術の急速な進化が、ビジネスや私たちの生活を大きく変えていく今、ビジネス・リーダーは何をしなければならないのか。デジタル革新の時代に世界をリードしていくために、日本企業が取り組むべきリーダーシップやマネジメントの最優先課題は何か? 5月19日~20日に開催した「富士通フォーラム2016」において、アレックス 代表取締役社長兼CEOの辻野晃一郎氏と一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 准教授の藤川佳則氏、富士通のマーケティング戦略室長の高重吉邦が、「人とデジタルの未来」をテーマに、講演とパネルディスカッションを行いました。

リアルタイム経営と「破壊的イノベーション」

始めに登壇したアレックスの辻野氏は、「Challenge(挑戦), Innovation(変革) and Entrepreneurship(起業家精神)」をキーワードに、イノベーションの重要性と課題について講演しました。

辻野氏は、世の中が「Before Internet」の時代から「After Internet」の時代に移行し、私たちの生活やビジネススタイルに大きな変化が生じたと指摘。その変化を「再定義」と表現しました。例えば家電業界では「商品」の定義が変わり、テレビなども、クラウドを覗く窓の役割を果たす「コンピュータデバイス」として再定義されつつあります。また、自動車業界でも、クルマのIoT化や自動運転などのインテリジェント化、ウーバーに代表されるシェアリングエコノミーの台頭等により大きな変革が始まっています。金融業界も例外ではなく、「Fintech(フィンテック)」として提供される革新的なサービスにより、銀行すら存在が危うくなるような変化が起きつつあります。

このように、全てのことがテクノロジー主導で変化していく時代の中で、企業が生き残るための重要な要素として、辻野氏は「リアルタイム経営」と「破壊的イノベーション」を挙げました。「リアルタイム経営」について辻野氏は、グーグルのワークスタイルを紹介しながら、「クラウドのリアルタイム性をフル活用するには、単にインフラとして捉えるのではなく、ワークスタイルそのものを変えねばならない」と述べました。組織の階層や縦割りを排してフラット化し、現場に大幅に権限を委譲するような社内改革や意識改革をCEOが率先して断行することの重要性を強調しました。また、破壊的イノベーションについては、「過去の積み上げの先に将来を考えるインクリメンタルなアプローチではなく、50年後の未来を見据え、そこからバックキャスティングして『現在』の行動を決めるようなアプローチが求められる」としました。

辻野氏は、「大きな変革の時代に企業が再び活力を取り戻すためにはチャレンジ精神を取り戻すこと、リスクを取って行動すること、起業家精神を発揮すること、そして内向きを脱して常に世界にスケールさせることを意識することが重要」とまとめました。

企業とお客様が「価値共創」の時代へ

続いて一橋大学大学院の藤川氏は、ビジネスにおける「価値づくり」という観点で、今、地球規模で起きている変化について述べ、「SHIFT・MELT・TILT」という3つのキーワードを提示しました。「SHIFTとは、世界経済がその成熟化とともにサービス化に向かうこと。MELTとは、デジタル化の進展に伴ってサービス業や製造業など従来の産業の垣根が曖昧になること。そして、お金やビジネス、人の動きがこれまでの北緯31度の北から南に傾くのがTILTです」と説明しました。

藤川氏は、世界経済がこの3つのキーワードを軸に変貌を遂げる中、企業活動における「価値づくり」のあり方も大きく変化しつつあると指摘し、「以前は企業が価値をつくり、お客様はその価値を認めて対価を払い、消費するという構図でした。現在は『価値共創』の時代です。企業の経営活動とお客様の消費行動が組み合わさって価値が生み出されていく、という捉え方です」と語りました。その背景には、モノを起点に価値提供を考える「グッズ・ドミナント・ロジック(GDL)」から、モノとサービスとを分けずに、すべてをサービス起点で企業と顧客が価値を共創する「サービス・ドミナント・ロジック(SDL)」への変遷があります。

そして、これからの時代の価値共創のあり方について、「価値共創の相手をひとつのターゲット顧客層に限定するのではなく、複数の顧客層やパートナー企業を巻き込んで共創を促していく『マルチ・サイド・プラットフォーム(MSP)』を構築する可能性が様々な分野に広がりつつあります」と述べ、講演を締めくくりました。

デジタル革新で人をエンパワーし価値を創造

最後に、富士通のビジョンをまとめた「Fujitsu Technology and Service Vision」(文末参照)の制作リーダーである、富士通の高重が登壇し、まず、富士通が提言している「ヒューマンセントリック・イノベーション」とは何かから始めました。「デジタル技術で人をエンパワーし、人のための価値を共創するアプローチをヒューマンセントリック・イノベーションと呼んでいます。そこで大切なのは技術だけではなく、技術を活用して、人が価値をどのように生み出していくかにあります」と語りました。そして、デジタル時代には、「人、情報、モノ」を融合させて、「人を中心にしたつながりをつくりだす」ことからイノベーションが生まれると強調しました。

一例として、富士通の位置情報クラウドサービス「SPATIOWL(スペーシオウル)」を紹介しました。これは、例えば都内を走るタクシーなどの位置情報から東京の交通状況をリアルタイムで把握し、新たな価値を提供するサービスです。天候情報やSNSの情報、自治体や商業施設が提供する情報などと組み合わせて多層的に分析することで、ドライバーや歩行者の支援だけでなく、見守りや自治体での子育て支援などにも活用できます。「SPATIOWLは都市のプラットフォームとしての役割を果たし、すでに国内外で様々な企業や公共機関がイノベーションを共創している」と説明しました。

「デジタル時代には、新たなタイプのプラットフォームが必要とされます」と高重は続けます。富士通が2015年より提供を開始したデジタルビジネス・プラットフォーム「MetaArc(メタアーク)」について、「クラウド、モバイル、IoT、AIなどのデジタル技術をサービスとして提供し、デジタル革新を実現していきます。そして、企業の顧客や様々なパートナーのサービスをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)でつないでエコシステムを形成していく、マルチ・サイド・プラットフォームとしての役割を果たすのです」と紹介しました。

最後に高重は、「イノベーションを生み出すのはあくまでも人です」と強調。「人が中心の持続可能な世界の実現に向けて、お客様と共に新しい価値を創造するビジネス・パートナーでありたいというのが、富士通の強い願いです」と語り講演を終えました。

デジタル変革期に企業が求められることは

それぞれの講演を踏まえたパネルディスカッションでは、「デジタル時代に求められるリーダーシップ」や、「デジタル化の転換点で企業がどう変わるべきか」について意見が交わされました。

辻野氏は、デジタル化の転換点にいる企業は、今後「Before Internet時代の古い体質から脱却し、オープンかつフラットで現場に権限を与える形でスピーディに行動しないと凋落は免れません。最先端テクノロジーを個人レベルで安く使うことができる、いわば"技術の民主化"に伴い、Wisdom of Crowdsが機能する"組織の民主化"が求められています」と発言。「デジタル革新の時代に、日本から画期的なイノベーションを生み出すには上意下達ではなく、個々のモチベーションで動くことが重要。日本の強みを見直すことでそれが可能になる」と提言しました。

藤川氏はこれを受け、組織の民主化と共に、組織全体で価値づくりに関する認識を変える必要があると強調しました。「Before Internet時代は、『商品の交換価値の最大化が経営のゴールである』という、バリューチェーン(価値連鎖)に基づく考え方が主流でした。しかし、After Internet時代においては、お客様が商品やサービスをどう使うのか次第で、価値はさらに大きくなる、と捉えています。つまり、お客様が価値づくりの重要な担い手になっているのです。そこで、バリューチェーンの発想をやめ、企業が持つ様々な資源とお客様が持つ様々な資源を組み合わせて、いかにお客様と一緒に価値を共創していくかという、バリューコンステレーション(価値星座)のような視点を持って、新たな価値づくりに関する共通の世界観を持つことが重要です」と説きました。

モデレータをつとめた高重は、「辻野氏、藤川氏のおっしゃったとおり、デジタル革新の時代には全く新たな人の働き方やビジネスモデルが必要とされている。お客様と共に、富士通自体も変わっていくために、Fujitsu Technology and Service Visionという未来ビジョンを発信している」と説明しました。

最後に藤川氏と辻野氏より、富士通への期待の言葉がありました。藤川氏は、「今の日本が、ここから新しいものを生み出すとすれば、日本の市場としての先端性や消費行動の先端性に可能性があるのではないかと考えています。その部分で、富士通がどのようなイノベーションの源泉を見い出せるかに期待しています」と述べました。また、辻野氏は「最先端のAIやIoTを牽引する役割を担ってほしい」とエールを送り、パネルディスカッションを締めくくりました。

登壇者
  • アレックス株式会社
    代表取締役社長 兼CEO 辻野 晃一郎氏

  • 一橋大学大学院
    国際企業戦略研究科 准教授 藤川 佳則氏

  • 富士通株式会社
    マーケティング戦略室長 高重 吉邦

Fujitsu Technology and Service Visionは、ICTを活用することによってどのようにイノベーションを起こし、これまでとは違う未来を創り出していくかについての、富士通のビジョンです。
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