人里離れた山間部でも、サクサク動画が楽しめる!無線による大容量通信を実現する技術

「光ファイバー」の敷設は、山間部では難しい

最近、スマートフォンやタブレットで動画を見たり、音楽をダウンロードしたりして、手軽に楽しむ機会が増えてきました。つい使いすぎて、「データ通信量の警告が出た!」などと話題になることもあります。

これらの大容量データ通信は、「光ファイバー」を使って無線基地局を中継するのが普通です。光ファイバーとは、ガラスや透明なプラスチックなどを細長く加工し、被覆で覆った素材のことで、離れた場所に光を伝送することができるため、インターネットの基盤として広く利用されています。しかし、建物が密集している都市部や、山間や河川などで隔たりがある地域間において光ファイバー通信網を新たに敷設することは難しく、光ファイバーに代わって屋外に簡単に設置できる無線装置の実現が期待されています。

大容量データを無線で伝送するためには、広い周波数範囲を利用することが必要であり、競合する無線アプリケーションが少なく広範囲なミリ波帯(30~300GHz)の利用が適しています。しかし、ミリ波帯は周波数が非常に高く、CMOS(注1)集積回路の動作限界に近いところで設計する必要があり、設計の難易度が高くなってしまいます。このため、広帯域な信号を高品質にミリ波帯へ周波数を変復調する送受信回路や、アンテナとCMOS集積回路を接続する部分を低損失に実現することは困難とされてきました。

(注1)Complementary metal oxide semiconductor。相補性金属酸化膜半導体のことで、LSI(大規模集積回路)の構造の種類の一つ。消費電力が低く、小型化・高集積化に適している。

世界最高速となる毎秒56ギガビットのデータ伝送に成功

このたび東京工業大学と富士通研究所は、無線装置の大容量化を目指して、72~100 GHzと広い周波数範囲にわたり、高速に損失が少なく信号処理できるCMOS無線送受信チップと、モジュール化技術を開発しました。

東京工業大学では、データ信号を2つに分けて、それぞれを異なる周波数帯へ変換してから混合することで、送受信回路を広帯域化・低損失化する技術と、ミリ波帯に周波数変換された信号を電波として送受信するための増幅器を開発しました。一方、富士通では、プリント基板上の配線パターンを工夫することで、超広帯域向けにインピーダンス整合(注3)させた導波管と基板の間のインターフェースを開発し、所望の周波数範囲で大幅に損失を低減しました。

これらの技術を用いた2台のモジュールを、室内で10cmの距離を隔てて対向させてデータ伝送試験を実施した結果、導波管と基板の間の損失について10%以下を実現。世界最高速となる毎秒56ギガビットのデータ伝送に成功しました。

(注3)impedance matching。電気信号の伝送路において、送り出し側回路の出力抵抗と入力抵抗をマッチングさせること。

CMOS無線送受信チップとそのモジュール

山間部などでも快適で安全な通信環境を目指して

これにより、8K映像を非圧縮でリアルタイム伝送できる速度となるため、将来的には都市部や河川を挟んだ山間部など、光ファイバー通信網の敷設が困難だったエリアにも大容量無線装置の設置が可能となり、無線による大容量な基地局ネットワークを展開できます。今まで通信が不可能だった山と山の間で、無線で連絡を取り合ったり、スポーツ競技場の高精細映像を現場からリアルタイムで中継機へ転送し、快適にデータ通信を楽しんだりする日も、そう遠くないかもしれません。

東京工業大学と富士通は、スマートフォンなどの基地局間通信向けの無線基幹回線をターゲットとして2020年頃の実用化を目指します。これからも両者は、快適で安全な通信環境の整備に向けて、さらなる技術開発を進めていきます。