組織を超えた情報連携が医療サービスの質を向上させる[富士通フォーラム2015 カンファレンスレポート]

[カンファレンス]これからの高齢化社会を支える地域包括ケアシステムとは。仕組みづくりと実際の連携事例に学ぶ

東京・有楽町にある東京国際フォーラムにおいて、2015年5月14日~5月15日の2日間にわたり、富士通最大のイベントである「富士通フォーラム2015東京」を開催しました。本カンファレンスでは、高齢化社会を支える地域包括ケアシステムについてのパネルディスカッションを開催しました。ここでは厚生労働省・大臣官房参事官(情報政策担当)の 鯨井佳則氏、別府市医師会・常任理事の渡部純郎氏、すぎうら医院在宅診療部部長の美川達郎氏が、地域医療のあり方やICTの有効性について意見を交換。モデレータである独立行政法人 国立病院機構 長崎川棚医療センター代謝内科・内科系診療部部長の木村博典氏も議論に加わりました。

厚生労働省は医療サービスの質向上と業務の効率化を目指し、地域医療情報連携ネットワーク事業を進めています。パネルディスカッションの冒頭、同省の鯨井氏がその現状を明らかにしました。

同省と日本医師会総合政策研究機構が2014年度に共同実施した調査によると、医療機関の間で患者の情報を共有するネットワークが全国207地域で稼働中です。この調査結果について鯨井氏は「件数は着実に増えている。ただし、ネットワークはあっても参加医療機関が少ないケースがある」と指摘した上で、医療連携ネットワークの持続可能性や相互運用性の向上のほか、小規模医療機関の参加を促す病診連携による医療情報の双方向性の確保を課題として挙げました。

マイナンバー制度への言及もありました。医療分野にマイナンバーを導入することにより、患者情報の突き合せが効率化し、医療機関同士の連携や長期的な追跡研究を促進できます。ただし、それには医療情報の電子化やデータの標準化、インフラ整備・高度な分析手法が不可欠です。そこで厚労省は、患者IDやレセプトデータといった医療情報のフォーマットや用語・コード、通信手段を国際規格に準拠して標準化しつつあると言います。

このほか鯨井氏は、患者IDやレセプトデータといった医療情報のフォーマットや用語・コード、通信手段を国際規格に準拠して標準化に取り組んでいると語りました。さらに、医療に加えて介護におけるICT活用を支援していく方向性を示しました。

最新機器で往診先を診療所に

すぎうら医院の美川氏は、在宅診療部が実践するモバイル診療を紹介しました。同部の医師はUSB型心電計や血液ガス分析装置、生化学分析装置、ポケットエコーといった最新の医療機器を携えて往診。往診先において、診療所と同等の検査を実施しています。ポータブルX線装置を用いたレントゲン撮影も実施しています。

モバイル診療の先駆者である同院が目指すのは、ケアマネジャーや訪問介護士など、地域在宅医療を担う様々な職種との連携を図れる仕組み作りです。すでに、往診時の診療情報をその場でサーバに送信し、部内の医師や連携医療機関、訪問看護師とリアルタイムに共有するシステムを構築済みです。サーバ経由で処方箋をオーダーすることもできます。今後は、ケアマネジャーや訪問介護士を連携対象にしたシステムを構築していく考えです。

病診連携で患者の不安感を拭い去る

別府市医師会の渡部氏は、地域医療情報連携ネットワーク「ゆけむり医療ネット」について述べました。別府市は2010年に同ネットを構築。高度医療機器による検査や治療を実施する基幹4病院と、主治医である診療所との情報連携に役立てています。具体的には、基幹病院が診療や検査内容、検査画像、投薬といった情報を患者の同意に基づき登録。ほかの基幹病院や診療所の医師がそれらを参照できる「地域医療連携システム」を活用中です。

ゆけむり医療ネットは、診療所の医師と訪問看護師が連携を図る「在宅ケアシステム」の基盤です。地域包括ケア実現への足掛かりとなるこのシステムでは、訪問看護師が在宅患者の状況をタブレット端末に入力。画像つきで報告する仕組みです。渡部氏は、「医師は診療所のPCで在宅患者の様子を確認できるため、外来診療と訪問診療を両立できるようになりました」と、そのメリットを話しました。「訪問看護師にとっては、主治医の都合に合わせずに報告・連絡できるため、患者への対応が迅速になる効果が出ています。その結果、患者やその家族との信頼関係を築きやすくなったという声が上がっています」(渡部氏)。

医療・介護分野でICT化は進展。しかしチーム医療には課題も

3氏がそれぞれ講演した後、パネルディスカッションがありました。モデレータである木村氏がまずテーマに選んだのは、「医療におけるICTの利用価値」です。渡部氏は、ゆけむり医療ネットを活用した“病診連携”の効果を示すこんなエピソードを披露しました。「ある患者が、かかりつけ医である渡部氏の紹介状を持って基幹病院に行ったところ、重病を告知されました。突然の告知に驚いた患者は、医師の説明が全く頭に入なかったのですが、後日ゆけむり医療ネットにアクセスし、基幹病院での診断内容を照会。治療方針について改めて確認することで、不安が和らぎました」

一方、美川氏は在宅医療を実施する立場から「検査結果や画像をPC上で見ながらその場で診断して説明できるため、患者に安心感を与えられます」と説明。今後は、ケアマネジャーや訪問介護士との情報連携を進めていく考えです。「例えば、介護スタッフが患者の写真や動画を撮影し、そのデータをサーバに登録してもらうといった使い方が考えられます。患者が普段、リラックスした状況でどのような動きをしているか、また、褥瘡(じょくそう・注)、むくみといった症状を一目で確認できるため、診療の大きな助けになります」。

(注)寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなり、皮膚の一部に傷ができてしまうこと。

次に論点となったのは、「在宅医療を支える人材をどう確保し育成するか」です。鯨井氏は、「在宅療養支援診療所に求められる要件を緩和することにより、新規参入を促進し、医師一人ひとりにかかる負担低減に厚労省として取り組んでいく」と述べました。さらに、介護人材がキャリアパスを描けるよう業務の質を評価する仕組みを構築していくという道筋も示しました。

議論は医療現場におけるマイナンバー利用にも及びました。近年、保険者間の資格異動時があった場合にも継続的にフォローするため、マイナンバーで健診データを管理しようという動きが出ています。マイナンバーを利用したこのスキームは、医療現場にも大いに役立ちます。健診データは、患者がいつ疾患を発症したのかを推定するのに役立つからです。鯨井氏は、マイナンバーの医療連携が実現する時期は必要なインフラ整備が完了する2018年以降という見通しを明らかにしました。

広範囲にわたるディスカッションを終え、木村氏は医療・介護分野でICT化は進展していることを再度強調しました。しかし一方で、「チーム医療の実現に向けてはさらなる課題も多い」と指摘して議論を結びました。

パネリスト
  • 厚生労働省
    大臣官房参事官(情報政策担当) 鯨井(くじらい)佳則 氏

  • 別府市医師会
    常任理事 渡部 純郎 氏

  • すぎうら医院
    在宅診療部部長 美川 達郎 氏

モデレータ
  • 独立行政法人 国立病院機構
    長崎川棚医療センター代謝内科
    内科系診療部部長 木村 博典 氏