IoT時代の新しいものづくりとは?(後編)

製造業の新時代「インダストリー4.0」を語る上で欠かせないのがIoT(Internet of Things)、「モノのインターネット」です。IoTの技術は私たちの住む日常世界を変えつつありますが、ものづくりの現場では目に見えて大きな変革をもたらそうとしています。現在のものづくりの現場での課題から、今後IoTによってすべてが「つながる」時代に向けて富士通ではどのような取り組みがなされているのか、前回に引き続き、永嶋寿人・ものづくりセンター センター長に語っていただきました。

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お客様はどのような課題をお持ちですか?

お客様の課題のほとんどすべてがQCDに集約されます。Qはクオリティー、Cはコスト、Dはデリバリーです。納期の順守が難しい、欠品が多い、歩留まりが上がらないなど、お客様の抱える具体的な課題は千差万別ですが、だいたいはQCDに集約されます。自動組み立ての現場では機械がちょこちょこ止まる「チョコ停」という問題がよく聞かれますが、これもその一例です。

チョコ停の場合、現場ではラインを止めていられないため、すぐに駆けつけて立ち上げるということが繰り返されます。そうすると本当の原因が分からないままになるのです。富士通の工場でもかつてチョコ停(頻発停止)が起きていました。そこで、この問題が生じる時に一体何が起きているのかを知るためにロボットによって集められたデータを「ものづくりビッグデータ」としてデータ専門家が解析して初めて、本当の原因にたどり着くことができました。データ上で確実に相関関係があるということを見いだせるかどうか、そしてその結果を現場に当てはめられるかでビッグデータを生かせるかどうかが決まるのです。

データを改善に役立てるためには、その取り方も重要です。たとえば気候や地震といった自然条件のほかに、近くを電車が通過すると影響するかどうかとか、電圧との関係など、取れるデータは際限なくあります。半導体やデバイスなどのものづくりでは、それが実際に影響していることもあります。どこまでデータを取るのか、センサーをどこに置くのかといった判断をしなければなりません。こうした取り組みは、たとえば島根のモデル工場で日々行われています。

人間が介在しないと見いだせない、解決できない課題が現場にはたくさんあるのですね。

そうです。エキスパートサービスで活躍している手練れの人達は、ビッグデータなど関係なく経験則で「分かる」のですが、こうした経験則の部分をデータからロジックを解明していくことで、やがてノウハウを蓄積して自動化も可能となると考えています。

今後は新たなものづくりソリューションサービスを提供されるそうですね。

ものづくりイノベーションを三角形で表現したこの図でご説明しましょう。設計と製造のこの2辺をIoTによって徹底的に強化した新たなサービスの提供を始めます。これからの時代は、この2辺を活用しなければ機動力のあるものづくりはできません。お客様が実際に使われる部分が上の辺となり、その部分も含めて今後はIoTを活用していくことになります。これがこれからの富士通流のものづくり、スマートものづくりであり、次世代ものづくりへの取り組みともいえます。

富士通はもともとERPや生産管理、MESおよびエネルギーマネジメントまでは手がけてきています。しかし、実際の工場の設備についてはカバーしていません。そこでそれ以上のレベル、つまりオペレーション、コントロール、フィールドレベルの各メーカーさんと連携させていただき、これらすべてを完璧につなげることで、より高度なものづくりの世界を実現していこうとしているのです。

そのためには他のメーカーさんとの協業が必須ということですね。

たとえばロボットメーカーさんと連携することで初めて、インテグレーションサービス全体を余さずご提供することが可能となります。すでに様々なロボットメーカーさんにも賛同を得て進めています。

たとえばこれまではロボットをラインに投入して自動化することは、生産準備部門があるしっかりした会社にしかできないことでした。しかし富士通がロボット連携などを提供させていただくことで、まだロボットを導入されたことのない大手企業はもちろん中堅・中小企業のお客様も含めて簡単に導入を実現できるのです。

各社で使用しているプログラミングの言語は異なりますが、これらをすべて制御できるプログラムを自動生成します。すでに言語の標準化の動きも出てきていますが、現在はGoogleのROSや産総研(独立行政法人産業技術総合研究所)のRTM、デンソー主導のORiNなどがあり、それらすべてに対応できるように進めています。

現在、富士通の研究所では自律型ロボットシステムとして、プログラムの自動生成のほかに、ロボット自身が自律的に行動する自律・協調制御という人間に近い制御について研究中です。すでに、自社の工場ラインでは実際に投入しています。

富士通はICTによってできるだけ簡単にロボットを導入できる、そして自社工場投入の成果を設計段階での3Dデータというバーチャルレベルとセットにすることで、稼働後も素早く不具合に対応できるサービスを提供していきます。

バーチャルリアリティーの技術の進歩も、今後の新しいものづくりでは重要な役割を担いそうですね。

富士通では「モノを作らないものづくり」として、コンピュータ上でのものづくりに長年取り組んできました。たとえばホログラムディスプレイzSpaceや4面立体視システムIcubeなどは、すでに社内の仮想検証のツールとして実際に活用しています。実際に目の前にあるように直接操作したり中に入っていけるようなバーチャル製品によって、試作を減らしていくことも可能となるのです。こうしたVR(Virtual Reality)の技術によって「モノを作らないものづくり」はさらに高度化されます。この部分でもすでにアメリカのベンチャーと取り組みを進めています。

今後IoTによってすべてがつながるとセキュリティ面が心配だという声もあります。

情報漏洩といったセキュリティ面で、ものづくりのデジタル化になかなか踏み切れないという声は確かに存在します。たとえば設計データをクラウドで提供するソリューションがありますが、もちろん新製品の設計情報は機密中の機密です。ですから、今のところはクラウドと言いながらも、やはりプライベートクラウドが主流です。お客様は専用クラウドの中で利用していただいています。

ただしIoTとなるとどうしても外との接点が生まれてきますから、向き合っていくべき重要な課題です。富士通はセキュリティの技術も手がけていますから、セキュリティはセットでご提供させていただくことを考えています。

日本のものづくりの世界は、今後さらに協業が進んでいきそうですね。

日本の企業がさらに連携していくことで、最適なソリューションが生まれてくるはずです。ものづくりの各領域にはビッグプレーヤーがいらっしゃって、標準化に対する考え方はさまざまです。それでも富士通が各メーカーさんたちをつないでオールジャパンでやっていくためのハブのような役割を果たせればと考えています。

「インダストリー4.0」というのは、もともと海外で言われていることであり、日本の企業のほうがそもそもよほど進んでいるというところがたくさんあります。以前は海外における製造志向が多かったのですが、現在は国内回帰の傾向にあります。単に国内に戻すことよりも、このように高度化していくことがこれからの日本のものづくりの未来です。グローバル生産自体はこれからも広がっていくと思います。世界全体の中での最適なものづくりの実現が、これらからのものづくりに必要なことです。そのためにも大企業だけではなく、中堅・中小の企業の皆さんにもより簡単にご利用いただけるサービスを提供していきたいと考えています。

やはり製造業に元気がないと、日本がシャキッとしません。製造業を盛り返すような、そのための貢献をしていきたいですね。