ビッグデータが生み出す新たな価値とは?(前編)

現在、インターネットの普及やセンシングネットワークなどテクノロジーの進化に伴って、全世界で数百テラバイト(1テラバイトは約1兆バイト)のデータが生成されるようになりました。そして、2020年には40ゼタバイト(1ゼタバイトは1兆の10億倍)にまで膨れ上がり、もはや人間が体感するのは不可能な領域に達すると言われています(典・『米IMCが調査会社米IDCに委託して行ったデジタルユニバースに関する調査報告書』)。こうしたデータはビッグデータと呼ばれ、これらを解析することで新たな価値が創出されるのではないかと世界的に注目が集まっています。膨大なデータをどのように分析して画期的なイノベーションを実現するのか。このビッグデータビジネスを牽引する、富士通 ビッグデータイニシアティブセンター 河合美香センター長とビッグデータイニシアティブセンター 兼 富士通研究所 第二ソリューション研究部 渡部勇部長のお二人に、ビッグデータの現状と将来の展望について語っていただきました。

ビッグデータというのはどのような概念なのか教えていただきたいと思います。

グーグルやアマゾンといった巨大なデータを扱う企業が台頭していることもあり、世界的にデータを活用することがビジネスに変革をもたらすという気運が高まっています。事実、あらゆるモノがインターネットを通じてつながり、モニタリングやコントロールが可能になるIoT(Internet of Things)の時代においては、これまで以上に、社会のさまざまな場面でのデータ活用が広がるでしょう。

このような、日々、社会で生み出されるデータ以外にも、ビッグデータとは言えないまでも、企業にはこれまでに蓄積された多くのデータがあり、BA(ビジネス・アナリティクス)やBI(ビジネス・インテリジェンス)などデータを活用する手法は存在しました。しかし、現在でも、大抵の場合、それらは活用されず社内に埋もれていて、企業の経営などに利用されていないことも多く見られます。このような社会や社内にあふれるデータをもう一度見直し、活用しようという社会の気運とその状態を私たちは「ビッグデータ活用」という言葉で捉えています。

商談の席でお客様とお話すると、「うちには、そんなビッグデータはありません」と回答される方がまだ多い状況です。ビッグデータの「ビッグ」という言葉を意識するあまり、「グーグルやアマゾンのような、そんな『巨大』なデータの蓄積はありませんよ」というニュアンスで、ビッグデータが語られてしまっているのです。

いずれにしても、データがどの程度「ビッグ」であるかどうかは別にして、多くの企業にとって、すでに社内にあるデータさえ活用できずに塩漬けの状態になっていることが多いのが現状です。つまり、経営者も気付いていないような貴重なデータが埋蔵されているということです。

お客様をご訪問した際に、「データはこれしかありません」と出されたものがありました。確かに、そのデータだけでは使い道があまりなさそうだったのですが、そのデータの素となる情報に着目し、それらを組み替えて分析することで、イノベーションの原資となりうる貴重なデータに化けた経験がありました。同じデータでも、誰が、どのような視点で解析するかによって、その価値は大きく変わります。これには、お客様ご自身が一番、驚かれていました。データを使って何をするのか?これが非常に重要です。

"ビッグデータ"とは何か__。その解釈は人それぞれ違います。まずは、自分たちが既に持っている社内に埋もれるデータを見直すことからスタートしてみるのが、データ活用の第一歩としては良いのではないでしょうか(渡部)。

なぜビッグデータを分析することが新たな市場の創出につながるのでしょうか?

そう遠くない日に、本当の意味での「ビッグデータ」社会が到来します。なぜなら、これまでとは比べものにならない勢いで、IoT(Internet of Things)が社会の隅々にまで浸透するからです。2013年現在、インターネットに接続されている機器は100億個と言われていまが、2020年には500億個以上になると試算されています。

今でもインターネットで買い物をすると、検索していないにも関わらず、お奨めの本や商品などが自動的にリコメンドされます。つまり、いつ、誰が、何を、いくらで買ったかという情報がデータとして集積されているのです。こうしたデータが、何十万人、何百万人と集まればデータの意味合いはまったく違ってきます。ある商品に関してのトレンドを世代、性別、職種など毎に分析することで、個人が次に買いたいものが予測できます。膨大なグループデータを分析することで「個」にリーチできるのです。

しかし、こうした需要予測をたてることの重要な点は、それによって実際に売上が上がったかどうか、業績が上がったかどうか、です。これまでもデータから需要を予測する試みはあったのですが、予測は未来事象なので、明確な結果を出せたり、時にははずれたりという状況であることは否めません。より確立高く予測をするということになります。

需要を予測するということは、発注をどうする、生産をどうするといった意思決定となり、その分野に精通する現場のスペシャリストによって行われてきました。現場のスペシャリストには長年の「経験と勘」に基づいた独自の需要予測をたてるスキルがあります。重要なのは「人」と「人の持つ経験」です。

そこで、こうした特殊な技能を持ったスペシャリストが何年もかけて積み重ねてきた経験値をデータに置き換えることはできないか、という取り組みが様々な分野で始まっています。これが成功すれば、実はそれほど経験のない普通の人でも、スペシャリストに近いレベルの仕事ができるようになります。

これまで数字などには決して置き換えることのできなかった「経験と勘」を、データを使って誰にも分かるように「可視化」する。そうすることで、ビッグデータは、需要予測や、工業製品の故障予測の分野への応用など「経験と勘」を裏付ける確証にもつながり、ビジネスの予測精度が上がっていきます。

こんな事例があります。日本各地に張り巡らされたトンネルなどの強度検査は、最終的に技術者の手作業によって支えられています。彼らは金槌のような道具で線路のレール部分を叩き、その音を聞いて強度や耐久性を計ります。そこで、作業を映像と音声に残し、データとして集積し分析することで、トンネルの強度や耐久性をデータという側面から予想するという試みが始まっています。集積されるデータの量や質を向上させることができれば、将来的には技術者の方々の作業効率や精度向上の変革も可能性が出てきます。

これまでも、データを集積するためのサンプル調査のようなことはやってきたのですが、残念ながらそこから導き出せたのは「平均値」や「必要時のデータ値」でした。しかし、ビッグデータは、すべての作業員を対象とすることが可能なので、平均値だけでなく、異常値や部品の故障傾向、その技術者の仕事のクセなどが数字で表すことができるようになります。また、このようにビッグデータがビジネスの現場で活用されるようになった理由として、データを集積して蓄積するといったICTの急速な技術進化とも関係していると言えます(河合)。

なぜ今、ビッグデータが世界的に注目されているのかをお聞きしたいと思います。

ビッグデータを理解する上で、「バラエティ(Variety)」「ボリューム(Volume)」「ベロシティ(Velocity)」の頭文字から命名された「3V」という概念がとても重要になります。

「バラエティ(Variety)」とは文字通り、多種多様なデータを組み合せるということです。スーパーマーケットで何か特定の商品の売り上げを予測するときに、過去の売り上げ情報だけで予測するのと、近隣のライバル店がどういうチラシを配布しているか、その地域の人口構成はどうなっているかなど、その時点で入手可能な様々な種類の外部データと合わせて分析するのとでは、予測精度が大きく変わってきます。

「ボリューム(Volume)」とは、体積や物量を意味する英単語ですが、ここでは、データの容量や情報量のことを指します。データを蓄積するハードウェア(記憶媒体)の容量そのものが、ここ数年で格段に広がり、価格的にも安くなったことで、そこに保存できる情報量が圧倒的に増加したのです。

「ベロシティ(Velocity)」はデータを取得する速度や頻度です。たとえば、一日の気温、日照時間、降水量などの観測データをもとに発表される気象情報は、これまで平均20キロメートル間隔で10分置きに行われてきました。しかし、最新の精密レーダーは平均250メートル間隔で1分置きの観測を可能にしました。20キロ四方と250メートル四方を比べると情報量は1万倍も違い、さらに時間も10分から1分と10倍になっているので、この二つのデータは10万倍の差があることになります。こうしたデータを取得する速度や頻度が向上したことで、都心のゲリラ豪雨など、短時間で局所的に発生する異常気象にも対応できるようになりました。

この「3V」の概念を理解すると、ビッグデータとは、単に「大きい」という意味だけではないことが分かります。こうした技術によって、昔ながらの職人の仕事の領域が浸食されると批判する人もいますが、これまでは目に見えなかった「経験と勘」を「可視化」する重要性をもっとも理解し訴えているのは、現場で働くスペシャリストたちなんですね。私たちの社会に飛び交う情報量は増える一方ですが、膨大な量のデータを解析することで、物事をこれまで以上に細かく最適化できるのが、ビッグデータの可能性だと思っています(渡部)。

ビッグデータの概念が理解できたところで、後半では、ビッグデータを活用する富士通の取り組みをはじめ、ビッグデータを社会のイノベーションにつなげるための課題についてお二人に語っていただきます。